シルバーマン




「今晩よければ僕の部屋に来てくれないかな」

そう声を掛けてきたシルバーマンにティアは思わず手を止めて辺りを見渡すもそこには誰もいなかった、あからさまに慌てた彼女の仕草にシルバーマンはくすりと笑を零して「ティアに言っているんだよ」と優しく伝えた

「あ…でも私遅くなると思うし」
「構わないよ、朝まで君を待つから」

どうしても都合が悪いなら別の日でもいいけど君はどうかな?と問いかける彼に断ることが出来ないと知るのは案外彼は優しい振りをして強引なところがあることを知っていたからだ

「それで私に?」

呆れた表情を見せるサイコマンにティアは彼が自分をさほど好んでいないことは知っていたものの誰よりもシルバーマンを理解し尊敬している彼であるのだからこそ相談相手にはうってつけだと判断した

「とはいえ普通にお話するだけだと思うんだけど、お茶菓子はどれがいいかな?とか寝巻きは失礼だけど仕事着しかないからどうしたらいいかな?とかほらサイコマンはお洒落でしょう?だから…その…」
「素直に異性として見てるからシルバーマンさんにも意識してもらいたいと言ったらいいじゃありませんか」
「違うってば!」

シルバーマンは初めてティアが彼らと出会った時、誰よりも彼女に味方してくれた、警戒心の強い始祖達の中で人間…さらには女となれば彼らが不快に感じることはティアも理解していたものの時折心が折れそうな時でもシルバーマンだけは支え続けてくれた
そんな彼を少なからず好意的に思うのは自然なことでありサイコマンに率直に言われた言葉をティアは照れ隠しで否定したもののその実シルバーマンに多少意識して貰えたら。などと淡い想いは抱いていた

「本当ハレンチな人ですよねぇ、これだから下等生物は」
「ハレンチじゃないってば、サイコマンだってシルバーマンとお話する時身嗜み気にするでしょ」
「私は誰が相手でもそうですよ」
「…今の態度シルバーマンにみせられるのかな?」

意地悪ばかりを言うサイコマンはティアが自室に来ているというのにベッドの上でうつ伏せで寝転がりティアの買ってきたファッション誌を眺めては「ニャガニャガ…これはいいですね〜」などといっていたのだ、そんな彼は普段の仲間たちとの接し方とはまた違うものでありティアは内心そうしたサイコマンの態度を好んでいた
自分にだけ見せる信頼の行動なのだろうがサイコマンは彼女が人間という下等生物だから見下す為にこの態度をとっているのだと告げるもそんな言葉は彼女の耳には入らなかった。

「全く嫌な女性ですよ、仕方ありませんから部屋に置いておいてあげますからそれでも来てシルバーマンさんと短な愛瀬を楽しんできてください」
「ありがとうサイコマン!やっぱり親友に頼んでよかった!」
「ニャガニャガ、本当に仕方ない人なんですから」

短く笑みを浮かべたサイコマンはティアの事をそれなりに好意的に感じるようになったのはいつ頃か、自分の尊敬すべきシルバーマンが目にかけるから仕方なくと思っていた彼女は誰彼構わずに心を開いてしまうゆえに巻き込まれたのだろう
部屋を出る直前にもう一度「サイコマンありがとう、このお礼は今度あなたの好きなケーキで」といって出ていくのだから思わず口角が緩む、彼女のためではなくケーキのため、そしてシルバーマンの為にだと言い聞かせて彼は裁縫箱に手を伸ばすのだった。


本当にこれでいいのだろうかとティアは廊下を歩き窓ガラスに反射する自分を見ては気恥しそうな表情を見せた

『朝まで君を待つから』

あぁいったシルバーマンの優しい表情を忘れられなかった、彼の兄いわくシルバーマンは頑固なところがあり一度言うと必ずそれを守り抜くだろうということだった
それ故にティアがどれだけ忙しいといっても彼は自室で待っているかもしれないと思えた、こうした誘いは実の所初めてのことではなく二人きりのティータイムと称して幾度か仲間達には内緒で行っていた、だとしても今回の誘い方はとても普段のものとはかけ離れておりティアは少しくらいは自分の身嗜みを整える方がと勇気を出してみたのだ

「シルバーマン、ティアだけど」

ようやく辿り着いた弐式のドアをノックすれば足音が小さく聞こえドアが開かれティアが見上げた先には普段と変わらぬシルバーマンがそこにはいた、彼はティアが手にしていたトレーの上に乗るティーポットとパウンドケーキをみては笑みを深めた

