アイの可能性
※ほんのりゼロの執行人のバレ含みます(後日譚)
「こんにちは紫月さん。お久しぶりです」
「安室さん!……あら」
珈琲の香ばしい香りを察知するなりいつもならば満面の笑みを見せてくれる紫月さんは僕と顔を見合わせるなり大きな瞳を見開き、眉をハの字にさせてしまった。
「やっと安室さんと会うことが出来たと思っていたのに……顔の傷、まだ痛むんじゃないですか?」
触れるか触れないかのギリギリのラインまで指を伸ばした紫月さんの細い指が頬の上を撫でる。
さて、どう言い訳をしたものか。
「もっとご自分の体を大事にしなくちゃ駄目ですよ。安室さんはここの看板店員さんなんですから」
「今後気を付けます。すみません」
言い訳を考えていた安室透の脳裏にひとつの疑問が浮上する。
ただの思い込みなのかもしれないが彼女の口ぶりはまるで──。
「紫月さんは僕のこと、心配して下さっていなかったのですか?もしそうなら少し寂しいですね」
「えっ……?」
珈琲を味わっていた紫月さんが途端にカップから口を離し、素っ頓狂な声を上げる。
幾度も瞬きを繰り返し首を傾げた彼女は言葉の真意を汲み取ろうと必死になっているのだろう。
「僕の事を心配してくれる方が居てくださるのは大変光栄ですが、それ以上に貴女から心配してもらいたい……なんて言ったら紫月さんを困らせてしまいますね」
「勿論私だって心配してました!ですが私が開口するといつものように私生活まで口を出して、困らせてしまうだろうと思って」
「それならば互いに迷惑と思わない深い間柄になってしまえば良い。至極単純な話じゃないですか」
「相当お疲れな安室さんの口から漏れ出た気の迷いと捉えて聞き流しておきます……いつも貴方の事を気にかけているのは本当ですから、ゆっくり休んで下さいね?ご馳走様でした」
また来ますと付け足し席を立った紫月さんは曖昧な微笑を浮かべていたが、その耳がほんのり色付いていたのを見るに脈が零というわけでもなさそうだ。
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極夜