アビスマン

人は香りに恋をするという、香りは本能的にその人が求めるものであり、一度自分のピースに当てはまる香りを見つけてしまえばそれからは抗えなくなる、となれば彼女は今目の前の男にいつかその香りに狂わされて殺されるのでは無いのかと思うほど毎夜考えてしまうのだった。

「ハァ…ッナマエ」
「アビスマンそろそろ」
「もう少しくらいいいだろ」

狭いキッチンパントリーの中で二人の男女は声を掛け合っていた、女よりも一回り以上は優に大きな体で抑え込む男の息は荒々しく、だからこそ彼女は今この時に二人きりになるのは危険だったと感じつつ背中から包み込むように抱きしめて首元や髪に鼻を押し付ける彼にどうしていいものかと考える

「本当にそろそろ時間が」

もう何度目かのダメに彼女が男アビスマンの手に自分の手を重ねてギブアップを強請るように伝えれば彼は渋々とその身を離した、若干乱れた衣類を整えつつ振り返れば彼もまた時計を見て「うおっこんな時間かよ」といった、昼食の食器を返しに来ただけの彼が早三十分も経過していることをようやく理解したかと深いため息をつけば仕事熱心な彼はその時間の自分の仕事も勿論だが彼女の手も止めてしまったことに若干申し訳なさそうな顔をした

「今晩なら大丈夫だから」
「本気か?」
「…うん、ほら早くいい加減お互いに仕事戻らなきゃ」

いくら彼が完璧始祖の一人であれど二人きりの時は恋人としての顔を見せる、そうした喜怒哀楽をみるとどうしようもなく甘やかしてしまいそうになり彼女は仕方なく今晩…と告げればアビスマンは楽しそうに「モガッそりゃあやる気になった、それじゃあな」と告げてその場を後にするも狭いキッチンパントリーの出口に彼は頭をぶつける姿を目にして思わずくすっと笑ってしまうのだった。

しかしながらこの超人墓場で女中として働くナマエは恋人のアビスマンに対して酷く困っている面もある、それは彼が極度の匂いフェチといえるものだ
フェチどころかもっと濃いもので、あれはもう病気の一種に近い程だとも彼女は認識していた、朝早くから遅くまで誰よりも働く彼女はいくら服が汗を吸う素材で一日を快適に過ごせるとはいえベタついた身体の汗は不快感を感じるものだ。
一日の業務を終えた彼女は長い廊下を歩き肆式と書かれた部屋のドアの前で髪を出来るだけ手櫛で整えて少しでも見た目をマシに…と考えてはそのドアをノックした

「来たか」
「うん、遅くなってごめんなさい」
「構わねぇよ、それより」

堪能させてくれ。
そういってまるで攫われるようにその腕に腰を抱かれてドアの中に引きずり込まれては彼女はアビスマンに強く抱きしめられ顔を押し付けられる、頭から耳の裏、耳の裏から首筋に、首筋から脇に…とされる間に彼は滅多に外さないマスクを簡単に外す、それはマスクが邪魔で全てを嗅ぎ取れないからだと言うがそんなことは無くてもいいとさえ思った。

「あの今日暑かったし洗わないから水で流すだけでも」
「構わねぇよ、今更のことだ」

でもだって。という意見は聞き入れられずに全てを嗅ぎとるように深く吸って吐き出されるその吐息がナマエの身体に熱を帯びさせる
態とらしくそうしていると理解していても止めることも拒絶することも出来ずにその太い腕に抱かれる彼女は身を縮ませていればアビスマンの手は次第に服を乱していく

「随分汗だくだったらしいな」

口にされるだけで耳先が熱くなり理解してるのならばこちらの言い分を少しは聞いてくれてもいいと思いつつも彼はそれを許さなかった、実際彼はシャワーを浴びていないのか汗の香りをたっぷりとさせてそれが対等だと言いたげである。
項に顔を埋められて鼻を押し付けられる度に肩が震えていればアビスマンの骨ばった指が服の裾に入り込みゆっくりと彼女の衣類を脱がせてゆく

「ッ…アビスマンお願い」
「分かってたから真っ直ぐこの部屋に来たんじゃねぇのか?」
「それは…その…」
「今更のことを恥ずかしがるんじゃねぇよ」

招かれるがまま腕を上げて汗を吸ったシャツを脱がされようとするがアビスマンは彼女の脇に顔を寄せてはその香りを愉しんだ、身体中に熱が篭もり下着の中で胸が緊張感に僅かに張る

