はじまり



ある日買い物の帰り何故か目の前には電車が来ていた、どうしてそうなったのかは覚えはいないものの身近な人生が走馬灯となって駆け抜けたのはこの瞬間だけだった
しかしながら目の前に謎の切れ目があった、まるで宇宙のような空間のそれは指を差し込めば入り込んだ為そうなればもう選択肢はひとつしかない
なぜなら死にたくなど無かったから
そうなれば後先考えずに彼女がそこに飛び込んだこそはまさに運命であり、人生全てを変えるものだった。

まるでアリスが穴の中に落ちていくかのように彼女は落ちて行く
暗闇だったそこはふと目を開ければ目も疑うような光景であり彼女は思わず声を荒らげた

「えぇぇぇ!?!?」

それもそのハズ何故か彼女はスカイダイビングよろしく空から地面に向けて急降下していたのだ、手に持っている買い物袋では心許なくあと数秒程で地面に落下してしまうだろうと思いつつも生を諦めきれない彼女は必死に見渡した
巨大な塔は決して受け身には向かない、海はない、しかしながら山がある。ともなれば少しでも木をクッションにしようと彼女は自分の体を空気抵抗を受けつつもそちらへ軌道を向けた
ここで死ぬのならばそれも仕方ないせめて両親や兄弟に友達など言いたいことは沢山あったが今はもうどうしようもない事だと思いつつ目の前に見えた木々に目を閉じ頭を強く抱き締めて突撃した


「なんの音だ」

そういったのはスパーリング中のアビスマンの声だった
その場にいた11名が大きな物音に思わず視線をやり敵の急襲の可能性を考え警戒心を解かずその音の方向に向けて足を向けた
何かが落ちてきたのか木々は荒れており、ふと視線を向けた先には木に引っかかる女が一人

「何者だ」

ジャスティスマンの静かな問いかけに女は虚ろだった眼を覚醒させては「生きてっ…ひゃぁ!なっなにこれ高い…」と悲鳴をあげたことに全員が顔を見合せた、見るからに超人のようではなく彼女は何とかそこを降りようとするも上手くいかずそれぞれが顔を見合せる中で白羽の矢が立ったのはペインマンであった

「私にいけというわけか、仕方あるまい」
「え?あっ、こんにちは」
「下等生物だが挨拶は出来るか、テハハ結構な事だ、下ろすぞ」

はい。と返事をする前に即座にその場から抱き降ろされた女は目の前に現れた11人の巨漢…いや、見るからに超人と呼べる種族の彼らに目を丸くした、超人という種族は彼女の国にもいたがここまで屈強かつ禍々しいオーラをまとったようには思えず正義超人では無いのかもしれないと思わず顔を青ざめた

「それでお前は何者だ」
「人間の割には見掛けない衣類を身にまとってますしねぇ」
「ギラギラ…どこかのスパイでは…」

突如現れた超人達に囲まれるなり彼らはまるでい殺さんとばかりに彼女に殺意を向けた、カラスマンにサイコマンそしてシングマンが次々と彼女に問いかける中何から説明をすればいいのかと彼女は手に持った荷物を握り直す時ふと伸びた腕は彼女を守るようなものだった

「一斉に質問しては彼女も怯えるだろう、害はなさそうだし優しく話を聞いてあげよう」
「…シルバー、そうしてか弱い振りをしてその女が危険因子だとしたらどうする」
「だとしても其れを簡単に破る力を持っている私達なら問題ないはずだ」

相変わらずお前は甘い。とゴールドマンの一言に助け舟を出したシルバーマンは見えぬ様に彼女に優しく微笑みかけた。
少しでも自分の味方をしてくれる存在がいるのならばよかったとほっと胸をなで下ろしていれば一歩後ろにいた男は彼女に向けて言葉を放つ

「それで何処の者なのか今一度説明をしてもらわねば我らも引き下がれぬという所なのだが」
「申し訳ございません、私はティアと申します…こちらも状況を把握できていませんし信じて貰えないことは百も承知なのですが」

それでも今は敵意がないことだけでも知って欲しいとティアは経緯を話した、もちろん目の前の彼ら全員が不信感を募らせた表情を見せたものの目の前の巨漢は隣にいた二本の角を持つ超人を見つめた

「この下等生物、嘘は付いていないようだな」

何故わかるのかと一つ目のその超人を見つめたが彼は「私に嘘は通じんからなぁ」と不敵に笑ったことに思わず身震いさえしてしまいそうであった。
そして話を聞いたこの仲間達の長であろう男は顎に手を添えては「どうしたものか」と呟いた、ティアもまた辺りを見渡しては自分が知る世界とは全く異なるものでありどうしていいのかどのように戻れるのかと考えたもののその仕業はどこかしらの超人の能力が暴走したものなのかもしれないと彼らは結論付け話し合いを始める
内容は二極化しており、彼女を放置するか人間はまだ少なく更に女となれば簡単に死ぬのならば一時保護するかという話であった
しかしながらシルバーマン以外の意見は当然前者であり、サイコマンはシルバーマンの味方だというために仕方なく前者につくもののティアを見る目は酷く冷たいものだった
しかしながらふと聞こえた音はティアにとって聞きなれた音だった、ぎゅるるる…というその音はまさに男子の腹の虫である

