英霊にラッキーアイテムは必要か

「おはよう梓。今日も朝からいい天気だねぇ」
 人の良さそうな笑顔と爽やかな声が揃うとこうも何も言えなくなってしまう自分の単純さに朝から溜め息が出た。
 天から二物以上の物を賜った男はそんな梓に心底不思議そうな、そして奇っ怪だといいたそうな顔をして彼女がベッドから這い出てくる気配がないのを察するなり勢いよくタオルケットを剥いでしまった!
「きゃっ!? 朝から顔を見せに来るなんて、何かあった?」
「理由がないと梓の部屋に来てはいけないかい?」
「そういうわけじゃないけど……」
 眉尻を下げて少しでも悲しげな顔をされると強く言い返せないと把握した上で敢えてしている事を知らない梓に知れず一瞬ニマリとした青年──マーリンは奪っていたタオルケットを畳んで置くとベッドサイドで足をぶらつかせている梓の隣に腰を下ろすと急に神妙な顔をして、彼女の瞳を真正面から捉えた。
「なら良かった。さっきカルデアここに居る
魔術師キャスター達が今日一日の運勢を占っていてね」
「は、はあ……」
 占いと私の部屋の訪問に一体何の関係があるんだろうという考えを如実に顔に出している梓にマーリンはふふんと得意げに鼻を鳴らす。
「私の運勢も見てもらったら今日はキミと居るのが良い。ラッキーアイテムは梓ちゃんだと言われたのさ」
「それを信じて朝から私の部屋に来たと?」
 本気で? と瞳で訴えかけてくる少女に首肯すると二度目の溜め息が室内に反響した。
「……そんな理由作らなくたって一緒に居るのになぁ」
「ん? 何か言ったかいマスター」
「い、いや何も! 今日特に用事もないしマーリンと一緒に居るのもいいかなーって!」
 わざとらしい聞こえないフリにも気が付かずに耳まで真っ赤にした梓にまた笑みを零しながらマーリンはおもむろに彼女から背を向ける。
「着替えを見られたいと言うのなら私は此処に居るけどね」
「そ、そそそ、そんな」
「男の前でそんな愛らしい顔をしてはいけないよ。もっと梓をからかいたくなってしまう」
 細くそれていてしっかりとした男性らしい指先で梓の頬と耳を撫でたマーリンは満足そうに今度こそ扉の向こう側へ消えた。女の子が好きと言っている男の言葉を容易に聞き流せないの惚れた弱みというものに違いない。

極夜