セイバー
「私の名前知ってる?」
宝石のエメラルドを連想させる美しい目を一瞬瞬かせた後彼女は唇を尖らせご機嫌ナナメといった顔になる。
「余の奏者の名だ、知っておらぬわけがなかろう!…梓」
次いで零れた音に思わず笑みが漏れる。そんな私を彼女はさも不思議そうな顔で見ている。
「良かったぁ。いつも私のこと奏者って呼ぶから知らないのかと思ってたの」
「そなたの名を呼ぶのが恥ずかし…こら笑うでない!」
本当にこの男装の麗人は愛らしい。
いつもこちらを愛い奴など愛でる貴女の方が可愛いではないか…と浮かんだ考えは心に留めておく。
「いつもありがとうねセイバー…いやネロ」
真名を呼ばれた彼女は幸福さを柔らかい表情に含ませながら再び私の名を呼んだ。
紅茶
「アーチャーさんアーチャーさん1つお願いを…待てアーチャー霊体化しようとするな、令呪使うぞ」
「……どんな願いかなマスター?」
面倒だという空気を全身からびしびしを飛ばしながらも向き直ってくれる彼はやはり優しい。この調子なら私の"お願い事"も叶えてくれるかもしれない。
「(しかし素晴らしく嫌そうな顔だこと)別にアーチャーに自害してとか言うわけでもないし顔を顰めないでよ。ただ一度でいいから私の事名前で呼んで欲しいなーって」
「君は私のマスターだ。呼び方に関して特に不備はないだろう?」
「そ!う!だ!け!ど!(あの世界の貴方は彼女の事を名前で呼んでいたし少しくらい良いじゃない!)私にも親が付けてくれた自慢の名前があるので!)」
「むくれるとその大したことのない顔がより凄惨さを増すぞ」
口の減らないサーヴァントだ。
私が下手に出ていたら皮肉たっぷりな言葉を並べて…!
あと、顔の事は自分でも認識済みだから痛くも痒くもないわ!
「…気が変わった。私の条件を飲むなら君の事を以後名前で呼んでも構わない」
「マスターチェンジをご所望ですかアーチャー氏。それなら即却下です」
「何からそんな考えに至った。本当に君の思考には突拍子だな」
それはそれは長い脚を組み替えながら(いつ見ても羨ましいなチクショウ!)彼は微かに口元を緩めた。
「2人きりの時は俺の事を真名で呼ぶ。これを飲むなら…」
「OK。改めてよろしく、無銘」
決断の早さもそれを飲む事も分かっていた彼は真名を呼ばれた事にも特別驚いた所作をすることも無く肩を竦めた。
……というか君、私の名呼んでないぞ。
ギルガメッシュ
「我が令呪を持って命ーー痛っ!ちょっとギル痛い痛い!」
「その貧相な身をハリネズミにされなかっただけ有難いと思え雑種」
理不尽で相変わらず傲岸不遜な王様だと再認識し、黄金の刀身が食い込み血玉滲む首筋を撫でながらギルガメッシュを睨みつける。いつか必ずやりしてやるから覚えてろ慢心半裸王め。
「して梓よ。貴様は令呪の力によって我に何をさせようとした」
「…ギルガメッシュに私の名前を呼ばせるように、だけど」
優雅にワインを呷っていた王の顔が一瞬だけ崩れそれは可愛らしいものになった。
中々レアな物を見れたと内心ほくそ笑む私に英雄王ことギルガメッシュは豪快な高笑いを響かせた後、下らんと吐き捨てた。ですよねー。
「貴様の呼び名など雑種で十分であろう」
「うわあ本当腹立つ」
大分雑種呼びに慣れたといえ私にそういう趣好も性癖もないし、理不尽すぎる物言いやら何やらで日々ダメージが蓄積していっているのです。口に出したところで彼の王の前では無意味と分かりきっているし黙っておくけどねハハッ!
「…不満点がひとつもない、完璧な指揮が出来るようになったのであれば呼び名を改めてやらん事もない」
…どういう風の吹き回しだ。あの王がそのような約束じみた発言をするなど。明日は私に剣の雨が降るのか……。
「ところで何でギルは私にのしかかっているのかな?」
「首から垂れ落ちる血を舐めとってやろうとしているだけよ。期待したか梓」
口を歪め首を舐めるギルガメッシュの何と艶やかな事か。
こうして黙してさえしていれば整った顔立ちが遺憾なく発揮されるのに、と考えながらその顔に全身全霊の力を込めた頭突きを食らわせておいた。