平成のホームズとカノジョ


※夢主はコナンと幼馴染みで年上(正体も把握済)
※公式CP総スルー&一部原作捏造有。劇場版天国〜の某シーンから抜粋

くいくい、とスカートの裾を引かれた紫月が視線を落とすとコナンと自身を交互に見やっている歩美の姿があった。
小さな名探偵を想っているのをよく知っている紫月がその場に屈むと、内緒話をするように歩美は言葉を紡いだ。
小声で持ちかけられた相談事にウインクを飛ばしながら二つ返事をする。

「それじゃあ後日ポアロで──」
二人の会話に目を光らせている人物が居るとも知らず、紫月の返答に満面の笑みを浮かべている歩美を可愛いなぁと思いつつ柔らかい髪を撫でた。

***

男性の店員にコーヒーを頼み、相談人の歩美が現れるまでの間iPhoneに手を伸ばす。
……良かった、どうやら彼を上手く撒けたようだ。
家を出ようとしていた瞬間、タイミング悪く鳴り出したiPhoneにドキリとしながら「今日友達と遊びに行くから、暫く電話に出れないしLINEも返せないと思うけどごめんね!」と言葉早に言って電源を落としていたのでその後の着信とメッセージの応酬にビクビクしていたのだが、どうやら納得してもらえたようだ。

……彼は私に対して過保護が過ぎる。
「紫月はどっか抜けてっから目が離せねぇんだよな」と小さくなった彼が今でも時々そう零しているけれど平成のホームズと称される新一君基準に考えられたら、たまったものじゃないんですけれど!!

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございま……歩美ちゃんこんにちは」
金の髪を揺らしテーブルにアイスコーヒーを置いた男性の薄水色の瞳を見ながら礼を述べていると、カランカランと扉の開閉を知らせる音と愛らしい声が店内に響いた。

「紫月お姉さん待った?」
「さっき来たところだから大丈夫!喉乾いてるだろうし、好きな飲み物選んで。……私が待ちあぐねてるだろうと思って走ってきてくれたんでしょ?」
「ど、どうして分かったの!?」
歩美の額にトン、と人差し指を置いて垂れ落ちる汗を手持ちのハンカチで拭う。
今日はまだそこまで気温は高くないが、彼女の家からこのポアロまでそれなりに距離がある。
呼吸の乱れは幾分か落ち着いてきているようだが、額から首筋にかけて薄ら流れる汗を見れば一目瞭然だ。

「歩美ちゃんの事はよーく見てるからね」
「紫月お姉さんのきっとそういうところが……」
少女の言葉を先程コーヒーを運んできた男性店員の声が遮る。
お冷を受け取りながらミックスジュースを注文した歩美は何処か居心地悪そうに、やたら視線を宙に漂わせてもじもじとしている。
自分の中でコナンへの気持ちを纏めている最中なんだろうし気長に待とうとコーヒーにミルクを入れてくるくるかき混ぜ、口に含んだ瞬間歩美は口を開いた。

「歩美、コナン君の事が好きなんだけど……きっと、ううん絶対コナン君は紫月お姉さんが好きなんだと思う!」
「ぶっ!?」
口に含んでいたコーヒーが少量で、大半が既に嚥下していて本当に良かった。
そうでなければ歩美にあまりにも見苦しい姿を晒すだけでなく、ポアロの店員にまで迷惑をかけてしまうところだった。

「えーっと……コナン君が好きなのは私じゃなく蘭ちゃんだと私は思うな?」
幼馴染みで同い年。
それでいてずっと一緒に居た二人の間にそういう感情が芽生えるのは何らおかしくないし、彼は小さくなった今でも蘭ちゃんが異性として好きなことに変わりはないだろう。

「紫月お姉さんを見てるコナン君の目は蘭お姉さんを見てる時とは全く違うもん!」
「コナン君が私のことを好きだっていう根拠はどこから……?」
「女の勘よ!!」
とても申し上げにくいのですが、その勘180度間違ってるんです。
蘭ちゃんを見る目が特別で、私を見る目は鈍臭い年上の幼馴染みを哀れんでるものだからね……。
呆れ混じりの視線を背中に受けるのにも随分と慣れてきてしまっている。

握りこぶしを作ってそう訴えてきていた歩美の前に注文していたミックスジュースが置かれ、その横にホイップクリームが添えられた美味しそうなシフォンケーキ。
更に私の前には熟した苺をたっぷり使用したミルフィーユが……えっ?

