薬指は予約済み

ウェイバー(19)とエルメロイ(29)の詰め合わせ
祝おうって気持ちが大切(細かい点はスルーしてやって下さい)

「何だよその顔……いいから早く受け取れよ」
「う、うん!突然の贈り物にびっくりしたけど嬉しいよ!ありがとうウェイバーくん」
私の言葉を聞くなりウェイバーくんの端正な顔がみるみる崩れていく。
何かおかしなことを言ってしまっただろうか?ああ、そういえばまだウェイバー君に誕生日おめでとうの言葉と品物を渡せていない。
それであんな顔をしているのだろうという結論に至った私は鞄の中から綺麗なラッピングのなされたプレゼントを取り出す。

「誕生日おめでとう。ウェイバーくんが生まれてきてくれたこの日をお祝いする事が出来て本当に嬉しい。私の気持ち受け取ってほしいな」
「えっ!?あ、そういえば今日は僕の誕生日でもあったのか……ありがとな。というか梓だって今日誕生日だろ!いい加減気付けよ!!」
「あっ!言われてみたらそうだった……」
何を贈ればウェイバーに喜んでもらえるか前日まで悩みに悩んでいた梓の脳内からは自身の誕生日という概念はすっかり消し飛んでしまっていた。

「お前がそういう奴だって知ってはいたけどさ、まあいいや。早速開けるぞ……ネクタイ、か」
「脳内でどの柄が1番ウェイバーくんに似合うかって考えに考えて選んだんだけど、どうかな?」
「ま、まあ悪くないんじゃない?お前にしては」
その一言で満面の笑みを浮かべた梓に顔が熱くなっていくのを隠し、心臓を抑えながらウェイバーは深呼吸を繰り返す。

「梓は開けないの?」
「ウェイバーくんが開けていいっていうなら開けようかな……わあ、綺麗な指輪!」
モスグリーンの石が輝くシルバーリングに梓は自身の頬が緩むのを確かに感じた。
指輪を取り出し早速嵌めようとする梓の白い指を突如掴んだウェイバーに首を傾げていると、右手の薬指にそれを通される。

「日本では婚約の印として男から女に指輪を贈るんだろ?今はまだそんなのしかプレゼント出来ないけど……落ち着いたらちゃんとしたやつを渡すつもりだし、ロンドンに連れて行ってこの世界の誰より幸せにしてやるから覚悟しとけよ!!」
ぷいっとそっぽを向いて踵を返したウェイバーの赤い耳に殊更笑みを深くした梓の薬指でシルバーリングが淡い光を放っていた。

**

「忙しい時に呼び出してすまないな」
「私は大丈夫。それを言うならウェイバーくんの方が何倍も忙しいでしょう?ちゃんと休憩を挟んでお仕事してる?」
かれこれ十年の付き合いになる恋人からの指摘に言葉を詰まらせ、わざとらしく咳払いをすると梓は酷く困ったような悲しげな表情を浮かべた。

「わがままだと分かってはいるけどもっと自分を大切にしてほしいな」
頬に宛てがわれた右手の薬指にはあの日と変わらない深い緑の石が輝いている。
梓の未来を(一方的に)予約してからずっと身につけてくれているのが素直に嬉しくて自然と俺の心も躍る。

「久しく休暇も取っていなかったし、良い機会だと思って明日から暫く休みを取ることにした。先週から激務が続いていたが、それも只今をもって終了だ」
サインを施した書類を白い紙の山に放り投げ、席を立つ。
随分と身長差が出来たものだと自身より1回り小さな彼女の右手を掴んで唇を落とした。

「あの日の約束はまだ有効か?」
「そうじゃなければ毎日ウェイバーくんのお弁当詰めたりしないし、ましてやロンドンにまで付いてこないよ」
「世界の誰より幸せにする。だから俺の伴侶になってくれ」
「……はい、喜んで」
「話が決まれば次はドレスだな。長い時間待たせて悪かった」
梓の目尻に溜まった雫を親指で拭いながらいつになく優しい声でエルメロイU世は言葉を紡ぐ。
それに対して控えめに頭を振った梓はあの日から変わりない喜びに満ちた笑顔を浮かべた。

「約束を守ってくれてありがとう。それと私がプレゼントしてくれたネクタイを大事に使ってくれてありがとう」
ウェイバーの首元を彩るネクタイは彼女が10年前のあの日に彼へ贈ったものだ。
翌日、いつもと変わりのないネクタイに頬を膨らませる梓に眦を決したウェイバーが発した言葉。

「お前がくれた物だから大事な時にだけつけるって決めたんだよ!使わないって言った訳じゃないんだし、それくらいでむくれるなよバカッ!!」


「さて……何の事だろうな」
「あの時からウェイバーくんは何も変わっていないね」
そこから先の言葉を遮るように性急に唇を奪ったエルメロイU世の耳はいつかのあの日と違って赤みを帯びてはいなかった。
それに一抹の寂しさを覚えたがそれ以上に梓の心は歓喜の色に染まっていた。

(Happy Birthday!)

極夜