瓜二つの貌

CCCで赤弓のマスターだった子がFGO次元に飛ばされ赤弓と瓜二つのエミヤに戸惑う

「君、怪我はないか」
顔を上げた少女の顔は煤で所々汚れてはいたが蒼色の瞳は一点の濁りもなく、真っ直ぐ自分を見つめてきた。

「エミヤ誰か居たの?」
マシュを連れ添いながら現れたマスターの声に彼女はやっと口を開いた。とても小さな声でエミヤと音を紡ぐ。
直後少女の瞼が落ち彼女はその場に倒れ込んだ。

「何やら訳ありのようだね。大体の用は済んだし一旦帰還してくれ」
モニター越しのDr.ロマンに力強く頷いたマスターが目でその子を頼むと訴えるので首肯して濃い疲労の色が伺える少女の脇の下と膝裏に腕を回し、その場を後にした。

意識を失っている間に受けた検査で彼女には魔術師の素養が十二分にあると言う事が判明した。
暫くして目を覚ました少女は自分の名前以外語ろうとしなかった。否、記憶がないと述べた。
記憶もなく身元も割れぬ魔術師の素養を持つ少女。これを手放すのは惜しいと誰もが口には出さないもののそう思ったに違いない。
Dr.ロマンが一考えとして記憶が戻るまでのカルデア滞在を提案すると彼女は二つ返事で返した。

「彼が君をここまで運んでくれたんだよ」
「エミヤと呼んでくれ」
「その節はありがとう。梓ですよろしく」
床を瞳に映しながらぎこちない笑顔と共に交わされた挨拶。以降私は梓から名前で呼ばれた事がない。

**

「アーチャー」
「梓か……何か用かね」
名前を呼べば彼女は歓喜の色を滲ませた。が、それは瞬きひとつの出来事でその瞳は直ぐに私を映す事を止めてしまう。

「ロマンさんとあの子が来て欲しいって」
「了解した。ところで体に異常は来たしていないか?辛いならいつでも言うんだぞ」
ー魔力量に申し分はないだろうし遠慮なくサーヴァント達への魔力供給に充てて下さいー
目を覚ました直後感情の伴わない声で口早に梓は言った。こちらとしては願ってもない申し出にDr.ロマンはその日から早速彼女の魔力をサーヴァントの魔力供給に充てた。
彼女がどんな暮らしをしていたのか分からないが相当な量の魔力をサーヴァントに回しているのだ、万が一に備え注意しておくに越したことはない。

「特に問題はないよ心配しないで」
「先からずっと顔色が悪い。マスター達に言って魔力量を……」
「大丈夫だって言ってるの!アーチャーにとやかく言われる筋、は……」
出会ったあの日と同じように梓の体が地面に引き寄せられていく。私が腕を伸ばすより早く第三者の腕が彼女の柳腰を捉えた。

「強がりも程々にしておけよ嬢ちゃん」
「強がってなんかいない。少し眩暈がしただけだから手を離してラン……クーフーリン」
「あー?なぁんにも聞こえねぇな」
「だから離して、って!抱えるなっ話を聞けー!」
ただの一度も視線を交わせる事なくクーフーリンは罵声を右から左に聞き流しながら横を通り過ぎて行った。
上手く言葉にする事の叶わない、苦々しいと形するのが一番近いような感情を持て余し血が滲むのも気にする事なく唇を噛んだ。

極夜