「わあ、美味しそう…!紫月お姉さんありがとう!」
「(ポアロっていつからこんなデザート系を扱い始めたんだろ。いいやそれより注文ミスなら早く言ってあげなきゃ)」
「ごゆっくりどうぞ」
視線が交わった直後口元を綻ばせ、人差し指を口前に置いた店員の青空のように澄んだ瞳が紫月にしか見えない場所に置かれたメモに向く。
満面の笑みを浮かべシフォンケーキを頬張っている歩美の目を盗むようにそのメモを手に取った。

「(試作品なんですが良ければどうぞ。感想はまた後日で構いません……か)」
歩美の中の小さな誤解を解くか否か逡巡している紫月に男性店員は目尻を下げ微笑んでいた。
……ここは店員の好意に甘えて、これから更にポアロに足を運ばせていただく形で彼への恩返しとさせていただこう。
手を合わせてミルフィーユにフォークを差し込んだ紫月の姿に店員は銀の盆を抱えて背中を向けた。

「歩美ちゃんちょっとごめんね」
軽快な音を奏でるiPhoneを取り出し通知内容を確認する。
クールビューティな彼女からメッセージを飛ばしてくるなんて珍しいと思いながら画面をスライドさせた。

『彼、そっちに行ったわよ』
「彼ってもしかして……」
「新一お兄さんの事!?やっぱり紫月お姉さんと新一お兄さんはそういう関係だったのね!」
「えっ!?違うよ歩美ちゃん、新一君が好きなのは──」
「あれれ〜?紫月姉ちゃんと歩美ちゃんってちょっと珍しい組み合わせだね!」
平成のホームズを振り切れたなど思い上がりが過ぎていたらしい。
口元を両手で覆って初心な反応をする歩美と真逆に紫月は乾いた笑いを漏らしながら、猫被り100%の新一もといコナンを見て唇をひくつかせた。

「ねえねえ紫月姉ちゃん僕もここお邪魔していい?喉乾いちゃった!」
「それなら歩美ちゃんの隣に……」
「おにーさーん注文お願いしまーす」
ごくごく自然に紫月の隣に腰を下ろしたコナンに少し落ち込んだ素振りを見せる歩美に何てフォローを入れよう。
このままでは女の勘大的中だと思われてしまう……!
という紫月の葛藤を彼が知るはずもなく、運ばれてきたオレンジジュースに舌鼓を打っていたコナンは目を丸くさせて隣の紫月に視線をやってから歩美を見つめ首を傾げている。

「今日の事は歩美と紫月お姉さんとの秘密だからね!ばいばいコナン君!」
「……どうして私がここに居ると分かったんですかね」
「灰原だよ。不穏な切り方だったからこっちは気が気じゃねぇし何度掛け直しても電源から切られてっし「彼女なら今日ポアロで優雅にお茶らしいわよ」ってあいつから聞いたから……」
「(相手が歩美ちゃんだって事を敢えて伏せて……いや、哀ちゃんはそんな事をする子じゃ無いよね!)」
「紫月の考えを否定するようで悪いが、あいつはかなり意地の悪い奴だぞ」
「え……」
声を潜めて今までの経緯を話し、更に心中を射抜いてきたコナンに思わず間抜けな声が漏れてしまう。
そんな紫月の姿から目を逸らして残り僅かになったオレンジジュースを音を立てて啜っていたコナンはストローから口を離すと、ニッコリ綺麗な"笑顔を作って"改めて言葉を発した。

「考えてる事が顔に出る、って蘭姉ちゃんや園子姉ちゃんからよく言われてるよね」
「そ、そそそんな事ないです!」
「話の続きは阿笠博士の家ですっぞ……お会計お願いしまーす」
紫月の腕をがっしり掴んで立ち上がらせたコナンに静かに首を振った紫月は鞄から財布を取り出し、これから阿笠邸で行われるであろう小さなホームズの尋問にこめかみを押さえた。


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極夜