少女との邂逅

ハクノ君(アニメの彼)の危機を救う話
※3話迄の知識を元に書いているので今後矛盾点が出てくるかもしれませんが御容赦下さい

「奏者よ、下がるがよい」
「ああ。頼むセイバー!」
真紅のドレスに身を包んだ麗人は自信たっぷりに頷くと愛剣片手に駆け出した。

「余は最良クラスであるセイバーだ。憂う事など何もないぞ!」
その言葉の通り彼女は今まで立ち塞がってきた敵を塵芥なく排除してきた。
だが、今回ばかりは少々勝手が違う。
一人のサーヴァントに立ちはだかる敵影の多さに堪らず唇を噛む。
身を呈して俺を守ってくれる彼女の力になれないのか……!

「今すぐその場を離れよ!」
セイバーにしては珍しく切羽詰った声に血だまりを見つめていた瞳を上げる。
眼前に迫り来る黒い影は確実に、俺の命の灯火をかき消さんと左胸目掛け突進してくる。
──俺はまた、殺されてしまうのか。
瞼の裏に浮かぶ光景はいつかに体験した"死"の数々。
諦観を映す彼の名を呼んだセイバーの耳を第三者の声が揺らした。

「アーチャー、お願い」
「……全く。人が良すぎるマスターだ」
張りつめた弓から噴出された矢の先端は幾重にも捻じれ、曲がっている。
いつの日か己の体に風穴を空けた矢と酷く……否、全く同じ形状の物が眼前に迫っていた敵の心の臓を刺し貫いた。

剣を薙ぎ払い俺の状況を確認したセイバーの白い喉がゆっくりと上下する。
俺と契約を交わしたあの日、初めて相対した男が目の前に居るのだ。
敵の意識は赤い外套を翻している弓兵に全て持っていかれたようで、雄叫びを上げながら一体、また一体と弓兵へと向かっていく。
霧散した弓の代わりに二対の剣を取り出し、投擲したかと思えば男は天高くジャンプをしている。

「鶴翼三連」
剣の雨を浴び尚立ち上がっていた敵の懐に飛び込み、薙ぎ払った男は静かに漏らすと先の弓と同じように剣を手放した。

「こっちに大量のエネミーが駆けて行くのが見えたから……大丈夫?」
「ありがとう。助かった」
相手が例え憎き人物の姿をしていようと助けてもらった事実に相違はない。
素直に感謝の言葉を述べると目の前の少女は張りつめた空気を幾分か柔らかいものへと変貌させた。

「二人とも親の仇のような視線を私のアーチャーに向けてるけど……余計なお世話だったのならごめんね?」
「不快にさせたのならすまない。俺は岸波ハクノ、こっちは俺のサーヴァントのセイバー」
「ハクノ君にセイバーさんだね。私は紅月梓」
梓の隣に佇む弓兵は紛うことなく奴だ。
だが、目の前の男はあの時対峙したモノのようにモノクロでもなければしっかり表情も伺える。
現に訝しげで仇敵を睨むような視線を、男は何の事だと言いたげに受け流している。

「剣を使って戦っていたけど、彼は私と契約を交わしているアーチャークラスのサーヴァント。ほら、アーチャーも仏頂面のまま黙っていないで」
「後々殺し合う相手を救援する君の思考が微塵も理解出来なくてな」
「本当にそう思っていたの?私が命令を下すより前からうずうずしていた人が?」
クスクスと楽しげに笑うマスターに眦を決したアーチャーが彼女の名を呼ぶが、意にも介していないようで。

「梓……と言ったな。助けてもらっておきながら失礼だと思うが余もこの男と同意見だ。放っておけば聖杯への道が一歩近付いていたというのに何故余と奏者を助けた?」
「これ以上クラスメイトが目の前で屍となっていくところを見たくなかったから……じゃいけない?」
「クラス、メイト……?」
翡翠の瞳を伏せてぎこちなく笑いかけてくる梓の姿を見て漸く合点がいった。
そうだ俺と、彼女はあの瞬間まで──。

「ハクノ君もセイバーさんもかなり疲労が蓄積しているようだし、私の部屋でココアを飲みながらお互いに情報を出し合う……のはダメかな?」
「いや構わない。早くこの場から離れよう」
胸中に埋めく謎の憎悪に彼女は含まれるのか。
そんな漠然とした考えを浮かべながら梓の提案に乗ると、彼女は花開くような可憐な笑みを覗かせた。

極夜