迎えに来たよ
*病み神くんの悪い話
*ネタ帳派生
特に理由なんてものは存在しなかった。
ただ目の前でいじめられている名前も顔も知らない男の子が可哀想に思えて人並みの良心が起こした行動。
それをここまで後悔する日が来るなんて。
「お巡りさんここ!カツアゲの現場はここですよ!」
百済木とその仲間が大きな舌打ちを残して逃げ去っていく。彼らの後を自転車に乗ったお巡りさんが追いかけていくのを見届けてから男の子に声をかけた。
「大丈夫?怪我はしてない?」
惚けたまま瞬きひとつしない彼の目の前で数回手を振る。漸く我に返った男の子は何を思ったのかわたしの手を強く握りしめた。
「…いつ如何なる時も貴女は心優しい人ですね雨之森菜乃さん」
愛想の良い笑顔を向ける彼に対して言い知れない感情と、全身に悪寒のようなものが同時に駆けた。
一刻も早くこの場から立ち去りたいと湧いて出た考えに自然と顔は強張り、その手を振り払おうと力を込める。
「目の前で僕がいじめられていたら絶対に助けてくれると分かってた。試したわけじゃないから気を悪くしないで欲しいな。君は小さい時に僕"達"の事を助けてくれた恩人で女神のように清らかな心を持つ人だと分かっているからね。この街に住んでいると分かった時は驚いたけど、今こうして再会出来たのは何ものにも替え難い縁あってだと僕は思うんだ。菜乃も同じ考えだよね?さっきから顔色が良くないけど大丈夫かい?百済木みたいな下衆な連中の顔を見てしまったからかな?安心して明日までにちゃんと"消し"おくから」
「さっきから貴方は何を言っているの?…恩人って何?消す、ってどういうこと」
わたしの言葉に彼は今までの嬉々した表情を一変させて物悲しげに眉尻を下げた。と思うとまた先のように満面の笑顔を滲ませ手の力を強めた。
「人が良い菜乃はいつも誰かの為に尽力しているから僕の事を忘れてしまっていても仕方ないさ。昨日だって袋が破けて品物を落としたお婆さんを助けて、風船を飛ばして泣いていた女の子に新しい風船を手渡してあげてただろう知ってるよ。君が僕を忘れていたとしても憤りや悲しむことはない。だって……これからはずっと菜乃と同じ場所に居る事が出来るのだからね!!」
わたしの手を掴んでいるのと反対側の手から何処からともなく不気味な光を放つキューブを取り出した男の子が目を細める。
本能が…第六感が危険だ、逃げろと警鐘を鳴らしている。
彼を助けようと良心に従って行動していなければ、わたしはこんな目に遭わずに済んだのだろうか。
「じゃあそろそろ行こうか。募る話もあるしあっちでゆっくり話そう」
「ゃ……いやよ…お…わりさん!お巡り……」
キューブが一際強い光を発した時には何人の姿もなく、そこには菜乃の鞄が転がっているだけであった。
「先日突如姿を消した女子高校生の雨之森菜乃さんは性格、素行共に問題もなく人から恨まれるような子ではなかったという声も寄せられており、警察は何らかの事件に巻き込まれたものと━━」
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極夜