口にする事は許されない


「ルネッタ!?」
「こんにちは……って時間じゃあないね。こんばんはベス君」
悠長に夜の挨拶なんてしながら手をひらつかせたルネッタと一気に間合いを詰め、両肩を掴む。
遠目からでは気が付けなかったが彼女の顔色は月明かりの下でも蒼白く、本調子には程遠そうだということは医療の心得がない俺でも分かった。

「長らくベッドに横たわって夜風に当たっていなかったから、ケンタッキー君やシャルルヴィル君の目を盗んでこっそり、ね」
「……俺がここに居ると知って来ただろ」
「さて、どうでしょう」
人の良さそうな微笑を浮かべて切り株に腰掛けたルネッタから少し離れた場所に腰を下ろしたベスにきらきら眩しい瞳を向けたルネッタが真隣の切り株を叩く。

「ここにベス君が座ったら教えようかな?」
「はあ……分かった。座ればいいんだろ座れば」
……と言って腰を落ち着けたベスは予想以上にルネッタと距離が近いことにドキリと心音が早まるのを感じた。
真っ直ぐ楕円型の月を見据えるルネッタの横顔は雲一つない月明かりに照らされ、この世界の人間とは思えぬオーラを纏っているように思えてしまう。
ルネッタを凝視し続けているベスの深緑の瞳が彼女の瞳と交わる。

「ベス君おすすめの夜景スポットに一度も足を運べてないって事が悔しいから、体を動かせるようになったら真っ先にここに来ようと思って」
「数日間意識不明で、飯も半分しかあり付けてない病み上がりの人間が来る場所じゃないだろ。お前の身に何かあったら大勢の人が──」
「その大勢の中に、ベス君は含まれてる?」
彼女の髪を揺らしていた風が途端に凪いだ。
本来であればその風にかき消されるはずだった独り言にも近いルネッタの言葉にベスは息を呑んだ。

何と言えば彼女は納得してくれるだろう。
自身を目覚めさせてくれた、この世界で何よりも特別な人物。
ルネッタを守りたいという気持ちによって絶対高貴に目覚める事も出来たし、その気持ちは今も全く揺らいではいない。
ぶっきらぼうな自分なりに今までそれらの感情はルネッタにぶつけてきたつもりだったのだが──。

「マスター、いやルネッタ。俺は……」
「なぁんてね!ベス君の言うように病み上がりでちょっと心細くて、思ってもない事を口走っちゃった!」
軽い音を立てベスの肩に寄り掛かってきたルネッタの体が僅かに震えている事に気付かないふりをして、そっとベスはルネッタの肩を抱き寄せた。


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極夜