甘美な絶望が麾く

CCC次元で英雄王のマスター
やや狂気じてるギル様

真っ黒に塗りつぶされた空間でもその人は目が痛くなるほどに輝いていた。
頭のてっぺんから爪先までの金、黄金色のカラーリング。
全くもって目に優しくない配色だと呑気に考えている私の阿呆さ具合に頭の片隅で誰かが嘆息する姿が浮かんだ。

ランサーもといエリザと初めて対峙したあの時、彼の王が己が后(候補の女性)の素晴らしさを挙げていた。
見目形は知り得ないもののあの唯我独尊な英雄王が如何に凛として気高く、美しい女性なのかと語るものだからそれとなく私の中で人物像をイメージし、こんな英霊に想いを寄せられる彼女を本心から哀れんだ。
…同時に大した誇りも矜持も持ち合わせない私だがその女性のように誰の瞳を通しても恥じない生き方をしよう、と強く心に誓ったのを今も鮮明に覚えている。

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パンチラ、パンモロこの際どうでもいい。羞恥をかなぐり捨て全速で旧校舎の廊下を駆け抜ける。
早くしなければ全身金色甲冑の我様何様英雄王様に捕まり、私の生涯は幕を下ろしてしまう。
扉を開け放ち教室に身を捩じ込ませた梓はそこで漸く一室の異質な…息苦しさすら覚える重々しい空気に体を竦め、喉をひくつかせた。

「鬼事の真似事は楽しめたか雑種」
「ギル、ガメッシュ」
格好こそいつもの黄金鎧なれど彼から放たれる威圧感と達観しきった緋の目は健在だ。
この場から直ちに逃げよと警鐘鳴らす脳に反して手足は梃でも動かず、震えの走る脚はさながら生まれたての小鹿のよう。

「梓の命は我の物と以前言ったな?これがどういう意味か貴様自身よく分かっていよう」
「それは…」
彼と言葉を交わす代償に失った令呪、表の聖杯戦争に骨灰も興味を示さないギルガメッシュ。…これらが示す未来は"私"という一個体の消滅。
この世界から無事表側に出られたとして令呪もサーヴァントも有しない魔術師の存在をムーンセルは絶対に許さないだろう。
この傲慢な王は他者から令呪を奪い、新たなサーヴァントを使役すれば良い話ではないかと言っていたが私はそこまでして生き延びたいとは思わない。
迷い、奔走した先に待つ未来がそれだというのならば私は静かに受け入れよう。
生徒会メンバーと帰還を果たす為に今日まで多くの別れと向き合い時に涙しながらも歩みは止めず、我武者羅に生きてきた。

…そんな決して綺麗と形容出来ない雑種の生き方が何故かこの英雄王のお気に召したらしい。
冷たい扉に背を預け身を固くする私を見下し笑みを携え、距離を詰めるギルガメッシュは獲物を追い詰めた肉食獣に近い。
両手で梓の顔を挟み退路を絶った王は歪んだ笑みを深め、それに負けじと梓は気丈に(或いはそれを装い)王の緋を睨み上げる。

「その身が朽ちる運命は覆らぬのだ。命だけでなく、その身全て我に委ねてしまえば楽になるぞ?」
片手が顎を捉える。目先に迫るギルガメッシュの精悍な顔に瞬きひとつと出来ない。

「足掻いたところで何もかも徒労よ」
いつもに増して低い声で囁いた男は冷めた目で睥睨している。
梓は固く閉ざしていていた翡翠の瞳を開け放ち、そのままギルガメッシュの手を振り払った。

「ギルガメッシュは私の行く末を見守るのでしょう?私はそう簡単にリタイアもしなければ、貴方に堕ちもしない」
…一瞬、本当に一瞬だけ面持ちを崩した王は肩を揺らし一言、満足げにそうかと零すと姿を消した。

ー脆い虚勢がいつ剥がれ落ち我に縋るか…我はいつでも歓迎してやるぞ梓よー
消え際残された言葉が現実になるか否か誰も知る由はなく、1人残された教室で少女の溜めに溜まった長い溜息が響いた。

極夜