「今回もまた美味しそうなものを持ってきてくれたんだね」
「以前洋酒漬けのパウンドケーキが気になるって言ってたから」
「ふふ、僕の話を覚えてくれてたんだね、嬉しいよ」

さらりとそういってのけるシルバーマンにティアは気恥しさを感じつつ肩を抱かれ彼の部屋の中に招かれる、シルバーマンらしいシンプルだが上品な部屋の中は何度も足を運んでいるものの直ぐに緊張は解けないものだった
招かれるがまま2人用の小さなテーブルを囲うように椅子に腰かけて向かいに座るシルバーマンの為に早速持ち寄ったパウンドケーキを皿に分けて共に持ってきた淹れたての紅茶を彼の前に置いた

「こうして美味しいお茶とケーキを君と共に出来ることは本当に幸せだよ」
「こんな事ならいつだって用意するのに」
「ここに来てから君は忙しいからね、最近は特に断られるばかりだったから」

ここ といわれるのは超人墓場のことだった、確かにティアは以前よりも増えた完璧超人や墓守鬼といわれる存在たちが増えたことにより外で12人で暮らしていた時よりもずっと忙しいことは自身でも気付いており
近頃はシルバーマンとのこうした夜のお茶会も開くことが減っていた

「ごめんなさい、みんなは忙しくても両立できてるのに私だけ…」
「超人墓場で君以上に忙しい人いないから気にしないで、それに僕は君と二人でこうして時間が過ごせるなら十分なんだ」

俯く彼女の頬を大きな手が撫でたことに彼女は思わず顔を上げて前を向けばシルバーマンは変わらぬ笑みを浮かべたままだった、いつだって彼に見つめられてしまうと全てを見透かされてしまうようでどことなく恥ずかしさを感じた

「そういえばその服見かけたことがないけど、新しいものかい?」
「え?あぁうん、サイコマンに仕立ててもらったの」
「とても似合ってるよ、よかったら立って僕の前で見せてくれないかな」

その言葉にティアは嬉しくなり丁度お茶菓子も飲み終えた為シルバーマンの横に立ち彼を見つめた、シルバーマンもまた立ち上がりティアの手を取り上にやり「そのまま回って見せて」という
まるで二人でダンスでも踊っているかのようだと感じながらシルバーマンの視線を感じていればふと彼の手が降りてティアの細い腰を抱き締めその分厚い身体を寄せた

「シルバーマン?」

寄せられた彼の顔にティアは驚き高鳴る心臓をどうにか抑えようと足掻いた、普段よりもはるかに近い距離感は意識せざるを得ず、突如跳ね上がった鼓動の音を彼に聞かれてしまうと感じたからだ
片手で抱いているというのにしっかりしたその手にごくりと唾を飲むティアをシルバーマンはしっかりと見つめ互いに視線が混じりあった

「とても綺麗だ、よく似合っている…白の中に細かなパールのようなラメが散らされていてまるで君は宇宙に瞬く星を身に纏うアテナのようだ」
「そ、そんなに褒めてもサイコマンが用意してくれたものだから、彼の腕がいいだけで」
「サイコマン…あぁ彼の腕や眼は確かなものだが今回ばかりは嫉妬するよ」

嫉妬など完璧超人でありそれも特別な称号を持つ彼には全く似合わないものだとティアは感じつつさらに寄せられた彼の顔にごくりと唾を飲む、心臓の音や顔の暑さなどもう頭には回らないからだ
シルバーマンの太くも繊細な指がティアの頬を撫で唇をなぞれば彼は優しく微笑んだ

「僕だけに染められて欲しいなんて」

小さなリップ音が部屋の中に響く時ティアは夢を見ているのでは無いのかと自分の中で考えた、シルバーマンを想ってはいたものの彼は弐式という称号を持つほどの優れた存在であった
自分などただの友人でしかないのだと思えていたからだ、しかしながらシルバーマンはそうではないというように彼女の足や背に腕を回して軽々と抱き上げてみつめた

「ティアは嫌かい?」

その言葉に彼女が首を横に振るまで数秒のことであるがシルバーマンは歓びに溢れていた、視線の先にちらりとみたベッドにティアもつられるように見たあと彼のローブを握り返すことは答えでありシルバーマンは彼女の額に口付けを落として二人だけのお茶会を終えた更にその先に向かうのだった。

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