実りの秋


「やっぱり、ちょっと苦しいなぁ」
現実逃避を繰り返し、気のせいだと思いこみたかったがどうやらそれは叶わなかったようだ。
胸元の圧迫感に眉根を寄せうんうん唸る紫月は秋になってから胃に収めた絶品料理と銘菓の数々を思い出す。
ちょっと食べ過ぎかな?を重ねすぎた結果がこの身についた脂肪なのだが紫月の場合、その脂肪は胸部に集中したらしい。

「(下着も買い換えなきゃいけないかな)」
「どないしたん?こないな場所でどんよりした顔して。お兄さんが聞いてあげるから話してみなさい」
「作之助さん……!」
颯爽を姿を現したのは紫月の恋人であり助手の織田作之助であった。
暗い顔を途端に明るくさせた紫月に作之助の表情も綻むが、それは直ぐに怪訝なものへと変わる。
口を開きかけて訳を話そうとした紫月だがそれを異性である作之助に打ち明けて良いものかと、女としての羞恥心が歯止めを掛けたのだ。

「お互い全てを瀑けだしあった仲やろ?はよ白状してまい」
「絶対に笑わないって誓って下さるなら」
「笑わへんよ。紫月の悩みを解決する手助けをしたい、ただそれだけや」
「……ずっと傍に居てくれた作之助さんならよくご存知だと思うのですがひっきりなしに食べてましたよね、私」
「ああうん、ええ食べっぷりやったね」
微塵も否定することなく即座に肯定した作之助に少なからずダメージを受けて沈黙してしまった紫月に作之助は目を丸くしながら言葉を続ける。

「せやけど食欲の秋とも言って今の時期しか食べれん物もぎょうさんあるし、気にする必要はないんとちゃう?前より胸が大きくなって触り甲斐が……」
「…………作之助さん今、何ておっしゃいました?」
「せやからぁ……そないに顔赤らめて睨まれても怖ぁないで〜。ワシと10cm以上身長差あるんやし」
自分がずっと気にしていた事に作之助が気付いていた事実が恥ずかしすぎてみるみるうちに顔を真っ赤にさせ、肩を震わせ始めた紫月に作之助は追い打ちをかけた。

「誰から見ても如実に大きくなってるんやもん。気付かへん人は相当目が──な、何すんの!何も言わずワシの胸叩くんやめて!話し合えば分かり合えるはずや!!」
「作之助さんのバカバカバカッ!もう知りません!」
薄ら涙を浮かべ作之助の前から踵を返した紫月の背中を追いかけて行くのを見届けてから全ての顛末を見ていた眼鏡の男、坂口安吾は額に手をあて首を振った。

「途中までいい流れだったのにどうしてああなるのか……後で俺の方からオダサクの奴によく言っておくか」


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極夜