暇つぶしには最適の玩具


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「こんなところに居たんだ?」
少女の肩が大きく跳ねて、細い腕から分厚い本が零れ落ちる。
何やってるのと溜め息をつきながら本を拾おうとすると放心状態に陥っていた紫月も漸く我に返ったのか僕と同じよう床に落ちた本に手を伸ばした。

「そんな大袈裟に驚く必要もないんじゃない?」
「ごめんなさいレオンさ、ま」
拾い上げた最後の一冊を手渡す際ほんの僅かに指が触れ合う。
それだけにも関わらず紫月は耳まで真っ赤に頬を染め上げた。

「すすすすいません!わざとじゃないんです、本当ですよレオン様」
「あんたは僕の臣下じゃないんだし様付けしなくていいよ。あと敬語も」
「ええっ!?あ、いやでもその…」
もごもごと口を噤み赤い顔のまま俯いた紫月に二人だけの時ならどう?と付け足す。
たっぷり10秒置いた後、蚊の鳴くような小さな声がレオンさんと紡いだ。

「なんだか恥ずかしいです…」
「たかだか名前呼ぶだけで?」
「顔近づけながら言わないで下さい!わざとしてますよね!?」
睨みつけているつもりらしいが耳まで赤く染め上げて、更に身長差から生じる上目遣いによって迫力はミジンコ程も感じない。
”誘っている”と思われても仕方ない表情だ。

「そんな赤い顔で上目遣いなんかしてさ。僕を誘ってるの?」
「ささ、誘って…!?レオンさんの変態スケベ!」
いよいよ涙まで浮かべ元来た道を駆けて行く紫月の姿を捉えたまま緩やかに笑みを作る。

「暫くは暇を潰せそうかな」
歪に釣り上がっていく口を隠すことなくレオンもその場を後にした。


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極夜