他でもない君の為に
他の文豪達に支えられながら帰ってきた作之助にいつもの笑顔はなかった。
力なく項垂れる青年の服は所々破け、花があしらわれた華美な腰布にもそれを縛っている白いベルトにも数多の傷が見受けられる。
紫月が息を呑む音で漸く顔を上げた青年の顔は恐ろしいほど蒼白く、見ている人間の心まで締め付けた。
「紫月ちゃんにみっともないところ……見せてもうたな」
「そんなことないです!織田さんのことは私に任せて皆さんは休んでいて下さい」
「そっからそこまでの距離やし1人でも行ける。ここまで運んでもろておおきに」
腕を振りほどき覚束無い足取りで部屋を出ていく作之助の背を紫月は躊躇うこと無く追いかけ、彼の脇下に自身の体を捩じ込んでその体を支えた。
「大丈夫言うたやろ?おっしょはんかて暇やあらへんのや。ワシに構わんで、な?」
「確かにやらなきゃいけないことは山ほどあります。ありますけど……無理をし過ぎる織田さんを放っておけるわけないじゃないですか」
「はぁ……紫月には敵わんわ。ここは素直に好意に甘えよかな」
触れ合う箇所から伝わってくる彼のいつもよりやや低めの体温が、心音が織田作之助という存在を肯定している。
「作之助さんが帰ってきてくださってほんとに……よかったです」
「紫月がいつも美味い飯こさえて笑顔で迎えてくれるから意地でも帰ってこなあかんと思う一方で、ワシのこんな姿見たら今みたいに泣き出しそうな顔になるんやろなーと思ってたんや。実際目の当たりにすると罪悪感凄いな」
「罪悪感なんて抱く必要はありません。今、こうして傍で言葉を交わして下さっているだけで私は幸せです」
「……無意識にそないなこと口にする紫月、ほんま狡いわ」
独り言のように小さくそう漏らした作之助はいつになく柔らかい顔をしていた。
それに返ってくる言葉は無かったが彼を支える紫月の手の力が明確に強くなり、作之助はまた小さな笑みを零したのだった。
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極夜