マリキータマン

まるでバケツを返したような大雨だと深い溜息をこぼす、生憎と傘は持ってきておらず雨宿りが出来そうな場所に避難したマリキータマンは空を見上げ通り雨だと察し慌てて濡れ帰ることもないと雨が止むのを待っていた

「マリキータマンさん?」

ふと聞こえた自分を呼ぶ声は聞き慣れな仲間の声ではなく、さらにいえば男ではない柔らかい女の声であり視線を向ければそこには傘を指した女が一人

「ティアか」

静かに名前を呼び返せば彼女は嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべるその手の中には今日もまたその細い腕に見合わない量の食材が詰まった買い物袋を持っていた

「凄い雨ですよね、雨宿りですか?」
「あぁ生憎傘を持ってきてなくてな」
「良ければ入ります?」

そういって彼女は片手を上にあげるのはマリキータマンを招くようであり彼は数秒間を開けて考えた末に「頼む」と返事をした。
マリキータマンの胸ほどの高さしかない彼女から傘を受け取りついでに礼だといい荷物を片方持ってやれば彼女は多少申し訳なさそうな表情を見せつつも「どこかに行かれるんですか?」と問われ帰り道だと返事をした
何を話せばいいのかも分からずに彼女のつむじを見つめていれば彼女も多少気を使ってかなんてことの無い話をする為適度な相槌を交わしつつその小さな歩幅に合わせ濡れないようにと彼女の方に傘を向けた

「そう言えばさっきてんとう虫を見かけたんですよ」

脈絡もなくそういった彼女に素っ気ない短い返事を返しそうになるも彼女は続けざま てんとう虫は幸福のシンボルなんですって。 といった
その言葉に自身がてんとう虫でありながら幸福とは程遠い存在など思っていれば歩幅を緩めた彼女は見上げた

「こうしてマリキータマンさんと会えたからてんとう虫の幸福って本当なんだなって」
「キャミミそうなのか」

普段彼女と会う際は完璧超人がついてくるか、マリキータマンの仲間がいるかだった為に二人きりというのは至って珍しいことだった。
自分こそ彼女と二人きりで過ごせたことを幸運だと感じながらもそれを口に出せずに入ればふと彼女に手首を捕まれ引き寄せられ思わず驚いていれば傘を彼女に寄せすぎて自分が濡れていると注意されその程度のことと気にしないものの彼女も引く気は無いらしい

「オレは超人だから大丈夫だ」
「そういってる人みんな風邪ひいたからだめってば」
「そんなヤワな奴らと同じにするな」

ぎゃいぎゃいと言い合いをするが案外気の強い彼女もまた引く気は無いらしいもののマリキータマンはそれ以上に初めて味わう彼女との距離感に戸惑い身体の熱が上がることを感じた
柔らかい女の身体が触れる度に脈拍が高くなりイヤでも意識してしまう、それはマリキータマンが彼女を良く思っているゆえだ、自身の身体にぴっとりとくっつく人間という脆い身体に対して傷のひとつでもつけては堪らないと諦めかけた時

「あれ?雨やんでる」

そういった彼女は先程のやり取りなど忘れて傘の中から抜け出して嬉しそうに先を歩く為、傘を畳んだマリキータマンは全くこの女はと呆れてしまう、自分ばかりが振り回されてどうしようも無いからだ

「雨が止んだのもマリキータマンさんのお陰かな」
「オレは何もしてないだろ」
「確かに…それに雨が降ってる方が私は良かったなぁ」

ようやく戻ってきた彼女は目的地付近のため荷物を持ち続けてくれたマリキータマンに感謝した、雨が降っていては買い物も大変だっただろうと呟くも彼女は見上げては目を細めて普段通り笑みを浮かべた

「その方がもっとマリキータマンさんと近くで居られたから」
「…誘い文句が上手いんだな」
「思ったことを口にする癖があって」
「悪い癖だと言われないか?」

その言葉に彼女は苦い表情をみせるためマリキータマンも堪らずに彼女に笑みを返してはずるい人だと感じた

「キャミキャミ、しかし雨じゃなくても貴女が望むならいつでも側にいてやるが?」

例え所属や立場が違えども二人の間に特別なものがあるのならばとマリキータマンは思い伝えれば彼女はマリキータマンの顔を見たあとその顔色を赤く染めてあげていく、彼女に合わせた歩幅ではなく自分の歩幅で彼女に歩み寄りその頬を撫でて問いかける

「それとも雨しか受け付けないか?」

その言葉に顔を合わせられなくなった彼女は俯こうとすると彼の指先は顎を掴み逃す様子はなかった、どこを見ているのかはっきりと分からないハズの彼の視線が目の前の女をしっかりと捉えていることに気付くのはその視線の熱さのせいだろう

「…て、てんとう虫がいたら」

その時はいいよ。という彼女にしばし考えた後に声を出して彼は嬉しそうに笑った、そう…滅多に会えないからこそ会えた時が互いの幸福と幸運なのだと気付いたからだ
帰らないで欲しい。とは言える関係では無いマリキータマンは今日はここまでだと彼女の顔から手を離してやれば僅かに離れた距離が恋しくなる

「なんでも食荒らす危険なてんとう虫かもしれんが、それでもいいのか」

次に会う時の忠告をしてやれば彼女はそれでいい。と告げては行ってしまう、次にいつ会えるのかその幸運をてんとう虫本人は手にできるのかと疑問を抱きながらも次の機会を心待ちにマリキータマンは彼女が去っていった道を見たあと自身の手を見た、彼に似合わないその傘に彼は思わず笑みが浮かびそうになった、案外その幸運とやらはこちらに味方しているのだと知って。

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