狂った歯車は止まらない
ストーリーバレ有
幼馴染み副隊長でシリアス暗い
『どうして?』
突然響いてきた声に勢いよく振り向くと、そこに広がるのは無限の闇。
なんだ、気のせいかと向き直ろうとした矢先さっきよりも明らかに近い場所からその声が聞こえてきた。
『ねえ、どうしてあの時ジュリウスの背中を追いかけようとして、その脚を止めたの?』
「ジュリウスから皆と、この場を頼むって言われたから……」
『後を追っていたらロミオも死なず、ジュリウスも辛い思いをせずに済んだかもしれないのに?貴女のせいで────』
「……い、起きろルネッタ!おいっ!」
首がガクガク揺れている。
頭を上げて周囲を見渡すとすっかり見慣れた紫色の帽子と、不安げに揺れる薄緑の双眸がそこにあった。
「報告書を仕上げると言い残してから姿が見えないと皆がお前の事を気にかけてたぞ。言っておくが入室時にちゃんとノックしたからな」
「あ、ああそうなんだ。心配かけてごめん。それからありがとう」
時計を見るともう間もなく0時を迎えるようだ。
夕飯を食べ損ねてしまったと気付いてから切ない音を響かせ始めた腹を少しでも沈めんが為、それとギルバートをもてなす為に席を立とうとすると白のトレイをずいっと突き出された。
「茶なら持ってきた。あとルネッタの夜食もな」
「ギル……!」
「よく咀嚼して食わねえと喉詰まらせるぞ」
言った直後に呻いた少女に苦笑いしながら青年が紅茶を差し出せばルネッタはヘコヘコ頭を下げ、受け取った紅茶を流し込んだ。
一息ついたところで有耶無耶になっている事を思い出し、ルネッタはギルバートを見つめた。
「許可を得てから部屋に入るつもりだったんだが、反応がない上に中から魘されてるような声が聞こえてくるしだな……一応悪かったと思ってる」
「ん?私のことを心配して訪ねてきてくれたギルがどうして謝るの?」
「(こんな夜更けに男をホイホイ部屋に上げる点だとか、施錠もしていない事だとか言いたい事は山ほどあるがコイツに言っても無意味だろうな)」
夜食の食べかすを口横に付着させたまま、こてんと首を傾げているルネッタにギルバートは溜息を吐きながら帽子の鍔を掴み、右手の親指で食べかすを拭う。
「ところで報告書はあとどれくらいで終わるんだ?手が必要ならいつでも頼れ」
「報告書ならもう殆ど完成してるから明日の朝にでもジュリウスに送れると思う」
「そうか。なら夜更かしせず早く寝て明日に備えろよ」
くしゃくしゃと乱雑に撫でたルネッタの髪は柔らかく、甘い香りがした。
表情をほんの数秒翳らせどこか憂いていたルネッタはその言葉に強く頷き、わざわざ夜食を持ってきたギルバートに何度も礼を述べていた。
* * *
『貴女のせいで、ロミオは死んでしまったのよ』
「副隊長!」
怒号に近い叫び声に頭を上げる。
眼前に迫り来る砲弾を防ぐには些か気付くのが遅すぎたらしく避けようにも前方には討伐対象のアラガミ、左右はアラガミが破壊した建物の瓦礫と進退窮まっていた。
五体満足でフライアに帰投出来ればいいな……と思いながら肺に溜まっていた酸素を吐き出し握っていたブレードを両手で構え、そしてそのまま一閃。
両断された砲弾はルネッタの両隣で炸裂し、運悪く飛んできた小さな破片がルネッタの視界を赤く染めた。
「流石副隊長!今のかっこよかったよ〜」
「悠長にそんな事を言ってる場合じゃないですよナナさん。今回復します」
「ごめん、シエル」
シエルから回復弾を受け、仕切り直しと武器を握る力を強めたルネッタの眼前に広がる紫。
ギルバートから鋭い一撃を見舞われたアラガミは地に伏し、沈黙した。
「帰るか」
アラガミからスピアを回収したギルバートがおもむろにルネッタと距離を詰め、先程負傷したであろう瞼の上付近を指先で叩く。
「もう少し位置がずれていたら失明どころの話じゃ済まねぇぞ。……おい、ルネッタ聞いて────」
ブレードを地面に突き刺してやっとの思いで凹凸のある大地に立ち、荒い呼吸を繰り返しているルネッタの肩を叩く。
討伐対象の沈黙により緊張の糸が切れたルネッタはギルバートにもたれかかるようにして、倒れ込んだ。
遠くで聞こえるブラッド隊員に大丈夫だと伝えなければならないという考えとは裏腹にルネッタはゆっくりと、意識を失った。
* * *
「ルネッタがアラガミとの戦闘中に負傷。未だ意識を失ったまま、か」
ラケルと共にフェンリル本部へ足を運んでいるジュリウスの眉間に、深い皺が刻まれる。
隊を任せているルネッタにはまめに返信をしていたものの、他の隊員から送られてくるメールには目を通すだけで手一杯になっていたそんな矢先に届いたシエルからの近況報告メール。
思い出すのは、赤い雨と腕の中で徐々に冷たく固くなっていくロミオの姿。
その姿が幼馴染みの少女と重なって、ジュリウスは固く目を閉じた。
『これでルネッタを失わずに済みますね』
意味深にジュリウスに微笑みかけてきたラケルは間違いなく、ルネッタがジュリウスにとってとりわけ大切な人である事を知っている。
「ロミオだけでなくお前まで居なくなったら俺は……」
端末の電源を落としたジュリウスは宛てがわれていた部屋を退出し、ラケルの元へ向かった。
副隊長を務めるルネッタの負傷はブラッドの、何よりジュリウス自身の逸脱し始めた歯車を加速させるには十分過ぎる案件だったのだと未だ目覚めない当人が知る他なかった。
prev next
[back]
極夜