同族愛好

薄らEXTRA CCCの描写があります

酷く青ざめた女性職員が何故だか気になってしまって、気が付くとマーリンは彼女に声を掛けていた。

「ヒッ!?あ、貴方は花の魔術師……」
「浮かない顔をしているのが気になってね。私で良ければ胸のうちに秘めた思いを聞かせてくれないかな?」
細められた紫紺色の瞳に見つめられた女性職員は首を縦に振ると視線を床に落とした。

「どこから来たとも分からない、更に素性も割れない紅月梓という少女に貴方は気味の悪さを覚えたことはありませんか?」
声を潜め絞り出された言葉にマーリンは小さく息を呑んだ。

「藤丸立花と何もかもが真逆なのが実に薄気味悪くて。天賦の才と今日まで身につけてきた知識を持ってしても特異点で何が起こるかなんて分からない、生命を脅かされる恐怖心を少なからず抱くものだと思うんです。だけどあの子からはそういうものが一切感じられない。従えているのが人類最古の王だからかもしれませんが……やはり彼女は異常です」
紫紺の瞳を伏せたマーリンはいつだったか塔の上から初めて梓を見つけた日を思い出していた。

何も分からないまま選定の間に召喚され、静かに涙を流す梓の口から零れた"生きたい"という切実な願い。それに応えるように弓を番え姿を現した赤い外套を纏う英霊。
これは面白いものを見つけた、と口角が緩んでいく。
それから彼は来る日も来る日も紅月梓の姿を塔から見守り続けた。
月の裏側に落とされる間際に金色の王を召喚し、新たなパートナーとして従えるようになった瞬間。
顔見知りの人間と対峙する彼女を叱咤するギルガメッシュから紡がれる力強い鼓舞に大きく頷き、前を見据える強い意思を秘めたエメラルドグリーンの瞳。
己の因果を知り、苦々しい表情を浮かべギルガメッシュの胸板に縋り付く姿。
──それら全てを胸に抱き込んで再び飛ばされた異界の地。
彼女の喜び、苦悶、憤怒、戸惑い、全てを見てきた男はそれを瞼の裏にちらつかせながら静かにそうだねと返した。

「怒らないのですか?仮にも貴方のマスターでしょう」
「私が怒ったところで貴女の気持ちは変わりはしないだろう?それに人間ならそういう感情のひとつやふたつ抱いて当然だと思うよ、少なくとも私はね」
人間と夢魔の混血と何処からか聞き及んだ職員が自身を異端と畏怖の眼差しで見ているとよく知っている、だからこそ眼前の女性が気持ちが分からなくもないのだ。

「(私に向けられている感情と君に向けられる感情が酷く似通っていて嬉しい……なんて聞いたら君は何と言うだろう)」
梓から同族の匂いを感じ取ったマーリンの唇は緩く吊り上がっていた。
同族の良さは同族にしか分からないし、それでいいと少なくともこの男は思っている。
マーリンから怒りの感情をぶつけられなかった女職員は胸を撫で下ろした後、この事は内密にと頭を下げて足早に去っていった。

「今日はいつになくご機嫌だね。可愛い女の子でも居た?」
「君と私は存外近しい存在なんだなと思ってね」
「私とマーリンが?……どこが似てるかな」
頭を抱え本格的に悩み始めてしまった梓を抱き寄せて有無を言わさず胸元に押し付ける。
彼女の良さを知っている人間は一人でも少ない方がいい。更に欲を出すなら己だけで構わないと腕の力を強めながら花の魔術師は、そう思っていた。

極夜