▼2016/12/14:赤弓SS
彼女の未来を知る赤弓と捻くれマスターの話「…世界を敵に回しても、ね」
最近話題の洋画の下に表示された字幕に彼女の興が一気に冷めたようだ。
独り言のように言葉を漏らした彼女はおもむろに早送りしたと思えばハッと鼻で笑った。
「最初からこの登場人物を信じてなかった、と言いたげだな」
「自分に酔ってるとしか思えない台詞でしょ?現実と対面して"世界を敵に回す"ことの真意を前に真っ先に離れていったじゃない」
愛する人から別れを告げられ涙を零し崩れ落ちるヒロインを温度の感じない瞳に映しながら電源を落とす。
ー全米が泣いた 観客満足率98%!ーとでかでかと書かれたそれをこの皮肉屋偏屈マスターが借りるとは珍しいなと思っていたが…。
「あの後裏切ったバカは死んでヒロインの事を最後まで信じて連れ添っていた気弱男が急成長。2人は結ばれるんだって」
よく見慣れた、いや聞き慣れたテンプレート展開だねアーチャー?再び鼻で笑い少女は私を見つめた。
「彼の思い描く"世界"とこの女性を襲う"世界"の規模が違っていたんだろう。君の言う通り彼は少々自分に酔っていると感じたが」
「世界が違う、か…まあ私がそういうものから狙われるなんて万に一つもないしね?世界から狙われるなんてどんな大罪を犯したのかって話よ」
ドラマや映画の内容にまで現実性(リアリティ)を求めるのは如何なものか。とは口が避けても言えない。
「…1滴も血の繋がりのない人の為に命を張れたり死んでもいいって思える人は綺麗な心の持ち主なんだろうね、きっと」
「自分とは無縁で到底理解し難いと言いたげだな」
「どれだけ言葉を飾り付けても現実を前に向き合ったらやっぱり自分が一番可愛いし保身に走るものなんだよ。まして生死に関わるならね」
私がそういう人間だから。低く吐き出された声からはこれ以上にない己への憎悪を感じた。
誰かの為に死んでもいいと言い切れる覚悟と信念。そして清廉潔白な心。
少女は自分本位な己と対照的な先の登場人物が眩しく羨ましかっただけなのだ。
ほんの僅かな時間でも愛しい人のために命を賭した行動が。
「ごめんねアーチャー。こんな偏屈な考えしか出来ない奴がマスターで」
「君の考え全てが否定できるものでもない。それにーー」
捻くれネジ曲がりマスターの性格はよく把握しているので安心したまえと喉元まで出かかった言葉を飲み込み咳払いをひとつ。
"世界中の人を敵に回してでも"と嘲笑していた人間がいつかの未来で"世界"を敵に回した男にその言葉を吐き、そして散って行ったと眼前の少女は夢にも思わないだろう。
「世界中の人間が敵に回ろうと私は君を全身全霊で守るだけだ」
「…優しいね貴方は。ありがとう」
ひねくれ天邪鬼マスターは遠慮がちに口角を上げてマグカップのコーヒーを飲み干した。