よい弄り対象を得た

「やあ梓久しぶりだね!元気にしていたかい?」
「ご無沙汰ですネ、マーリンさん」
色素の薄い長髪を靡かせ梓を捕らえようと伸びる腕を全力で避けながら花の魔術師と言葉を交わす。

「相変わらず君は異性に対する免疫が低いようだね。…逃げ惑う君を追うのはあの世界でも楽しかったなぁ」
「私の性分を理解したうえであんな追い回してたんですか!?そうなら相当人が悪いです、サイテーで…きゃっ!」
「梓は丁度いいサイズだよね。抱き心地といい私との身長差といい」
マーリンの腕の中に収まり頬を赤らめている梓が思い起こすのはまだ記憶に新しい北米とバビロニアでの日々。

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北米の大地で困難を極めていた折に姿を見せ、助け舟を出してくれたのが彼との初対面だった。
あの時のお礼を言おうにもマーリンという名以外何も分からず無常に流れ行く日々とレイシフトを繰り返すこと数回。
木々の生い茂る土地で生命の危機に晒されていた時、彼はゆったりとした足取りで現れた。

「こうしてゆっくりと言葉を交わすのは初めてだね」
「私、ずっと貴方にお礼が言いたかったんです!」
あの時彼の力添えがなければクーフーリンオルタの手で私達は朽ち果てていた。
「大したことはしていないよ」と頭を掻くマーリンの手を掴んで梓は真正面から向き合う。

「マーリンさんのお陰で今の私達があるんです!あの時は本当にありがとうございました」
「異性に対して免疫が低めな梓さんが自分から男性の手を掴んで視線を合わせるなんて、珍しいですね」
「え…あっ!?違うの立香君!こ、これは感謝の気持ちを伝えようと無意識にマーリンさんの手を掴んでしまっていただけで…!!」
目の前の男の口端が釣り上がりニタリと意地の悪そうな笑顔に豹変する。
嫌な予感を察知した梓がリアクションを起こすより早く、マーリンは梓の腕を引くとそのまま自分の腕に少女を収めてしまった。

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「顔、真っ赤になってるね。可愛いよ梓」
「……耳元で喋るのは、やめて下さい」
それはそれは楽しそうに笑う花の魔術師をじとりと睨みあげる梓の視線など気にもとめないというようにマーリンは腕の力を強めた。

極夜