EXTRA次元 無銘のマスター
「少しの期間で随分変わったわね貴女」
凛の言葉に目の前の梓は蒼色の瞳を丸くさせ持っていた箸を弁当箱と一緒に机に置いた。
「私、そんなに変わったかな?」
「ええ。初めて会った時と比較すればかなり頼もしくもなったわよ」
突然の賞賛に梓は頬を赤らめながら目を細めそれは嬉しそうに頭を掻いた。
あの時から変わらない梓の素直さ(単純とも言う)に小さく笑いながら置かれた弁当を横目に見る。
彩り、バランス、白米とおかずの比率全てに於いて完璧なそれは凛の瞳にも大層美味しそうに映った。
*
「……その弁当はなんだマスター」
定位置となりつつある屋上の給水タンクで寝転がっていると低い声が鼓膜を揺らした。
ここまで低い声を唸らせる生徒など居ただろうかと上体を起こした凛の視界に映ったのは弁当箱をつつく少女と、傍らに立つがっしりとした背の高い体躯の男の姿。
「至って普通なこのお弁当がどうかした?」
「バランスが偏って野菜が少ないうえに彩りの悪さ…茶色と黄色で埋まっているではないか!米とおかずの比率も……聞いているのかマスター」
「ふぁいふぁい、ひーへふよアーファー」
小動物のようにおかずを頬いっぱいに詰めて箸を進めるマスターに額を抑え大きな溜め息をつく梓のサーヴァントの姿にランサーが堪らず吹き出した。
(おかずは美味そうだが確かにちぃっと彩りが悪いなあの弁当と漏らしながら)
「別にアーチャーが食べるわけじゃないんだからどんな中身でも良いでしょー」
「私のマスターとなったからにはそういうわけにはいかん。明日から君の弁当は私が詰めよう」
「アーチャーは私のお母さんか!自分のは自分で詰めるしアドバイスだけで良いよ」
マスターの言葉に尚食い下がるアーチャーを従えながら梓は姿を消した。と同時に姿を現したランサーは腹を抱えて笑いだす。
「また一風変わったマスターとサーヴァントだな」
滲んだ涙を拭いながら同意を求めるランサーに凛は冷ややかな眸で2人が去ったそこを見下ろす。
「明日は敵かもしれない相手に抱く感情なんて何もないわ」
*
「ちゃ……凛ちゃーん」
視界いっぱいに広がる蒼の瞳に思わず凛は後退った。
「ぼんやりしてたけど大丈夫?今日のお弁当はアーチャーから太鼓判貰ったし結構自信作なんだ。肉が硬くならないようお酒に漬け込んで──」
別容器に盛られた唐揚げをこっちに差し出しながら言葉を連ねる梓がどうしてもあのサーヴァントと重なる。
…無色透明だった少女がすっかりあの男の色に染まったなと過ぎった考えを打ち払うよう小さく首を振り、凛はその唐揚げを口に放り込んだ。