「ダメってばアビス!」

片手で彼女の細い手首を掴んでは見せつけた脇に舌を這わすアビスマンの表情はもう色欲に塗れた雄の表情であり、彼は酔わされたように味わう、くすぐったい様なねっとりとした舌が這わされる感覚に不慣れなままでいれば次第に抱かれた身体は彼のベッドへと案内されて行く
彼らしい鍛錬の道具や仕事に関連するものが置かれた部屋の中で抱かれるというは普通でありながらもいつもアビスマンの行為は彼女にとってはマニアックだった

「香りが濃くなってきたな、興奮してるのか?」

靴下に手をかけてそういったアビスマンにベッドに転がされた彼女はどうしてこうも彼は羞恥を煽るのかと顔を背けた、彼は朝履く時には白かった筈が一日経過して薄茶色に汚れ汗をより濃く吸った靴下を鼻に押え付ける

「いい香りなもんだ」

彼の性的興奮は最高潮に達していると彼の足の間を見て理解しては気恥しさに近くの枕を手繰り寄せて強く抱き締めた、彼は女体以上の興奮と楽しみを見出す部分は一般的とは異なる

「ッ…んっ…」

不快感というよりも奇妙な感覚が足に走る、アビスマンは彼女の足首を掴んでは舌を這わせる、相当なフェチズムだと感じつつもその姿を見てはナマエもまた股を濡らした
日中あれだけ男らしく部下を率いて仕事をしている彼が、周りの人間の前では平気な顔をする彼が女の足を懸命に舐めてその香りに溺れているのだかや興奮しないわけが無い
次第にアビスマンは彼女の足を舐めながら抑えきれぬ興奮ゆえにベルトのバックルを器用に外して片手に持っていた靴下を下半身に押し当てる

「アビス…ッ♡くすぐったい」
「仕方ねぇじゃあこっちだな」

そういって彼は足を下ろさせたかと思えばベッドの上で調理を待つ魚のように寝そべった下着一枚の彼女を見下ろして色を変えた下着の上に顔を押えた
鼻腔に広がるであろう強い雌の香りを気に入った彼は彼女の細腰を強く抱いては逃さないと言わんばかりだった、熱く逆上せそうな程の呼吸を感じるナマエには羞恥ともどかしさを感じる、彼の視線がそこにあること以上に期待して溢れさせる蜜やその心が見透かされることが何よりもだった。

「ハァ…あぁ雌の匂いがより濃くなる、毎度毎度お前はオレを狂わせるみたいなこんな匂いさせやがってよぉ」

それはこちらだって同じだと言いたい気持ちを伏せては思わず腰を動かせばアビスマンの顔により一層押し付けるかのようになってしまいナマエは思わず逃げようとするも彼は抱き寄せては下着の上からその部分に自身の舌を這わせた

「ッだめ…♡汚いから、ぁ♡」
「別に構わねぇよ」

初めの頃はアビスマンとの行為は普通だった、しかし彼が「いつも思ってたがお前はいい香りがするよな」という一言から二人は次第にその関係を今のように進化させた、香水やシャンプーの匂いなのだろうと当たり前に気を使ったナマエに対して厳しい顔をしては本来の香りがいいといい、そして髪を愛でる彼を愛おしいと感じていたが二人だけの狭いキッチンパントリーの中でアビスマンの欲望は溢れ出たのだ

「堪らねぇな」
「やめて、汗だくだし恥ずかしいってば」
「女の香り、いいやメスの臭いだ」

その時の眼光をよく覚えている、今にも喰らわんと言わんばかりの鋭いあの眼差しは今でも彼女の背中を震わせた、ナマエとはアビスマンの体臭は嫌いではなかった香水も洒落たシャンプーの香りもしないシンプルな石鹸だけの彼の香りは男性らしいがそれは一般的な思いだったが彼のナマエに対するものは違った、本能が刺激されたかのように強い力で抑え込まれ食われるのかと感じるほどの恐怖感に苛まれる時ナマエは堪らずアビスマンがそうした男だと理解した

だからこそ今こうしてベッドで女として食われる時、彼女は様々な感情を併せ持って受け止めていた、恐怖も興奮も不安も愛情も
人柄のいい誰にも好かれやすい彼がたった一人の人間に狂わされていると感じる度に愛らしくて堪らないと感じるのだから
唾液か汗か愛蜜か分からぬ程にグシャグシャになった下着を身にまとったナマエはアビスマンを欲しくてたまらなかった、それは彼もまた同じであるが自身の欲求を埋める為に下着を脱がしては足を広げさせてその中心部に顔を埋めた

「あっ…ぅ♡」

舐められる訳でもなくただ吐息があてられヒクヒクと雌穴は震えた、どろりと奥から愛蜜が溢れる度に彼の喉が鳴るのが聞こえる程にアビスマンはこの部屋を充満する雌の香りを堪能していた

