ねた

▼2017/03/10:エミヤSS

絆を深めていくとその英霊が歩んできた道(生前の姿)を夢で見るようになったりしないかなーという妄想
(絆Maxでその鯖の最期や他人に知られたくない過去を見ちゃう感じで)
エミヤの過去話なので当然暗い
大丈夫な方のみ追記からどうぞ

ただ広い平地に"私"はいた。
高所から見渡す大地にはどこまでも屍が鎮座している。
誰も彼も急所を矢で射抜かれ息絶えている。ああ、なんて惨たらしい空間。
鼻腔は周囲に漂う鉄の匂いですっかり麻痺してしまった。屍の肉を漁る鴉のカアという鳴き声が無人の空間に響く。
耳障りな羽音で"私"はようやっと上体を起こした。汗ばむ全身の不快感よりも遥かに鼻奥にこびり付いた血の匂いの方が不快でどうしようもなかった。

よく知った(いいや、私は彼を知らない)人が苦悶に喘いでいる。
末恐ろしいものに救いを求める彼の体以上に、心と精神が摩耗し悲鳴を上げていた。
青年の切な願いに黙していた物体が淡い光を放つ。
その光が徐々に強くなり、瞼の裏に鈍痛を覚えた私は再び体を起こした。
あれから1時間も経過していない。今日は本当に夢見が悪いと髪を掻き毟りシーツを頭から被った。

カツンカツンと靴音を鳴らし男は部屋を目指す。
足を止めた檻の中に居たのは浅黒い肌をした体躯のよい青年。
男の訪問に青年は口元を固く結ぶと今まで腰を下ろしていた質素なベッドから静かに立ち上がった。
何も言葉を交わさないまま靴音だけが虚しく廊下に響く。
男の靴音が再び止んだ。青年はその先に一歩、また一歩と歩みを進める。
青年の目線の先にあるものは1本の円状の縄。

「何か言い残すことはあるか」
「いや、なにも」
感情の伴わない声で返事をした青年が綱を握る。そしてそのままーーー。


「ター…聞こえるかマスター!!」
白銀の髪を揺らし赤の外套に身を包んだ弓兵に身体を揺さぶられている。
窓から差し込む月明かりは少しずつ弱まってきているが、起きるにはまだ早すぎる時間帯だ。

「夜更けに無理矢理起こす形になってすまない。君の魔力の流れがどこか妙だったので駆けつけてみたら魘されて…マスター?」
悪夢と言うにも生温い修羅の夢。その出来事全てが貴方が辿ってきた道なのか。
心が壊死していくことに目を背け、逃げたいと震える脚を無理矢理前に動かし、その先に至ったのはーーー。

「ホットミルクでも入れてこよう。君と、私の分をね。だから少しだけ離れてくれないか?」
胸元に飛び込んできたマスターに言い聞かせるように優しく掛けた言葉に頭を振った少女の手は小刻みに震えていた。
彼女が何を見たのか薄らに理解した弓兵は瞳を伏せ、少女の背中を大きな手で撫で続けた。

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極夜