逃れえない悪夢


※気持ち悪い病み村


どこか痛むところはありませんか?と心配げに見下ろしてくる青年の言葉の意味を飲み込めずぼんやり辺りを見回した後、勢いよく体を布団から起こした。

「い……っ!」
軋む筋肉とそれとはまた異なる痛みに思い切り眉を寄せ痛んだ場所に手を伸ばす。
腕にも無数の包帯が巻かれているのが視界に入った私はこうなるまでの経緯を思い起こす。

「もう一度横になって下さい紫月。それからいくらでも話は聞きます」
不安を感じ取った青年が表情を和らげ優しい手つきで起き上がったままの体を押した。

「私はどうしたの?ここはどこ?」
「覚えていないのですか」
優しい表情のまま吐き出された青年の声は恐ろしい程に冷えきっていた。
背中に流れる冷や汗と痛みを訴えながら鼓動を刻む心音を聞いていた。

***

脳に浮かんだ空間は血と屍で埋め尽くされ、鼻がもげてしまいそうな悪臭が漂っている。

「……まけた」
膝をついた傍らには明日の戦は負ける方が難しかろうと笑っていた主君だった人が見るも無惨な姿を晒している。

「兵数で劣れど頭で我らが負けるはずがないとよくご存知でしょう」
刃こぼれした得物を握りしめ声の主を睨みつける。仮に武器と体調に問題がなかったとしても私が敵う相手ではないと対峙する前から分かりきっている。
だからこそ私の体は弱肉強食のこの世に於いて狩られる側として体を震わせているのだ。
絶望を前に全てを放棄し、浅い呼吸を繰り返す私と距離を詰めた青年は愛おしそうに髪を撫でた。

「どこに逃げても貴女は私から逃げられません。隠れたとしても無駄だと何度言えば分かりますか?」
泥色に染まった男の瞳を見ただけで奴が異常を来たしていると即座にわかった。
震える足に力を入れても何も意味を成さない。私は、敗者なのだ。

「どれだけ抗っても無駄だと痛感したでしょう?属した勢力は全て滅亡の道を辿る…疫病神と呼ばれ忌み嫌われるのも今日で終わりです」
顎を伝う雫を指で掬った青年は歪に口端を吊り上げた。

「痛みは一時です。お許しください」
掲げられた槍が遠くで轟く稲光を反射し鈍い光を放つ。地面に深くに槍を突き刺した幸村は懐から短刀を取り出し紫月の履物を脱がせると、腱目掛け一太刀浴びせた。

***

「ひ、っぐ……い…痛い、…」
意識を消失している間に何があったのか分かりたくもない。
とめどなく紅い血との力の入らない両脚に喚く紫月の泣き顔に幸村は笑みを深くした。


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極夜