「お腹すいてるんですか?」

思わず呟いた言葉に彼らはティアを見下ろした、何故下等な生物にそのような事を言われねばならぬのだと感じたからだが彼女はふと彼らの長ザ・マンに向けて時刻を問いかければちょうど夕方であるのだといった
普段であれば食事の時間かと感じたティアは手の中にあるエコバッグをみつめたあと目の前の彼らを見ていった

「取り敢えずお腹が空いたらまともに話が出来ませんのでご飯にしましょう!」
「貴様は自分の立場がわかっておらんのか!」
「へ?あっわかってますよ?私の処分をどうするかですよね?でもみなさんお腹すいてるんでしたらそんなつまらない話はさておきお腹を満たした方がよっぽどいいじゃないですか」

ガンマンは真面目に話し合っている中でちゃちゃを入れるような彼女の態度におもわず指さしして怒鳴りつけるも彼女は一切反省の色がなかったのは彼女が食事というものが如何に大切なものか理解していたからだ
自分に好意的に接してくれるシルバーマンに向けて「甘いのと辛いのをどちらがお好きですか?」と笑顔を向ければ彼は優しく笑みを返し「辛い方かな」と返事をした

全くあの女はなんなんだと彼らが話し合いを進める中でもティアは気にせずザ・マンより必要な道具を借りては準備をした
ふと彼はその様子を眺めては手際の良い彼女の動きに多少関心を覚えた、彼らとて料理は当然できるもののその所作は全く異なるものだった、男子厨房入るべからずとはいうがあのような状況であればその言葉もあながち間違いではないと感じた
ふと香ってきた食事の匂いは普段自分達が決して嗅いだことの無いものであり食欲をそそるものだった、白熱した会議を繰り広げる始祖達ではあるもののその香りに思わず目を向ければ自分の倍以上のサイズの窯の中をかき混ぜる彼女がいた

「もう出来ますからそろそろお席へどうぞ」

ニコニコと笑みを浮かべるこの女は自分の状況を全く理解していないのではいのかと彼らは思いつつも空腹感は消えることは無かった為仕方なく普段通りの床に腰かけた。

「これはなんだ?」

出された料理に彼らは見たことがないと言いたげな表情であり彼女はカレーですよ。と告げた
聞き覚えも耳馴染みもない単語に小首を傾げる彼らにどの国の料理であるのかから彼女は説明をしては自然と彼らの輪の中に腰掛けて「召し上がってください」と告げた
毒のひとつでも盛られているのではないかと怪しむのもつかの間、ザ・マンとシルバーマンはなんの気もせずに口をつけてしまうため思わず他の仲間たちは目を丸くする

「うむ、大層美味なものだ人の子よ、素晴らしい出来栄えだ」
「ありがとうございます、中辛にしましたがお口にあったようでよかった」
「辛みの段階があるのか、なら次はもう少し辛いものが食べたい」
「材料があれば是非いつでもご用意しますよ」

まるで以前から居たように彼女は自然と会話をするため他の仲間達もまるで自分達がこの敵意のない生物を警戒していることは酷く愚かに感じられた
そしてそれぞれが冷める前にと口にした初めての料理に目を丸くしては彼らは口を揃えて「美味い」「美味だな」「こりゃあうめえ」と口々に呟いてはまるで飲み込むように次々と口の中に頬張る姿に彼女は柔らかな笑みを浮かべた
自分の料理が誰かしらの活力になり、言葉として伝えてもらえること以上に作り手にとっての幸福は無いのだ。
次々と完食してはおかわりをねだる彼らに買い出しの材料を多めにしていてよかったと安心しつつ渡した、ふと次に伸びてきた皿の持ち主は何も告げなかった男であり額に描かれた金という字が印象的だった

「お口にあいましたか?」
「あぁ」
「よかった…このお皿は?」
「お前のものだ、腹が空くだろう」

その姿に驚いたのは彼女ではなく仲間達だった、あの不器用で仏頂面で人の心などわかるのかと感じるほどのゴールドマンが他者を、それも何処までも弱く無力な人間に対して気遣いをしたのだ

「ありがとうございます…ええと」
「ゴールドマンだ」
「ゴールドマンさん」

とてもお似合いな名前ですね。と告げる彼女に返事をしないゴールドマンが珍しく照れていることを彼らは気付いては慌てて自分たちも名乗りを上げた
その姿はもう彼女を仲間にしたようなものでありザ・マンは超人では無い人間である彼女をみては口元を緩めた。


「私をここに?」
「そうだ、先の働きから彼奴らもティアを良く思っているようでな、無論タダとは行かん、お前には我等の世話人として生活を送って貰う」
「世話人…つまりお食事やお洗濯など家事全般をサポートということで?」

話が早くて助かるとザ・マンは先の始祖達との話し合いの末で決めた内容を彼女に伝えれば彼女は笑顔で承った、元よりスポーツマンの兄弟達を支えてきた身である彼女からすれば11人の超人などデカくなった兄弟達とさして変わらないものだと感じたからだ

「誠心誠意皆様のために全力を尽くします」

そういった彼女に良い返事だとザ・マンは柔らかな笑みを浮かべた、それが何億年の付き合いになるかなどその時は予想もしないことであった。

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