ねた

▼2020/09/19:決戦前夜

ティアマトと対峙前夜に緊張するマスターを宥めるマーリンの話

リハビリがてらに書いたので内容などはお察し下さい


どこまでも澄み切った空に、煌々と輝く星。
夜明けまではまだまだ時間があるというのに、寝付いてから間を置かず瞼を開いた少女の耳をつんざいたのは崖下に群がる魔獣の呻き声だった。

時折、呻き声とは異なる音が下から響いてきて、壁の上から身を乗り出した彼女の腰と目の上に誰かの腕が回される。

「明日は朝から動き回る事になる。今夜はゆっくり休んでおかないといけないよ」
「マーリン、さん」
彼女が身を乗り出そうとしていた壁に背を向け、そのまま腰を下ろしたマーリンに倣い彼女も再び腰を下ろす。
先程の音が死した兵士の骨を砕き、咀嚼する音だと少女が気付かずに済んで良かったと胸を撫で下ろしているマーリンの質素ながらも肌触りのいい布に顔を埋めている彼女の指がカタカタと震えているのを見逃すほどこの男は愚かではない。

「変な時間に目が覚めて心細かったのでつい……。大分気が楽になりました」
暗がりでも分かるほど血の気の引いた顔で何を言うのかと花の魔術師が眉を寄せるものだから、彼女はいきなり抱き着いた事がよほど嫌だったに違いないと急いでマーリンから距離を取ろうと足先に力を入れた。

「ここには私しか居ないんだ。遠慮なく甘えなさい」
腰に回されたままになっていた腕の力が強まり、マーリンの胸元に鼻を押し付けるようになった少女は規則正しいリズムを刻む男の心音を子守唄に舟を漕ぎ始める。

じきに白み始めた月が地平線の彼方へ姿を消し、反対側から顔を見せた太陽が赤赤と大地を血の色に染め上げていくのをマーリンはマスターを抱きしめたまま険しい表情で見つめていた。

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極夜