サイコマン

近頃彼女が色気づいたと思うようになったのは彼女の身なりが以前にまして随分と良くなったからだろう。
向かいの席に座りミシンの針を進める彼女とこうして自身の部屋で服飾作りをするのはもうどれくらいのことか、サイコマンはその事について考えつつもそれが彼女のため、シルバーマンのためであるのならばと自身を納得させた

「いつも思うんですがその服どうにかならないんですか」

嫌味混じりに告げた言葉に彼女はもう随分と使い古してボロボロになった自身の服を見つめては「でもこれしかなくって」と苦笑した
確かにそれ以外にあるものは寝巻きとやってきた時に着ていた面白みのないシャツとジーパンだけだった、周りの始祖達は何も言わないものの所々糸がほつれ飛び出して、裾の汚れも落ちにくくなってきた割烹着と軽装を身に纏う彼女とシルバーマンを並んでいる姿を見てはいつもサイコマンは苛立っていた

「そんな格好でいるとシルバーマンさんが可哀想ですからね、仕方ありませんから私の服を数着お貸ししましょう」
「ありがとう、でも…」
「なぁに遠慮はいりません、これでも私義理堅い方ですからいつも食事作りをしてくれる貴方への多少のお礼です」

仕方ないと言わんばかりのサイコマンに対してティアは酷く申し訳なさそうな顔をした、元より彼女は自分の身分をよく理解しており謙虚だった、その為その反応なのだろうと思ったものの「サイズが多分合わないと思うの」という言葉に彼は呆気を取られたあと少し間を開けてから彼女が女性であり、それも超人よりも遥かに脆い人間だったと思い出したのだった

「という訳で作ってあげました、これならサイズも合うと思いますよ」
「いつの間にサイズ測ったの?」
「あくまで身長と性別から考えた大凡のサイズの採寸ですよ、まさか変なこと考えました?」
「そっそうだよね、私ったらごめんね」

全くこの娘は…と呆れたサイコマンだが自身が渡した洋服を手に取った彼女が早速見てもいいかという為好きにどうぞ。と返事をすればまるでプレゼントを貰った無邪気な子供のような表情でワンピースを一通り隅まで眺めたあと彼を見上げた

「ありがとうサイコマン、とっても嬉しい」

サイコマンにとって彼女は目障りだと感じる程だった、突如現れた人間の女である彼女を何故かシルバーマンが気に入り慈悲をみせたザ・マンのお陰でこうして共に過ごすものの、サイコマンは自身が尊敬する者たちが尽くこの人間一人にそのような態度を示す事が訳も分からず気に入らなかった
しかしながら自身の与えたものを手に取りそれはもう嬉しそうに笑う彼女を見ればどこかトゲついた胸が柔らかくなるように感じられ、彼は趣味の一環から彼女に試作品だと言いつつ服を渡してやった

「…だというのにどうして着ないんですか」

あからさまに不機嫌だと言わんばかりのサイコマンの表情に何事かと僅かに考えた後すぐにその言葉の意味を理解した彼女はあまりにも綺麗な服だから特別な日にしか着ないことにした。というのだ
それでは渡した意味が無いとますます苛立つサイコマンの態度は顔に出ていたらしく彼女は悩んだ末にいった

「じゃあ服作りを教えて欲しいな、私そういうの全然しらないから」

その言葉に驚いた物の彼はそれもまた自分達完璧超人達を支えるための能力になりうるのならば構わないと判断し、それ以降彼女はサイコマンの部屋に度々現れるようになった
本来は自身の研究や鍛錬に時間を費やしたいと思いながらも顔を合わせば「今日もまた教えて欲しい」といわれてしまえば彼は拒否しなかった

目の前で手元に意識を集中させる彼女は初めの頃よりもずっと手馴れた様子でミシンの針を進めては自身の服を難なく作成していた、完成する度にそれをサイコマンに見てもらうように身に付けて部屋に来る彼女の服装のセンスから服飾作りのセンスまで彼はそれなりに認めてしまうほどだった

