カレヱ記念日


「もう少しで作之助さんのお誕生日ですね!何か欲しいものはありますか?」
「誕生日お祝いしてくれるん?流石はワシのおっしょはんやで〜」
「(作之助さんの司書さん、作之助さんの司書さん……)」
「おーい紫月?(自分の世界に入ってしもうてんなぁ。ちょっと待っとこ)」
それから数分後、ほんのり頬を染めて我に返った紫月は視線をやや外しがちに冒頭と同じ言葉を紡いだ。
作之助としてはそんな紫月の気持ちだけで充分嬉しいのだが、それだと彼女自身が納得してくれないだろう。
目を輝かせ上目遣いで作之助の返事を待つ紫月の頭部で手触りの良さそうなと獣の耳が揺れている気がして作之助は勢いよく頭を振った。

「……そんならその日一日、紫月の時間をワシに頂戴?偶にはふたりっきりでゆっくりしたいなぁ」
「お夕飯は作之助さんの大好物で決定ですね!作之助さんも思わず唸っちゃうような美味しいカレーを作りますよ〜!」
柔らかに微笑みかけてくる紫月に心を踊らせている作之助と休み取れるといいなぁと不安半分、作之助とふたりきりで過ごせるかもしれないという喜び半分な彼らの間には幸せを濃縮したような桃色の何かが漂っていた──。

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「来年はもっと早く何が欲しいか聞くようにしますね」
「あれだけ急な頼みやったにも関わらず誕生日前日と当日を半休にしてくれた館長さんには頭が上がらんわ……紫月も気にせんでな?」
作之助のすらっと長い脚の間に収まって胸元に顔を埋めている紫月の柔らかな亜麻色の髪を撫でながら作之助は紅色の瞳に紫月を映してはにかむと抱き締める力を強めた。

彼女の香で肺を満たしながら改めて自身はよい魂の番いを得たと作之助は紫月の肩口に額を押し当てながら考える。
いつ消えて無くなるとも分からない己を好いて想ってくれる人がいる、最初はただそれだけでよかったはずなのに。

「気付かんうちに欲深くなってしもうてるなぁ……」
「作之助さん?あ、丁度0時を過ぎましたね!……生まれてきて下さってありがとうございます。大切な作之助さんの誕生日をお祝い出来て本当に嬉しいです。来年も再来年も、ずーっとお祝いさせて下さい」
「来年も再来年もずぅっとこの日には肩並べてカレー作ろうな。紫月おおきに」
「サラダ記念日ではなくカレー記念日ですね」
作之助の上着に顔を押し付け、首を振る紫月の頭部にいつか見た獣耳の幻影に固まりながらも作之助は幸せを実感していた。

(後日無頼派の2人から誕生日をどう過ごしたのか根掘り葉掘り聞かれた)


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極夜