寒い季節は人肌が恋しくなる

どれだけ掛け布団の枚数を増やし、暖房器具を取り入れたところで少しでもその狭い空間から四肢が出てしまえば瞬く間に楽園は氷の世界へと変貌してしまう。
やっとの思いで白色の制服に袖を通した梓はのそのそと楽園──布団の中へと引き返した。

今日はレイシフトの予定も聞かされていないし、サーヴァントからお呼びが掛かっているわけでもない。
珍しく何の用事もない、平穏な日なのだから今日という日くらいこうして布団の中でぐだぐだするのだって許されるはず……という持論は果たして通るのだろうか。

「梓さんおはようございます!!」
「鍵かかってたよね?ギル君どうやってここに入ってきたの」
「いつまで経っても梓さんが食堂に来られないから他の英霊の方達を代表して迎えに来ました。朝食は一日の活力の源とも言いますし、エミヤさんお手製の朝食が冷めてしまう前に早く行きましょう」
「(私の部屋の鍵をどうやって解錠したのかはスルーか……)」
布団に手を掛け、布団らくえんから梓を引っ張り出そうとする子ギルに梓もまた全力で応戦する。
確かにお腹も空いてはいるしいずれはここから出なくてはならないと梓自身、重々承知しているが今はその時ではないと本能的な何かが告げている。
全力の応戦も虚しくものの数分で布団を剥がれてしまった梓は肌寒さにカチカチ歯を鳴らしながらじっとりとした顔で子ギルを見つめた。

「そこまで怖い顔をするような事ですか?」
「寒いのは苦手だってずっとギル君には言ってたじゃない!知らないとは言わせないんだから!!」
そう吐き捨てながら再び布団の中に潜っていくマスターの姿にやれやれと肩を竦めた子ギルは膝を梓が横たわるベッドの上に乗せた。
ギシっと軋んだ音に子ギルから背を向けていた梓が反対側を向けると宝石のように美しい瞳が緩く三日月の形を模している。

「自分で言うのも癪ですけどボクは子供体温らしいのでこうやって抱き付けば……」
「(あ、あったかい……!!)」
「ミイラ取りがミイラになってしまいましたけど、ボク得でもあるし別にいいかな」
ミイラ取りの後に呟かれた言葉は低く、よく聞こえなかったが今の梓にとっては瑣末な事だ。
力いっぱい子ギルを抱きしめて湯たんぽのように少年から暖を取る梓と、彼女のやわらかな胸元に埋もれて至極幸せそうな子ギル。

数分後寝息を立て始めた梓の額にそっと口付けを落とした小さな王は再度少女の豊かな胸に顔を擦り付けるのだった。

極夜