「それで新しい服、シルバーマンさんに見せたんですか?」
「みせたよ」
「どうです褒めてましたでしょう、なんせ私が教えたんですから」

ふふんと嬉しそうに話をするサイコマンに彼女はあまり興味はなさげに返事をして見せるものでつまらないと感じられた
好意があることは明白だというのに自分の前ではそれを隠そうとする、それはサイコマンがシルバーマンに深い尊敬の念を抱いてる故なのかとさえ感じられる程だ

「そのワンピースも完成したらまた見せるんでしょう?」

もうここ数ヶ月ずっと彼女は目の前の服に掛かりっきりだった、サイコマンにどんなものがいいかとデザインを求めてどんな布がいいのか考えて…と今迄作ったモノの中で一番制作に凝ったその服はきっと彼女の一張羅となるだろう、白い刺繍とワンピース姿でシルバーマンの隣に並ぶ彼女はきっとお似合いだと考える度にどこか心にモヤが掛かる意味を彼は理解出来なかった

「見せないよ…っていうか、サイコマン以外には見せる気がないの」
「ハァ?どうしてですか、こんなに完璧に出来ている癖に」

刺繍部分も最終段階に入っていた彼女に彼は思わずテーブルを叩いて叫べば彼女は特に変わらずに針を進めては「出来てるから」と意味のわからぬ返事を返した
何のためにそれを作ったんだと不機嫌に問いかける彼に特に気にした様子もなく金色の糸を進める彼女の服はどことなく自分の服に似ていた、まるで並べばお揃いのようなものだとサイコマンは気付きながらも言えなかった

「完成…かな」

静まり返った部屋の中でようやく作業を終えた彼女は満足気な表情でそのロング丈のワンピースを広げたのを眺めてはやはりデザインが良かったと彼は口には出さずに思った
それを着てシルバーマンと並べばそれこそお似合いだというのに何故……

「私別にシルバーマンに見てもらいたくてそうしてる訳じゃないよ?」
「…じゃあ何のためですか」
「なんのため…それは…うん…」

サイコマンの為かな…
照れ臭そうに小声で呟いた彼女は広げたワンピースを丁寧に畳んでは広げた裁縫道具を片付けていく、長い時間をかけて作ったその服をなぜ今更自分にとサイコマンは疑問を感じたが彼女はすんなりと答えられずにいるのを眺めてはふと彼女の頬が薄く色付いていることに気付く

「ねぇ、ティアさん教えてくださいよ、どうして私のためなんですか」

片付けをする手に自身の手を重ねる度に彼女がどれだけ小さいのかを感じた、慌てて顔を上げた彼女の頬がまるで火を点らせたように染まっていく姿を彼は何処か嬉しく感じられた

「私には分かりませんよ?」
「それは」
「顔を赤く染めて、心臓の音を早めても、残念ですが素直に口にしないと何も分かりません」

まるで何処ぞの始祖の一人のように口にせずとも真実が分かる訳では無いと彼女の頬を撫でるサイコマンは彼女が薄い化粧をしていることも他の仲間の前では着ない作った服を着ていること、全てが心地よかった
頬を撫でる指が彼女の唇を優しく撫でればその唇は音を出そうと震えた、それは…その…と言い淀む彼女に言葉を待っていれば彼女は慌てて一歩後ろに下がり声を出した

「それはまたこの服を着た時に教えるから、今はまだ言えないの」

それじゃあごめんなさい。と声を張り上げて出ていった彼女に呆気を取られたサイコマンは一人きりの部屋でポカンと間抜けに口を開けてドアを見つめた後、テーブルの上に置かれたままのワンピースをみてはくつくつと喉を震わせて笑った

「ニャガニャガッ、可愛らしいお嬢さんじゃありませんか…さて、これを着た時といいますが、ここに置いていていつ着てくれるんでしょうかね?」

きっと次にこの部屋に入ってきた時、それがどんな理由であれ今回の話の本当の意味を知らなければ逃がさないと彼は思った
例えどんなにボロボロの服を着ていたとして、一張羅でなくても、どんな姿の彼女でも魅力的なことに変わりがないから。

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