ミラージュマン3

完璧始祖であるミラージュマン・完璧始祖達の女中を務めるティア
両者は一点を見つめては呆然と立ち尽くしていた、状況が飲み込めないと言いたげに、いや事実飲み込めないのは当然だった、八畳ほどの質素な部屋の中で存在を主張する出入口、その上に電子掲示板のようなものが設置されており、そこには文字が表記されていた

セックスしないと出られない部屋

二人は互いに顔を見合せてはもう一度文字を見るがそれはうんともすんとも言わず状況は変わらなかった、先に動きだしたのはティアであり彼女は冷静にドアノブに手をやるが鍵が掛かったように動くことは無かった、鍵穴もボルトのひとつも見えないドアに小首を傾げては未だ立ち尽くすミラージュマンをみつめた

「私じゃ開かないみたいだから、ちょっとお願いしていい?その間にどこか他の出口探してみる」

そういってティアは部屋に設置された風呂場やトイレの中に部屋全体をくまなく探した、部屋全体が揺れる感覚と大きな音はミラージュマンが淡々とドアに向かって自身の技をぶつけている最中であり
彼ほどの実力者がドアに衝撃を与えても微塵も動かないのかと思えばこれは相当なものだと焦りを抱いた、しかし原因は分かっていた…いや、実際それが原因だとしてもあまりにも超常現象過ぎるだろうと言いたくなる程である

丁度昼御飯をミラージュマンのところに持ってきたティアな彼と二人、ランチタイムを楽しんでいた
客人も来ないのだから丁度いいと思っていたものの手を付ける直前にドアが開きやってきた超人は早速ミラージュマンに腕試しを挑むもののあっさりと負けて絶命しかけたその刹那「こんな所でくたばるか…クソっ、こうなりゃこうだ!」と言ってはリングサイドで昼食を取っていたティアに何かを放ったことにミラージュマンは慌てて彼女を守ろうとした
そして気付けば謎の部屋にいたのである。

「やっぱりダメ?」
「ゴバッ…みたいだな、全くなんなんだ」
「さっぱり、今時色んな超人がいるから四次元殺法の子たちみたいに異空間に行かせる感じの能力持ちだったのかもね」
「だとしても悪趣味なものだ、これだから下等超人は」

珍しく苛立ったような彼の態度にティアは珍しさを感じた、完璧始祖の中でも比較的下等超人と呼んでいる一般超人のことをそれなりに寛大に受け入れるような彼がまさかあからさまな態度であるからだった
しかしながらティアはあの入口に表記された文字を見ては仕方がないかとも感じた

「ご丁寧にあっちのパネルに条件をクリアしないと出られないと書いてるほど用意周到だ」
「あんな所にパネルなんてあったの?」
「攻撃していたら出てきた」

重たいため息をついたミラージュマンは他になにか出来ないか探るといい先程のティア同様に部屋の中を漁り始めたことを彼女は確認してはドアの横に突如現れたタッチパネルの内容を確認した

・この部屋は中に居るものが性的な行為を行えばドアが解除されるシステムです
・必要なものは全てこちらから注文可能です
・タイムリミットはありません

至ってシンプルな内容であり、これがあの超人の能力なのだとしたら全くなんて無駄な能力なのかと思わず呆れてしまいつつもティアは興味本位にタッチパネルを操作をした、フードドリンクのメニューも豊富であり感心していればルームチェンジと表記がされておりどういう意味なのかと押せば突如部屋はネオンカラーに電飾を変えて、大きな音を立てて部屋の内装が変化していく

「ティア何事だ!?無事か!!」
「う、うん…ちょっとパネルを弄ってたら部屋が変わっちゃって」
「そうか、これでもしかしたら出られる場所が出てきたかもしれないな」

余計なことをしたと申し訳なさを感じるティアに対して優しく背中を叩いたミラージュマンに彼女は「そうだね」と笑顔を向けて部屋の中を二人で探索するように漁り始めるものの先程のシンプルな部屋から一転した部屋はまるで如何にもそうした行為のための部屋のような仕様に変更されており互いに気まずい気持ちになっていた

「これは…」

ミラージュマンは新たに現れたベッド傍のクローゼットの中を開けば小さな自販機のようなものが入っており、そこには下世話な物が並んでおり思わず彼ははドアを閉じては背後で出口を探すティアをみては騒がしくなる胸の鼓動を止めようとしていた

