ふたりだけの時間

夕飯の買い物に行ってくると一人で玄関を潜った士郎を見送り、さて如何にして時間を潰そうかと思案を巡らせていると玄関先からよく知った気配を感じ取った。
直後鳴り響くインターホンに返事を返しながら引き戸を開くと隣に住む少女の姿。

「こんにちはセイバー」
「こんにちは梓。折角来ていただいて申し訳ないのですが、士郎は今外出していて…」
私の言葉を遮り違うのと漏らした梓の手には白い紙袋。

「シフォンケーキ焼いてきたの。セイバー用にマフィンも作ってきちゃった」
「私用に…ですか?」
「うん!セイバーの口に合うと良いのだけど」
己の為に作ったと言われて喜ばない者など居るはずもないだろうに。それより、なにより。

「貴女の作る菓子は大変美味だと士郎からよく聞き及んでいます。お茶くらいなら出せますし上がっていって下さい」
「え、いいよ!コレ渡したら帰るつもりだったし、士郎くんが居ないなら尚更…」
「家に誰も居なくて暇を持て余していたところなのです。梓に特別な用事がないならどうか私の話し相手になっていただけませんか?」
う…と呻いた後彼女が必ず首を縦に振ると分かったうえでこんな言い方をしたのだから私も人が悪い。
お邪魔します…と言いながら戸を潜る梓に気付かれないよう密かに口角を緩めた。

「紅茶で良いでしょうか?ミルクティーにして持ってきますね、お好きだったでしょう?」
「セイバーは私の好みをよく覚えてるね?ちょっと恥ずかしいけど、嬉しい」
照れ臭そうに上目遣いで微笑みかけてくる梓に私も笑みを返しながら早速準備に取り掛かる。
彼が帰ってくるまでの僅かな時間。
2人しか存在しない空間というだけでこんなに胸が踊るのだから私も単純なものだ。

極夜