ねた

▼2016/12/19:寸歩不離

ギルガメッシュSS

「自分の人生の中で一番の幸福はギルガメッシュ様が生きている時代に生まれることが出来て、こうして言葉が交わせる事だと思います」
「…今更になってやっとその事に気付いたのか」
「ギルガメッシュ様と違ってわたしは普通の人間ですから。気が付くのが遅くてごめんなさい」
嫌味なのか天然なのかやけに普通の人間部分を強調する女の頬を抓り上げてやった。
(思い切りしなかっただけ我偉い。そして慈悲深い)

「わたしの寿命はたかが知れているしいつ死んでもおかしくないですから、伝えられるうちに伝えておこうと考え至った限りです。来世でも来来世でも貴方を探し出します、再び御目に掛かること叶いましたらその時は……」
その言葉を残した数日後、女は流行病に罹り短い生涯を終えた。
今まで何百、何千の死を見てきた自分らしくないじくじくとした痛みに心が張り裂けそうだ。
その事を知ることも、我の顔を見ることも二度と叶わないというのに女の顔は病で死んだと思えないほどに安らかなものであった。
**

「何も変わり映えせぬ眇眇たる世界よ」
平坦を絵に描いたような世界を前にあくびを噛み締める。
一向に会いに来ないあやつは一体どこで油を売っているのか。自ら立てた誓いだけは必ず守る、それだけが取り柄の人間であったろうに。
一陣の風がジャケットを揺らす、それに乗って鼓膜に響く聞き慣れた、酷く懐かしい女の声。

「わたしが約束を果たすのを首を長くして待っていて下さったのですね」
「貴様の為にここに現れ出たわけではない。それにしても随分遅いお出ましだな」
「貴方様ならそう仰ると思っておりましたとも。冥界の番人に気に入られて中々離していただけなかったのです、お待たせして申し訳ございません」
昔と同じ相貌で、眦に涙を浮かばせ声を震わせながら言葉を紡ぐ彼女を強引に腕の中に引き寄せる。

「これから先はずっと、ギルガメッシュ様の側に居ります。わたしの全ては貴方様の為に」
「好きにするがよい……約束を守った事だけは褒めてやる」
はい、と何度も頷いて泣き笑う彼女の涙を拭う。
色褪せ、擦り切れかけていた約束に色彩が戻った瞬間であった。

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極夜