「わぁ…」

ティアはベッド付近を念の為みていれば先程はビジネスホテルのごとくシンプルだったベッドは派手な物に変わり、ベッドの上部には数多のスイッチ、そしてティッシュに正方形の薄いものが存在し気恥しさに顔を背けた、背中を向けて着々と出口を静かに探すミラージュマンは相変わらずの様子であり自分だけが下世話なことをと…と思っては冷静さを取り戻そうとしていた


「「ふぅ……」」

互いに広いベッドに人一人分の距離を開けて座っては酷く疲労しているような表情をした、この部屋に来てから一時間以上は経過しているだろうと感じており出口が見つかる気配は一向にない
出られる条件としてあげられた内容について二人は素直に行動に移せるほどの気楽さは持ち合わせてはいない、恋人でもなく長年信頼のおける友人として過ごしてきた以上その関係を崩すことは簡単では無い。

(でも…ティアなら)
(でも…ミラージュマンなら)

互いの胸の内をさらけ出すことは出来ずとも僅かながらに感じていた想いは同じであった、黙り込んでベッドに腰かける二人は指先を落ち着きなく動かしては次にどうするべきかと考えている間にティアは立ち上がり入口のタッチパネルを操作して水を二つ注文した

「変なもの入ってたらごめんなさい、だけど喉がカラカラだからよかったらミラージュマンも」
「巻き込んだ形だと言うのに悪いな、助かる」
「いいよ、まさかこんな事になるなんて思いもよらないのはあなたもでしょ」
「そうだな、全く最近の下等超人共は弱いからかおかしな能力ばかり身につける」

困ったものだとミラージュマンは呆れたように呟いていれば突如部屋に設置されたモニターの電源がつき、部屋の中に大音量で音が流れ映像にミラージュマンは目を奪われた
そこには男女の目交いが映されており、ふと隣を見れば顔を赤く染めた彼女が慌てて手に持っていたリモコンを操作してチャンネルを変えるもどれも似たり寄ったりな男女の行為で慌てて電源を切り落としては彼女は思わずベッドに腰かけては頭を抱えた

「ごめん…ごめんなさい、まさかあんなのが流れるなんて」
「ゴバ…そんなに落ち込むなティア、気晴らしを考えてつけたのだろう」
「あぁもう本当最悪、こんなところにミラージュマンと一緒なんて」

その言葉にミラージュマンは彼女に伸ばした手を止めた、そして僅かながらに傷ついてしまう、ミラージュマンはティアのことを好意的に想っていた、しかしながら本人からの言葉はまるきり反対のもので仕方がないとは理解していても彼は思わず手を下ろしては深く腰かけた

「そう…だな、私で申し訳ない」

ザ・マンやシルバーマンなど日頃から特に彼女と親しい間柄の者ならばそんな風に思わなかっただろうにと彼は暗い声が出てしまう
なんて部屋に閉じ込めてくれるんだと改めて感じていればティアは慌てて顔を上げてミラージュマンをみつめた

「悪い意味じゃないの!!ごめんなさい」
「ゴバゴバッいいんだ、当然のことだからな」
「そうじゃなくて、ミラージュマンとはもっとちゃんとした時にちゃんとしたかったし、こんな部屋で無理やりなんて最悪だし、ミラージュマンこそ私なんて嫌だろうし…とかその、あの…なにいってんだろ……私ぃ」

本当最悪だ。と顔色を赤や青や黒やと忙しなく変える彼女にミラージュマンは驚きつつも顔を伏せた彼女の言葉を汲み取るに自分が嫌という訳では無いのだと理解しては重くなった胸が軽くなるように感じられた
そして一人分開いた距離を詰めては触れる訳ではなく「私もティアとなら、不快じゃない」と告げた、信頼足りえる相手だからこそであり僅かながらにも互いに思う所はあったことも事実であり顔を上げた彼女を見ては互いに口内に溜まった唾を飲み込むのだった…

シャワーの音がやけに耳につくと感じながらもミラージュマンは今から本当に互いに身体を重ねるのかと不安に駆られていた、完璧始祖になって何億年の時間が過ぎているというのにここまで落ち着きがないのは初めての事でありまだまだ修行不足か。とも思いつつもこんな精神修行はしたことは無いのだから仕方あるまいと自身を納得させた
ガラス張りのシャワールームの奥で身を清める彼女に今からどのように接すればいいのか、どう行為を進めればいいのかと理解しつつも考えては膝の上で拳を作った

