散策ノススメ


職員(モブ)視点で書いています

「根を詰めて作業を行うのは良くない、人間には休息が必要不可欠だからな!」
……という館長の立案により昨日から実装された午前と午後1回ずつの休息(館長曰く散策だ!との事)は思っていた以上に職員にも文豪にもよい影響を与えていた。
談話室で思い思いに語らう者、中庭の美しい風景に心奪われる者。そしてエントランスで出迎えをする者と日によって様々だ。
しかし幾ら日を重ねど、見かけない人物に僕は首を傾けていた。

「特務司書の紫月さんと織田さんの姿を全く見かけないなぁ……あの人達ちゃんと休んでるのか?」
不要なお節介だと分かってはいるが、一度気になると真相を突き詰めるまで気になってしまうのが僕の性分だ。
そうと決まれば早いと僕は彼らの影を探して足早にそこを去った。

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「想像以上に見かけない……何処に居るんだろう」
額から流れ落ちる汗を拭い、汗で張り付いたシャツに不快感を示しながら冷房のよく効いた館内で息をつく。

「紫月無理せんでええんやで。ワシが持つ言うてるんやから素直に甘えや?」
「しーっ!館内で公私混同するのはよくないと前に話したじゃないですか!お気遣いありがとうございます作……織田さん」
「公私混同はようない、なぁ」
あの独特の笑いを零すのは間違えるはずもない、織田さんだ!そして彼に寄り添うようにして立っている少女も紫月さんで間違いない。
長い髪を一纏めにして織田さんと類似した髪型にした紫月さんはからかうように笑う織田さんにもう!と漏らし、そのまま司書室に入って行ってしまった。

「ああ、すまんって!ワシが悪かったから許してや紫月〜!」
「ですから司書室の外でその呼び方は──」
無情に閉められた扉によって紫月さんの声が最後まで何と紡がれていたのか分からずじまいであったが、きっと先程漏らしていた事だろうと想像するに易かった。

彼女らが何故、散策で見かけないのかやっと分かった僕は表情を和らげると残っている執務を終わらせようと司書室の前を立ち去るのだった。


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極夜