ジャスティスマン
近頃超人墓場内はたいそう賑わっている、それはあまり有難いことでは無いものの地上で亡くなった超人達と新しく入ってきた完璧超人や新人の墓守鬼等といったまさに新人大集合という時期だったからだ
数ヶ月経てば落ち着く状況だとわかっていながらも忙しくなる環境に追い詰められるのは超人墓場に住まう者たちを支える彼女だった
「はぁ…明日の仕込みしてたらこんな時間かぁ」
深いため息と共に思わず見つめた時計の針はとうに日付を跨いでしまっており、ようやく落ち着いたからと身体は素直に悲鳴をあげた
そういえば今日は忙しさのあまり夕飯も食べ損ねていたかと思い冷蔵庫を開けるもののこれは夜勤で頑張っている墓守鬼達のものであるため手は付けられなかった、今から米を炊くのは勿論出来ず悩ましくいればふと彼女は思い出し厨房の隣のパントリーに入っては一人ゴソゴソと戸棚を漁り始めるのだった。
ここ数日超人墓場が騒がしいものだとジャスティスマンが感じたのは自身が目にかけている人の子ティアがより一層忙しなく走り回っていたからだった
一年に一度新しい墓守鬼を筆頭にまとめて人口が増える時期があるためその影響であることは理解していた
しかしながらジャスティスマンは何かをしてやることはできないことを自身で理解していた為、ただあの人の子が無理をしない範囲で遠目に見守るしかないのだと判断していた
夜深く静まった始祖達の住まう建物内でジャスティスマンが足を止めたのはまるでこねずみのように何かを漁るモノの音が聞こえたからだった
音の方向は厨房からであり小さな光が漏れていた、もしや人の子が起きているのかと呆れを感じ超人でないのだから休む様にと声をかけようとするもそこに彼女は見えなかった
開かれたレシピ本、片付けられたキッチン、そしてさらに奥のパントリーにも小さな灯りが点っていた
「ティアなのか」
万が一彼女以外がこの時間に厨房内にいるとなれば盗み食いをした罪により裁くしかあるまいとジャスティスマンは手に持っていた天秤を握り眉間に皺を寄せてパントリー内を覗けばそこには当初の予想通り人の子、ティアが膝を曲げて棚の中を物色していた
その手の中には小さな正方形の袋が二つ、思わず視線をそちらに向ければインスタントラーメンと丁寧に書かれていた
「何をしているんだ」
「あっ、あー…ジャスティスマンさまこれはですね」
「明日の食事についてか?私から見てもそれは栄養バランスが良くないものだとわかるぞ」
食事管理に関してはこの超人墓場の中でも一番の知識を持ち、さらにはその腕を振るう彼女なのだから知らないことは無いはずだがとジャスティスマンは彼女を見下ろせば彼女は慌てて立ち上がり彼に向き直った
手に持った二つの袋を未だ手放せぬまま気恥しそうに何を言おうか迷っている間に ぐぅ… と情けない音がパントリー内に聞こえた
「…」
「…」
どうやら彼女は腹を空かせていたのだと気付いたのは目の前の彼女の顔がみるみる染っていくからだった、忙しさのあまり空腹になるのは自然の摂理であるのだから何も恥ずべきことでは無いとジャスティスマンが思うもののティアは夜食を物色し尚且つ腹の虫の音まで聞かせてしまったことから周知に駆られてしまうばかりだった
しかしここに来て食べない。という判断はもう彼女には残されておらず目の前の彼をじっとみつめた
「見られたからには仕方ありませんね、共犯者になってもらいましょう」
そういった彼女になんだと思ったものの彼女は二つの袋を片手に持ってジャスティスマンの手を引き厨房に戻りコンロの火をつけ湯を沸かした
「ジャス〜、ちょっとだけご飯食べれる?」
ジャス…そう気安く呼ぶのは彼女だけなもので完全に仕事が終えた時になれば彼女は昔のようにそう呼ぶことを彼は悪い気にはならずに受け止めた
食事とはいうものの彼女の用意している程度のものであれば問題は無い旨を伝えれば厨房内にある椅子に案内されお茶と箸を出され、彼女は手際よく冷蔵庫から卵をふたつと刻みネギを取り出して沸騰した湯の中にインスタントラーメンを入れた
「醤油と塩どっちがいい?」
「どちらでも構わん」
「じゃあ半分こだね」
今日は特に忙しくて夕飯食べ損ねちゃったの。という彼女に予想通りだと感じつつもジャスティスマンは何故自分までもが招かれているのか不思議に感じていたものの疑問を解決する間もなく彼女は二つの小鍋をテーブルの上に置いた
「今日はとっても悪い人になろうと思うの」
「自ら罪人になるなど笑止、どういうつもりだ」
「だってお腹すいてるし、深夜に食べるラーメンは背徳的で堕落行為なんだよ」
それは知っているとジャスティスマンが思うのも束の間に彼女は小さな椀にラーメンをよそっては彼に差し出した、普段の彼であればこの時間に食べるなど身体への冒涜、肉体への吸収率が…栄養が…と考えるもののそれが長年の付き合いである彼女から差し出されたものであれば何も言わず受け取り箸を進めた
「美味しい?」
口癖のように毎度問掛ける彼女にジャスティスマンは顔色を変えずに「ああ」と短い返事をした、普段彼女が作る凝った料理とは全く違う化学調味料に塗れた濃い味のそれは決して完璧超人の始祖である彼にとっては受け入れるべきものでは無いが目の前で笑顔で箸を進める彼女を見ては悪くないと感じた
「これで私達共犯者だね…ところでこれってやっぱり有罪?」
「仲間に言えないとなれば有罪かもしれんな」
「全てを裁くあなたを共犯者にしちゃった私ってもしかしてすごい悪い人かも」
思わず気付いたことに彼女は口元を手で抑えては悪戯をした子供のように笑う為ジャスティスマンも思わず口角が柔らかくなってしまう、何億年と生きる中で自分を罪人に仕立てあげられるのは彼女しかいないと感じながら夜更けに食べる食事が何処までも美味しいと思いつつこの時間をゆっくりと味わいたいと感じるのだった。
おまけ
「モガモガァいい匂いがすると思えば二人でいいもの食ってるじゃねぇか!」
「アビスマン?こんな時間までお仕事?」
「ああ少しな、オレも貰えるか?」
「うん、勿論どうぞ足りないだろうから追加で作るね」
「おう悪ぃな!……なんだジャスティスマンそんなに睨むなよ」