運命は繰り返される

夢主の設定濃いめ(前世に関する記述があります)
こちらを読んでからの方が分かりやすいかも…?

いつも私は同じ土地の砂を踏みしめていた。
如何なる場所でも私の先を行く男性の金糸の髪が太陽の光を反射し、神々しく輝く様に思わず溜息をついている間にも彼は離れていく。
待って、と長い服の裾をつまみ上げて梓は大きなその背を追いかける。

瑞々しい草木が生い茂っていたはずの場所は強大な何かによって血の海と化していた。
ヒトか畜生の類いであったのか分からないほどにめちゃくちゃに踏み荒らされたソレは、濁りきった瞳で太陽を見つめていた。
その少し先で阿修羅の如き活躍をしている男性の頬を獣の鋭利な爪が掠める。
普段の彼であれば今の一撃を受ける事もなかったのだろう。
王自ら前線へ赴き、兵を鼓舞する。
神の血を引く王といえど器は人間。戦いが長引けば疲労の色も見えてこよう。

彼を助けなくては、と心は強く訴え続けているというのに梓の足は地面と一体化してしまったのではないかと錯覚をするほどに動けない……見えない呪縛に囚われてしまったのだろうか。
そうこう考えている間に三度目の傷を負った青年がよろめいた。
好機、と相手にしていた有象無象の化物が殺意を乗せた牙を青年に向ける。

「愚か者共が!貴様らの思考など全て、見通しておるわ!!」
金の鎖を操り、瞬く間に全てを刺し貫いた緋色の瞳が梓を捉える。

「貴様は深手をおっておらぬな。……よい」
『ギル!!』
今の一撃を耐えた獣が渾身の力を振り絞り鎌状の爪を振り下ろす。
咄嗟の出来事だったからか、或いは先のあれで力を出し尽くして反応が遅れたのか、男は何をするでもなく黙していた。
一方で私は漸く脚を動かせることが叶い、迫る凶刃から彼を守らんと全力で体当たりをした。
王たる我に何たる所業を!と激怒されるかもしれないけれど、こうでもしなければ彼を守れない。
よろめきながら紡がれた音は間違いなく私の名前であった。
その直後、言葉では言い尽くせない激痛が全身を襲った。

「マスターがサーヴァントを庇うなど莫迦か貴様は!!」
いつか見た土地は地平線の彼方まで赤い花で穢され、彼の王都も見るも無残な姿になっていた。
何が何やら。私がさっきまで視界に映していたギルよりも今、目の前に居る彼は幾分か若いように見える。
今まで見ていたモノはきっと彼の生前の記憶だ。
どういう形であれを見たのかは分からないがここはバビロニア、彼が統治していた国。
何らかの力が作用してギルの過去の一部を垣間見てしまった、というのも有り得るのかもしれない。

「(それにしてもあの時の状況とよく似てる……)」
破壊された建物、延々と続く血溜まりと骸、そして彼──ギルガメッシュの悲痛に満ちた顔。
湧いて出るラフムの群れに手を焼いていたギルの背中に迫る敵の影に気付いた梓は令呪を使うよりも早く、体を動していた。
全力でタックルをかましたにも関わらずほんの僅かによろめいただけの英雄王に唇を噛みながら直後に訪れた痛みに眉を寄せた。
実際問題あまりの痛みに呻き声を上げるのもやっとで徐々に意識が遠のいていくのを感じながら傍らで膝をつき、力強く手を握っているギルに微笑んでみせる。

「また我を置いて逝く気か」
「だいじょうぶ。ギルをひとりになんてしないよ」
「あの時と同じ言葉を羅列するか」
彼の温もりに包まれて漸く梓は全てを思い出す。
前世の自身は半身半神の者であり、彼から最も愛を賜っていた者……妻であったこと。
──そして死に際に深い悲愴を漂わせる王に看取られながら息を引き取ったこと。

「……運命は繰り返すもの、なのかな」
「そのような運命、我が断ち切ってやる」
「それは頼もしいな」
そのやり取りを最後に梓は目を閉じ、生体活動を休止した。

極夜