サイコマン

「ちょろちょろと走り回るのは可愛らしいですが、ちょっとお転婆が過ぎますね」
私から離れる足は削いでしまいましょう。
「大丈夫ですよ。私が抱えてあげますから」
真っ白で傷一つない太ももに頬ずりをする。
「あなたの手は滑らかで綺麗ですね。でも、触れてもくれないのは悲しいです」
私を突き放す腕はもいでしまいましょう。
「安心してくださいね。身の回りの事は全て私がやりますから」
ようやく触れることのできた手の甲にキスをする。
足と腕、それぞれ一本ずつ。彼女から取り上げた。
このまま処分するのは勿体ない。さりとて、カラスマンの使役する烏共にくれてやるなど言語道断。
ベッドの上で包帯に包まれ、血の気の失せた顔色の彼女と取り上げた手足を交互に見る。
「どうしましょうか?」
問いかけてもぼんやりとした瞳でこちらを見上げるばかりの彼女。
ようやく暴れなくなった彼女が可愛らしくて口角が上がる。
「すっかり良い子になりましたね」
まだ仄かに温かい肢体を持ち上げる。
ホルマリン漬けではこの肌色が失われる。
骨格標本にするのも、なにかが違う。
それにその二つの方法では他人に見られる可能性がある。
それは嫌だ。たとえ手足だけとはいえ、彼女が私以外の視界に映るなど耐えられない。
肉から骨、その一片に至るまで私のものでなくてはいけない。
私しか知らない場所にどうにか納められないだろうか。
この柔らかい肌もその温度も、鮮やかな血の色も知っているのは私だけでいい。
「……そうですね」
いっそのこと食べてしまおうか。
そうすれば、彼女の一部は永遠に私のモノになる。
「にゃがにゃが…我ながらとても良い思いつきです」
そうと決まれば、まずは腕から。
程よく肉のついた二の腕に歯を突き立てる。
薄い皮膚は、少し力を入れるだけでつぷりと破け鮮血が溢れ出す。
柔らかな歯触りに口内を満たす甘美な血の味。

「あぁ、なんて……


美味しいんでしょう!!」


愛しい人の愛しい血肉。それが自身の体内に入ってきていると考えただけで甘い痺れが全身を駆け巡る。
骨まで噛み砕き、嚥下して爪の先までも胃に収める。
「次は足ですね」
今度はなるべくゆっくりと咀嚼して飲み込む。
肉を引きちぎる音と骨を噛み砕く音だけが耳朶を震わせる。
…否、小さくだが音がひとつ増えている。
音の出処を見やれば、瞳からぽろぽろと真珠のような涙を流し、小さく肩を震わせながら嗚咽をこぼす彼女がいた。
「そんなに泣かないでください。目が溶けてしまいますよ」
最後に残っていた親指を飲み込み、彼女の体に触れる。
「これであなたの血肉まで私のものになった。とても嬉しいでしょう?」
指の背で涙を拭うが、彼女は目を逸らし私から離れようと身を引いた。
なおも続く嗚咽に、先程まで高揚していた気分がしぼまっていく。
ここまでしても。彼女は尚私を見てくれない。
その瞳に私を映してはくれない。

「私を見てくれない目はくり抜いて…そうですねぇ」


「キャンディーみたいに舐めてあげましょうか?」
きっと甘くて美味しいだろう。

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