「いつでも可笑しくなりそうな香りだ」

完璧が聞いて笑えると一人の女を愛した故に思うアビスマンにナマエは何も言えなかった、完璧であるゆえに人は欠陥を抱えるものだと認識していても彼らはそれを良しとしないことを知っていた
それを崩せるのはこのベッドの中でだけであり、自分の欲に呑まれた彼を見たいとも願ってしまえば彼の頭に手を添えた

「好きにしていいよ」

鋭い彼の眼差しが彼女を覗き込めばアビスマンは唇をその雌穴に這わせて堪能する、全身がビリビリと震えて次第に香りを強くする彼女はまさに名酒のようで簡単に彼を酔わせる、汗も内から放つ彼女の香りもメスとしての味も次第に彼を呑み込めば行為は激しさを与える

「あ"〜っ♡♡おっ、だッイクっっ〜〜♡♡」
「もっと嗅がせろ、雌としてのオレを求めた匂いだ」

シーツが色を変えるほどに何度も舌で嬲られてはナマエは息も絶え絶えにアビスマンに許しを求めても彼は赦しはしなかった、雌から得た香りは彼を狂わせどんな肩書きをも投げ打ってしまいそうな程であるのだ
ようやく彼が顔を上げて見下ろす頃には彼女は身体中の体液を溢れんばかりにしていた、彼にとって今この部屋はまるで自分を狂わす香でも撒かれたように感じるほどで、それを発するこの女が危険でたまらなかった

『人は香りに恋をするらしいですよ』

あの口紅が特徴的なピエロのような仲間の言葉は時折アビスマンの頭の中に響く、初めは人柄だったはずだが香りを意識するとそれは簡単に頭の中に染み込んで離れず、知れば知るだけ求めてしまうようになった

「…あっ♡」
「付き合わせたからなそろそろ欲しいだろ」

自身の肉棒を充てがう時、本当は彼自身が求めていた、彼女は知らないが男を受けいれた時の彼女の香りはまるで花が開花した時のようにより濃い香りを放つのだ、顔のひしゃげた彼にとって嗅覚が特別鋭いなど思いはしないが彼女の香りは強烈だ
どんな部分のどんな香りでさえも求めて止むことはなく、こうしてベッドでとルールを作らねば何処までも食い尽くしてしまいたいと思うほどである

「アビッ〜〜〜ッス♡♡」

足を持ち上げ最奥まで穿つ様に突き立てれば彼女は声にならない声をあげた、その途端胸元から香る甘いミルクのような香りに彼女を母のように連想してしまう、腰をぶつけてその胸の中心に出来るだけ顔を寄せて貫くとアビスマンの縮められた体の中の彼女は傍から見れば捕食されたようであり、彼の香りを強く感じた雄臭い香りが彼女を狂わせるのだ
酸素が少なく息も絶え絶えになるとアビスマンの腕を何度か叩いて息を吸おうとすれば唇を塞がれる、まるで窒息死でもさせるのかと言わんばかりだが彼は極限の生の香りを感じている

「お"くっ"♡♡だめっ♡はぁ、っあ♡♡」
「ナマエッ、ナマエっあぁくそ可笑しくなりそうだ」

独り言のように呟くアビスマンは気付けば乱していたナマエの衣類を手にして自分の鼻に押付ければ肉棒はますます熱を持ちナマエの腹の中を圧迫させた、女を抱き香りを飲み込む彼の姿はまさに獣であり、彼女は無意識に締め付けて彼をの悦ばせた
アビスマンの汗が次第に身体を伝い彼女の身体に滴り落ちて混じり合えば限界を互いに感じて強く抱き締め合う、互いに相手の首筋に顔を埋めてはその香りを堪能して欲望を吐き出す、その瞬間こそが何よりも強い香りをさせるのだった……

肌寒さに目覚めて起きれば部屋は換気されておりアビスマンは隣で髪を撫でて寝顔を眺めていた、あれから随分と眠っていたのかと慌てるナマエにまだ三十分程度だがシャワーでも浴びるか?と自身の部屋に着いたシャワールームを指差すものだから汗どころじゃない身体のベタつきに申し訳なく借りる旨を伝えてナマエはベッドから立ち上がった

「どうしてアビスまで来るの」
「オレもまだ浴びてねぇんだよ、いいだろ」
「狭いんだから後でいいでしょ?湯船張ってないんだし」
「いいじゃねぇか」

最後までお前の香りを楽しみてぇんだよ。と太い腕に抱き寄せられて言われてしまえば彼女はいつかこの男に食い殺されてしまってもそれでも構わないかもしれないと思いながら仕方なく互いのベタついた体を狭いシャワーで流すことを許してしまうのだった。

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