「まさか…こんなことになるとはな」

彼にとって性行為は不要なものだった、男性という性別である以上はそれを主張するものは存在するがそうした行為のために使うなどなかった
愛し合う男女の行為はミラージュマンにとっては遠い世界の話のようだったからだ、だというのに今振り向いた先にはきっとガラスの奥で美しい身体を清める彼女がいるのだ
見たこともない傷一つない美しい身体だろう、想像することさえ申し訳ないと思いつつも考えてしまいどうにか意識を他に持っていこうと思えばドアが開く音が聞こえた

「お待たせミラージュマン」
「あ…あぁ」

先にシャワー浴びるのではなかったとミラージュマンは考えた、後からにすればまだシャワーを浴びながらその考えを多少まとめられたかもしれないからだ
ベッドのスプリングが軋み、隣に座った彼女の重みで僅かにベッドが沈む、膝の上で握った拳を眺めていたミラージュマンに何も言わずネオンの部屋には静かな空気が流れた

「あのね、私も久し振りだから、とっても緊張してるけどそんなに気にしないで欲しいの」
「気にするなというのは」
「気遣いっていうか、別にここを出ても私たちの関係は変わらない、もしイヤなら避けたりしてくれたらいいし」
「それは無い!」

ガバリと顔を上げて見つめた彼女は普段ひとつに結んでいた髪を下ろして、バスタオル一枚を巻いた姿でそこにいた
はるか昔に夜の川で見た事のある彫刻のように美しい清らかな躰、僅かに赤らんだ身体は健康的な肉付きをしており男を誘うには充分な魅力を感じさせた、胸元のタオルを握った彼女のその下にある胸と谷間に見たことの無かった部分のホクロなど様々な情報を感じつつミラージュマンは必死に平静を保とうとして深呼吸をした

「今の関係のままだ、ここで今から何が起きても、私たちはずっと仲間であり家族だ、例えティアが人間だとしても、私にとってお前は特別なんだ」
「ミラージュマン…」
「優しくする、大切にする、絶対に嫌がるような真似はしない、絶対にだ」

両肩に手を置いて誓うように告げたミラージュマンの言葉にティアは目を丸くしたあとすぐに優しく笑みを返した、それは彼が何一つ普段と変わらぬ優しい紳士だったからだろう
だからこそ受け入れられると感じ彼の手に自分の手を重ねればゆっくりと見慣れた顔が近付き互いの距離がゼロになろうとしたその瞬間、カチャン--と無機質な音が聞こえ振り向けばそこには【クリア ドアのロックが解除されました】との表記であった

「…開いた、のか?」
「みたい、だね」

ようやく覚悟を決めた二人はドアを見つめた後に互いを見つめては一分ほど黙ったあと「出るか」と告げて着替え直しその部屋を後にした。


ドアを出て直ぐに普段通りの黄泉比良坂の光景が広がりほっと胸を撫で下ろす、リングの上には気を失っているらしい先程の超人が倒れておりミラージュマンは苛立ちを感じるもティアの前では乱暴な真似は出来ないかと諦めてドアから勢いよく外の海に投げ捨てた、運が良ければ生き延びることだろう。
もう一度戻りリングの傍に未だ佇む彼女を見てはミラージュマンは「ゴバ…くだらないことに巻き込んで済まなかった」と告げれば彼女も苦笑いをした
昼食の片付けをしてまた午後からも互いに仕事を頑張ろうと普段通りの鼓舞をした彼女の態度に安心して見送ろうとすれば部屋を出る間際彼女は足を止めてミラージュマンをみつめた

「……私、あの部屋だったからじゃなくて、ミラージュマンだったから受け入れれたんだよ」
「ティア、それはどういう」
「ナイショ、もしその言葉の意味が分かったら今度はちゃんと私を誘ってね。」

それじゃあまた夕飯持ってくるから。といってその場を後にした彼女にミラージュマンは静かな黄泉比良坂で立ち尽くした、その言葉の意味が理解出来るようになるまで一体どれくらいかかるのか…それは今の二人にはまだ分からぬ事だった。

HOME