暗色に染まる
トリップしてきたカムイ似の女の子
私を通してあの人達は"カムイさん"を見る。紫月という一人の存在を上塗りして大切な妹あるいは姉として愛で、仰ぐのだ。
「ダメじゃない一人で出掛けちゃ」
ひ、と引きつった声が喉に張り付きながら漏れた。リズムよく響く靴音は確実にわたしへと近付いてくる。
「か、みらさま」
「様だなんて堅苦しい呼び方止めてちょうだいな。私達は…」
「久しぶりに出歩いたので疲れてしまいました。申し訳ありませんが失礼致します」
乱雑に言葉を遮りながらカミラ様に頭を下げ、煌びやかな廊下を駆ける。
長い長い廊下を進み勢いよくドアを開き、いそのまま轟音を響かせて閉ざす。
わたしの感情の昂りに呼応するよう光を放っている魔道書を机に置いてからふかふかの柔らかいベッドに体を沈めた。
「わたしはカムイじゃない、貴方達の家族じゃない。わたしは紫月」
顔を見合わせる度あの人たちが笑顔でカムイと呼びかけてくるものだから頭の中は常にぐちゃぐちゃに乱されている。
「なんでわたしはこんな場所に来てしまったのだろう」
幾度も思考を巡らせど行き着かぬ答えに唇を噛みしめる。
血の滲み始めた唇を舐め大きく寝返りを打つ、と部屋に見慣れない金色が視界の端に映りこんだ。
「もしかしてわざと無視してる?」
「どうしてレオンが私の部屋にいるのですか」
「紫月の部屋に来ちゃいけないって規定なんてないだろ?」
それもそうだ。と納得はしたものの視界は涙で歪み、とても相手の顔を見て会話を続けられる状況ではない。
暇を持て余して何となく足を運んだだけに違いない、放っておけばそのうちどこかにきえてくれるだろう。…なんてわたしの考えを嘲笑うようにベッドのスプリングが軋む。
「紫月」
枕に顔を埋めるわたしの頭を撫でる彼の手の暖かさと鼓膜を揺らす心地のよいテノールがわたしの感情の蓋を開いてゆく。
「紫月」
「……っ、れ…おん……わた、し…かむいじゃ…ぁ」
「分かってるよ。ここに居るのは紫月だ。僕の姉じゃない」
羞恥心や矜持を捨て去りレオンの胸元に飛びついてぐずぐず咽び泣く。
今まで誰も口にしてくれなかった、喉から手が出るほど欲していたわたしを肯定する言葉。
「”僕”が居る。力になるしいつでも頼って」
彼の言葉がカラカラに乾いた心の奥深くに染み渡ってゆく。
わたしにはレオンが居てくれる、唯一無二の人。
その存在にただただ感謝するわたしの姿を光のない闇色の瞳が見下し、唇が歪な形を成していたなんて知るはずもなかった。
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極夜