休日のペットショップというのは人が多くごった返すもので、それは購入目当てもいれば見に来るだけの冷やかしに近い客も多い、しかしながら決してその空間に似合わない人間こそが案外一番動物を大切にしている。というのも彼女は察していた

「こんにちは丑嶋さん」
「どうも」

真っ黒なスウェットの服装に顎髭にメガネをした恰幅のいい男は正直なところ話し掛けづらいもので、彼が歩けば自然と人が避けてしまうほどだった、それでも話しかけてしまうのは彼の性根が優しい情のある人だからでネームプレートにエプロンをつけた女はその男の手の中のものをみては目をキラキラとさせた

「うさぎちゃん達のご飯…新しいものですか?」
「あぁぷんちゃんがこれが気に入ってるらしくて」

ぷんちゃん…とこの男に全く似合わない言葉に思い出すのは数ヶ月前に引き取ってもらったうさぎだった
手の中のチモシーはこの店で一番高級なものであり、どうやらあのメスうさぎは随分とグルメらしいと察しては「まぁまぁ…」と思わず眉を下げてしまうのは彼女がこの男、丑嶋馨といった彼に里親として声をかけたせいだ

それは偶然の出来事で小さなペットショップの入口にあるダンボールから始まった
"よろしくお願いします"と子供の字で書かれたその中は劣悪な環境であり、数匹の生まれたてのうさぎがいたものの言葉に出来ないものであった、生きていた数匹のうさぎを慌てて温めてミルクをあげつつ家の中の状態を考えても子うさぎの世話は出来ないが命を無視できない…と思いつつ店の中でどうにか店長に相談し里親募集をしている時であった

「…里親募集してんの?」

商品のバーコードを読み込んでいればふと掛けられた声に思わず相手を見ればそれは目の前の男性で、定期的に来るもののその風貌からは積極的に声をかけられない人だった

「ええ、店の前にいた子達なんですけど引き取り手が見つからなくて」

それでなくてもうさぎ繁殖力も強い生き物であり、意外と気難しさもある、かわいいだけが生き物では無いため気軽に人には譲れない為余計に難しかったものの彼は「あんたは引き取らないのか」と問いかけられた為既に三羽飼っているため難しいと伝えれば彼は納得したようだった

「お客様はうさぎを飼われてるようでしたらどうですか?r
「うちはもう十六羽いんだわ」
「じゅうろ…えぇ…」

ブリーダーのようだと思わず目を丸くするが目の前の彼は無責任に繁殖させているようにはみえず、里親の件もそっちのけに思わず「お名前はみんなあるんですか?どんな種類の子を?うさぎ好きですか?」と思わず前のめりに声をかければ眼鏡の下の目を丸くした彼はその質問に業務的に答えた
レジを打ち終えて金額を伝えては業務を終える頃静かな店内で彼に差し向けたレジ袋を持った彼女は思わず目の前の男に声をかけた

「よかったら子うさぎちゃんみます?」

大きくても小さくても可愛いが子うさぎというのはあっという間に過ぎ行く時期のものだった、店頭に並んだうさぎも大きく飼育しやすい子達であり今はミルクをあげる程小さいのだといえば彼は黙りこくった末に「みる」といった

「手馴れてますね」
「今は無いが多頭飼いを始めた頃に間違えて子供が出来たんだ」
「私も昔なったことあります、とっても大変でした、昔からうさぎを?」
「あぁ昔から居た」

一回り近く大きな彼の手が子うさぎを抱きシリンダーからミルクを与えた、ダンボールの中には他にもいたが寒空の下ダンボールの中でカイロのひとつもなく置いていかれたその子たちは簡単に命を奪われており、その中でも最終的に生き残ったのはもうこの子だけだったと伝えた

「一羽だけなんだから。って思うんですけど中々動物のお世話も難しくて」
「そりゃあそうだ、命だからな、無責任に飼うヤツらがおかしいんだあんたの判断は正しい」

綺麗事ばかりがこの世じゃない。と告げる彼の言葉はどこか重々しくなにか別の話をしているように感じられた
一見冷たく感じる彼だが手の中のうさぎは安心しきってミルクを飲み干しては眠りについており、子うさぎでありながらプスプスと鼻息を立てていた

「かわいいですね」
「あぁかわいい」
「…そういう事いうタイプですね」

どういうことだと言わんばかりの彼の顔に「お迎えやっぱり難しいですか?」といえば彼はとても難しい顔をした末にケージに子うさぎ用の飼育道具をまとめて購入したのだった

「よかったら連絡先交換しましょう、何かあれば私もすぐ対応しますし」
「そうだな」

全ての荷物を車の中に乗せるのを手伝い終えてポケットからスマホを取り出し簡単に連絡先を交換すればやはりアイコンはうさぎで、名前はシンプルなフルネームだった

「うしじま…」
「丑嶋馨だ」
「丑嶋さんですね、私っ「知ってる」

声を被せて言った彼は名前を呼ぶものだから何故かと思ったもののネームプレートを見ていてくれたのかと察して照れ笑いを浮かべた
車に乗った彼は窓を開けては「また何かあれば頼む」というため勿論だと頷いて軽い挨拶をして手を振った、それが彼との出会いだった。

あんな時からもう数ヶ月、あっという間だったと思い出してはぷんちゃんの話に始まり互いのうさぎの話で盛り上がりを見せた
丑嶋という男は見た目に反し相当細やかで、よく居るうさぎ好きとは比べ物にならない程であった

「丑嶋さんに引き取って貰えて本当によかったです、毎日とっても元気なみんながみれますし」
「家に帰れない時もあるからその時はシッターに頼んでいるがな」
「それでも凄いですよ、私のところはあんなに出来ませんもん」

気をつけてはいるんですけどね。と笑う彼女に「十分なことをしてる」と慰めの言葉をかければ思わず笑みが浮かぶ、そのままレジに向かっていつも通りに会計を済ませ車に乗せるところまでを手伝うことは彼が来る度当たり前のことになっている

「俺もあんたからの連絡がいつも楽しみだ」
「お互い様ですね、私も同じ気持ちですから」

ほとんど毎日のように互いのうさぎの写真を送り合うだけだがそれが心地よかった、それ以上何も望まれないこともだが下手な下心を見せてくる男よりもずっとマシに見えるからで、少なからずそうした交流から彼女は丑嶋を悪くは無いとも思っていた
運転席に乗り込んだ彼に気をつけてと手を振り送り出そうとすれば窓が開き彼が顔を覗かせた為、なにか忘れ物だろうかと見つめれば彼は少し口ごもった後に声を出す

「今度よかったらウチにぷんちゃんの様子を見にくるか?」

下心は無いし見たらすぐ帰ったらいい。と念を押す彼に思わず腹から込み上げた笑みがこぼれてしまうも目の前の彼はとても気難しい顔をしていた

「ふふっあぁごめんなさい、嬉しくて…もちろん行きたいです」
「じゃあまた連絡する」
「ええお願いします」

呆れた彼は窓を閉めて行こうとするため彼女は最後に声をかける

「それと丑嶋さん」
「なんだ」
「下心あってもいいですよ」

そういえば彼は何も言い返さずに窓を閉めて行ってしまった、去りゆく車を見つめては頬を緩めて店内に戻る、次いつスマホが震えるのかを期待しながら彼のかわいいうさぎに会えることを期待してしまうのだった。

2025.2.28