嫉妬のちバニラ

……最近、いつにも増してギルが私の事を構ってくれない。彼がセイバー改めアルトリアに対して熱い視線を送っていることも重々に知っている。
美しいものに心惹かれ、目を奪われるのは当然のことであり私自身ギルガメッシュという1人の英霊に惹かれ目で追っているからこそ彼の視線をかっさらっているアルトリアに対して醜い感情を抱き、そんな自分に吐き気を催してしまうのだ。

「だからといってここまで放置する事もないよね!私だって万能人間じゃないんだから構ってもらえないと寂しいし、嫉妬もするんだから!!」
ベッドに横たわりギルの私服(黒のジャケット)を抱きしめながらぶつぶつと恨み言のように内に溜まった感情を吐き捨てる。

「騎士王様なんて偉大な英霊と肩を並べるのも烏滸がましいし、絶対敵わないと分かっているからこの感情自体無意味だとは思うけど〜!」
「梓よ、その胸の内を何故当人の前で吐露しない」
「こっちの気持ちをある程度汲み取ってくれる英霊ひとなら言ってるよ!傍若無人な塊のギルが私の意見な…んて……」
フンッと鼻を鳴らし私を見下す王が、そこに居た。
……待って、本当に待って。いつから貴方はここに居たのですか?そして私の腕の中にあるジャケットを見て再度鼻で笑うのはやめていただけませんか?
私の心にとても効くし、何より視線が痛いです。

「日々励む雑種へ、だ。有難く受け取るがよい」
「(ギルから贈り物なんて珍しい事もあるものだなぁ…)今開けてもいい?」
「好きにせよ。それはもう梓の物だ」
梱包の紙を丁寧に剥ぐと細長く白い箱が姿を見せる。
何故ギルが私にこのような物をプレゼントしてくれるのか真意を理解出来ないまま、贈られた香水を箱から取り出す。

「外箱だけじゃなく瓶も可愛いし、バニラの甘い香りも素敵…」
「我自ら他の女共に贈り物のアドバイスを聞いて回ったのだ。もっと喜んでも構わぬぞ」
「私の為にわざわざ!?…ありがとう凄く、嬉しい」
「……いつまで我の服を抱きしめているつもりだ。中身がない物を抱いても何も満たされぬであろう?来るがよい、今回は特別に許す」
しわくちゃになってしまったギルの上着と香水をベッドの隅に置いていつになく優しい眼差しを向けているギルに思い切り抱きついた。
鼻腔を擽るバニラの香りが今まで燻っていたどす黒い感情を全て洗い流し、その甘い匂いに心が満たされていた。

(セイバーに嫉妬する)

極夜