鎖に繋がれた心


※親愛EPのバレ山盛り


レジスタンスで貴銃士のマスターとなってから忙しない日々の連続で、時には命の危機に晒された時もあった。
その危機を乗り越える度にレジスタンスの仲間や貴銃士と距離を縮め、出会って間もない頃は捨てられた猫のように殺気を立て睨んでいた人も──。

「俺の言葉を無視するとはいい度胸じゃないか」
目と鼻の先にあるスナイダーの端正な顔が忌々しげに歪み、顔の両側に置かれた手に力が入ったのを感じ取ったルネッタは薄ら瞳に涙を浮かべた。


今思えばスナイダーと呼ばれている青年はルネッタを筆頭に仲間である貴銃士だけでなくレジスタンスの人間にも冷淡で、一歩どころか十歩以上距離を置いている人物だった。
エンフィールドに対しては鉄仮面のような表情を崩し話す傍ら、戊辰戦争での因縁があるゲベールとの口喧嘩は日常茶飯事。

元は銃である貴銃士達が食事や趣味を楽しむ姿に冷ややかな眼差しを送り、炭酸水で食事を済ましていると小耳に挟んだルネッタがエンフィールドに頼み込んでショートブレッドを渡して貰ったのはまだ記憶に新しい。
(その翌日、ショートブレッドを受け取ったスナイダーの表情がいつもより人間らしさを帯びており「次からは直接渡しに来い」と言われた時は嬉しくて一日鼻歌を歌いながら仕事をしていた記憶がある)

ルネッタをマスターと認めてからは嘆息をつきながら力仕事を手伝ってくれるようになったし、毒しか感じられなかった言葉も幾分か落ち着いてきた。
作戦で深手を負うとルネッタの前にふらりと現れ、作戦中の出来事(大体が旧式もといゲベールか兄銃のエンフィールドの事であったのは黙っておく)を話すスナイダーに相槌を打ちながら治癒を施すのが日常となってきていた今日。


「今回の作戦に参加する僕の代わりにスナイダーの事を少しだけ、気にかけてやって下さいませんか?あんな人格なのでマスターであるルネッタさん以外頼めそうになくて。忙しいのは僕もよく知っていますので気持ち程度で十分です」
出立間近まで弟銃を気にかけているエンフィールドに「スナイダーさんの事は私に任せておいて下さい!」と力強く頷き、遠方で小さく手を振っているゲベールに手を振り返したルネッタは踵を返す。

「……気にかける、かぁ」
任せておいてと大口を叩いたものの二人が無事帰還するまでスナイダーに対して、何をすれば良いだろう。
食への関心が薄い故に偏食になってしまいがちな所に目を光らせるのは当然として、他には……?

唸りながら基地内の廊下を歩いていたルネッタの視界が突然黒に染まった。
驚き、声も出せないルネッタをよそに彼女の体は宙に浮き、扉の開閉音と無情な施錠の音が耳に届いた。
視界を奪っていた物──布が取り払われ安堵したルネッタが視界に移りこんだ青年の名を発すると、彼は口端を吊り上げ目を細めた。

「昨夜エンフィールドから聞いたが、エンフィールドとゲベールは暫く作戦で基地を離れるらしいな」
「はい。エンフィールドさん達はつい先程、出立されましたよ」
スナイダーの唇が殊更吊り上がる。
本能的に良くない事が起きると察知したルネッタが脚を動かそうとするよりも俊敏にスナイダーがルネッタの手首を掴み、質素な作りのベッドにルネッタの体は転がり込んだ。
捲れ上がったスカートを直そうと下に伸ばしかけた両手はいつの間にか布で縛られ、呆然とそれを見つめていた顔を上げると意地の悪い微笑を浮かべたスナイダーの顔がある。
反射的に後退ったが最後すぐに背中に衝撃が走り、後ろの壁に青年の手が伸ばされる。

「なあルネッタ、数日前のことはちゃんと覚えているか?」
ルネッタの顔からみるみる血の気が引いていく。
ショートブレッドを取りに衛生室を訪れたスナイダーが目撃したのは先の作戦で負傷した貴銃士達と、その奥で一人一人丁寧に手当てを施しているルネッタ。
彼女はスナイダーと目が合うなり目を細め、彼へ駆け寄ってきたものの苦虫を噛み潰したような顔でルネッタが持ってきたショートブレッドを奪い退室してしまったのだ。
本当ならばすぐにでも後を追いかけたかったのだが、状況が状況なだけに貴銃士の治療を優先し今に至るわけだが……。

「言いつけを破り、無理をするのであればお前を気絶させてでもベッドへ連れて行く。暴れるなら縛り付けるのもやむ無し……とは前々から言っていたはずだが」
「私はこれっぽっちも無理をしていないのでこれ、外してもらえませんか?」
「お前は俺以外の貴銃士も気にかけすぎるきらいがある。いっそ行動の優先度を全て、俺が管理してやろうか」
じり、っと距離を詰められスナイダーの吐息が耳を掠める。
肩を揺らし耳を真っ赤に染めながらも、スナイダーの言葉と提案を否定するように縛られた手で彼の肩を押す。

頭上から深い溜息が聞こえてくる。
耳まで熱を帯びた顔を上げ、潤んだ瞳をスナイダーに向けると壁に置かれていた両の手がルネッタの頬を包んだ。

「戦場では俺の傍に置き、基地では俺の部屋に閉じ込めて縛り付けよう。──ああ、でもその前に……自分が誰の物なのか、ルネッタの身体に刻んで分からせてやらなくては」
スナイダーの紫の瞳は唯一無二の所有物を前に、怪しくも艶やかな色を放っていた。


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極夜