主役は遅れて参上するもの

「(皆して何を隠してるのかなぁ…)」
英霊達に視線を投げると即座に逸らされるなったのは、いつになくよそよそしくなったのはいつからか。
藤丸立香と肩を並べてその事を話題に出しながらいつもの扉を開いた。

「せーの……おめでとう!!」
『わぁっ!?』
出迎えるのはいつもの2人と体調不良を理由に今日のレイシフトを断ってきたマシュ。
尻餅を着きそうになった梓を支えたのは長年の付き合いになる金色のサーヴァントだった。

「ありがとギル。それよりおめでとうっていうのは…?」
「今日という記念日を忘れてしまっているとは悲しい……立香くんは分かるかい?」
「い、いえ……」
「ふふーんなるほど。まあこういう事もあるんじゃないかと予測はしていたさ!とりあえず君達は私室に戻ってドレスアップしておいで!みんな待っているからね!」
ダヴィンチから"みんな"と言われてこのカルデアに帰還してからただ1人の英霊とすらすれ違っていない事に今やっと疑問を抱く。
先まで梓の後ろに待機していたギルガメッシュも気付けば姿を消してしまっているではないか。

「時間は無限では無いからね。急いだ急いだ」
ダヴィンチに背を押され半ば強制的に私室へ続く廊下に放り出された。
何処からか漂ってくる香ばしい匂いに胸のときめきを隠しきれず、しかし本当に今日が何の記念日だったのか思い出せずに梓達は靴音を鳴らしながらアレでもないコレでもないと意見を出し合っていた。

「それじゃあ、また後で」
手を振って部屋の奥に消えた立香に別れを告げた梓は目と鼻の先にまで迫った私室の扉を潜った。
行く前と何も代わり映えのしない、がらんとしたシンプルな私室と場違いなグラデーションドレスがそこにあった。
胸元から裾にかけて淡い黄色から爽やかな青色に姿を変えるドレスの美しさにドレスを選んだ人のセンスが伺えてほう…と溜息が漏れる。
ダヴィンチの言うドレスアップとはこれの事だろうと急いで制服を脱ぎそのドレスを纏う。

「折角だしあれも着けていこうっと」
引き出しの取っ手を掴み、その中で特別眩い光を放つラピスラズリのブレスレットに手を通す。
以前のバレンタインでギルガメッシュが梓へのお返しに贈ってくれた大切な物だ。
そう考えると中々身に付けることも叶わず、タンスの肥やしならぬ引き出しの肥やしになりつつあったそれを取り出しながら、アレは着けぬのか?と思い出したように聞いてくる王の姿を思い返して小さく笑いを零しているとノックの音が鼓膜を揺らした。

「はぁい!今開けます」
「存外似合っているではないか。我の目に狂いは無かったということだな」
「私が開ける前に扉をこじ開けておきながら開口一番がそれって……まあいいや」
このドレスを選んだのが目の前の王様だということに些か驚きながら彼の見慣れない、パリッとした印象を与える白のタキシード姿に顔に熱が集まっていく。
それに気付いたギルガメッシュは意地悪そうにニタリと口の端を上げた。

「我が迎えに来てやっているというのに間抜けた面で放心とはよい度胸よ。……それとも我が出で立ちに見惚れていたか梓?」
「ギルのタキシード姿がとてもかっこよくて素敵だから仕方がないでしょ……!」
真っ赤な顔を隠すように少女が両の手で頬を覆った瞬間、王が緋色の瞳を見開き手首に輝くブレスレットを凝視していた事に気が付かないまま梓は床を見つめていた。

「……主役が不在の祭りほどつまらぬものはない。早急に会場へ急ぐぞ」
「普段こんな高いヒールの靴なんて履かなくて慣れてないんだから無理言わないで……っ!!」
はあ、とこれみよがしに吐き捨てられた溜息に更に顔を赤くした梓と距離を詰めたギルガメッシュに身構える少女の背と膝裏に手が伸び、目線がぐんと高くなる。
横抱きされていると分かった梓は悲鳴を上げ、今すぐ下ろしてと抗議する。
梓の声など聞こえていないと足早に会場を目指していたギルガメッシュの形のいい唇がおもむろに開かれる。

「ヒールが慣れていないと言ったのは梓ではないか」
「そうだけど……い"っ!!」
「口を閉ざしている方が懸命だぞ。再び舌を噛みたくはなかろう」
口元を両手で覆いこくこくと頷く梓の手首で輝くラピスラズリに王は柔らかな微笑を浮かべた。

~FGO 2周年おめでとうございます~

極夜