「男なら良かったのに」

それはもう昔から嫌という程聞いてきた言葉だった
相手の申し訳なさそうな顔、相手の冗談だけど本気の顔、女であるということがこんなにも憎いと思うのはきっとこの世で自分だけだとさえ思うほど憎らしく感じた十数年は諦めに変わった
男とも女ともどっちつかずな身体だと理解したのは思春期の頃、男子よりも大きな身長とつきやすい筋肉、けれど柔らかな部分は女性特有の柔らかさでそれがまたおかしいと思った、心は女で好きになる人も男
男子にも女子にも皆同じ言葉を言われ続ける人生に披露し続けた結果最後に思うことは

「男だったら良かったのに」

冗談だ、私は女としての私を好きだし、出来ればそれを受け入れてくれる人と付き合いたい(男女どちらでもいい)

◇◆◇

寝心地が悪い、何かが乗っている、重たくて苦しくなってきた、この感覚は友達の家で猫に上に乗られている時のような感覚だと思いつつ目を覚ます
視界は少しだけぼやけて頭はとても痛かったし少しだけ二日酔いの吐き気さえ残っていた、起き上がって直ぐに真横に裸の男がいたことに思わず静止する、記憶が無いしこの男は誰なんだと思わず睨みつける
部屋を見る限りここはアパートではなく軍内でわざわざ用意してもらった自分の部屋だと理解する、時計を見れば時刻はいつものランニングの時間で違和感は隣の男だけ、いや…そんなことはない、自分も裸だ

「やばい…記憶が無い、私昨日何してたっけ」

酒を飲んで、そもそも何故酒を飲んだ?誰と?この人は?と失礼ながら顔をまじまじと見つめた、自分よりもさらに太い右腕はタトゥーが全体に描かれており見に覚えがあるがそんなに記憶にハッキリしないということは普段は見かけないのだろう、顔は傷だらけで眉間に寄った皺が寝苦しそうにも感じて彼は歯ぎしりをして小さく唸っていた、ブロンドの髪はふわふわで短くて鼻はガッシリとしている、やはりこんなに特徴的な人なら覚えているのに思っていれば互いに脱いだ服がベッドの周りに散らばっていたが一つだけ丁寧にベッドサイドに置かれていた
ドクロのバラクラバだ

「ウソウソ待って、絶対うそ」

思わず声に出して頭を抱えれば太い腕が突如伸びては腰を抱いて来て甘えるように顔を埋めた

「…まだ、いいだろナマエ」

残念この声は聞き覚えがある
普段自分が彼を呼ぶとき「中尉」としか呼べなかったのは彼を心から尊敬しているからだ、噂には尾鰭がつくものだと言うが彼の噂はどれも本物に感じる程実力があった、初めて顔を合わせた時の低い声とその不気味な見た目からまるでダークヒーローにでも会ったようなドキドキ感だった(何故ヒーローじゃないのかって?それは彼の見た目のせいだ)

「あー、あの、えっと中尉…ですか?」

念の為違ったら違ったで大問題だからと恐る恐る声をかければ眠たそうだった彼は突如そのダークブラウンの瞳をかっぴらいて私を見つめた

「どの中尉だ」
「ゴースト中尉ですね」
「間違いない」

もう少し寝かせてくれ久し振りにゆっくり眠れてるんだ。という彼に引き摺られるようにベッドの中に戻されて抱き締められる
昨晩何があった、そもそも私達はセックスをしたのか?イヤしてなかったらおかしいだろう?だって男女が二人ベッドの中で全裸だぞ。と思わず考えたがふと違和感に気付く
この違和感はここ数日私を悩ませるものであり、太い腕に抱かれながら思わずシーツを捲って中を覗いて身動ぎした

「…夢だ」
「寝ぼけてるのか?」

そう思いたいと願うのは仕方ない、何故なら私の股間には今ペニスがある、それもまぁまぁ立派なペニス…男性器だ
しかもそいつはあろうことか「グッドモーニングナマエ!」といわんばかりに元気に起き上がっていた、早起きは三文の徳だというが損しかないとため息をついた
そうしてパズルのピースがハマるように次々と重なっていくとあらビックリ、私は昨日の記憶を思い出していくし一週間前の任務も思い出す

「まさかこんな所にコンニの極秘施設がまだあるだなんて」
「気をつけろ、奴らは化学兵器も多く取り扱ってるからな」
「ええ分かってます、何かあれば頼みますよ」

ゴーストとの任務は近頃発見されたコンニの極秘研究施設であった、以前から危険視されていたコンニの化学兵器等があるだろうと予想したが小さな施設には五人での行動は難しいとなり、男性とは違う細身な私とそうした任務に得意なゴーストとの二人でのことだった
しかし問題は発生した、研究者たちばかりではあるが彼らもまた兵士であり銃撃戦となった、最後のドアを開けると同時にガスマスクをつけた私に襲いかかった科学者は首元に注射を刺したがゴーストが射殺しその場を制圧した

「ナマエしっかりしろ!クソッ何をやられたんだ」
「わかりません…でも眠気が…」
「こちらブラボー0-7、ブラボー0-5がやられた!至急救護班を頼む!」

落ちていく意識の中で聞こえた声に申し訳なさを感じたが問題はなかった、ある一点を除いて
結果的に打たれた薬物は成長ホルモン剤の一種で、彼らは所謂強化兵を作ろうとしていたのだ、簡単に言うとステロイドの強化版のようなもの
男性に打つべきそれを女である私に打たれた結果、最悪な形で男になったのだ、それもただの男じゃない、女でありながらペニスのある女というものだった、身体を隅々まで調べてくれた研究者のひとりが「日本だと"ふたなり"っていうんだ」と笑ったことに他人事だと思って…と恨みがましく思ったものだが時間経過すれば治るかもしれないと思い過ごしていたはずだった

「随分と元気そうだな」
「わっ、ぁっ…ちょっとあの中尉?何されてるんですか」
「昨日じゃ満足出来なかったか?」
「きっ、昨日って…その」

私は本当に覚えていないと泣きそうな気持ちで考えていれば勢いよく転がされてマウントを取られる、素顔を見ると殺されるだなんて噂されてるこの人の素顔は確かに渋くて少しだけ強面だが格好いいと思うのは憧れがあるからだろう
けれど彼の手は私の肩を撫でて平均的な胸をなぞり割れた腹筋に這わせ、そして毛を撫でペニスを掴んだ、朝勃ちした立派なそれを掴まれると奇妙な感覚が走ると同時に昨日の記憶が蘇る

「俺を抱いたことを忘れたのかダーリン?」

そう、私はこの人とセックスをした、それもこのペニスを彼にぶち込んだんだ
泣いてしまいそうだった、なんてことをしたんだと過去の私をビンタしたかった、酒に強くないのに飲んだからそうなるし、だとしても断らなかった私はもっと最低だというのにこの人はまるで知っているように撫でる

「ハァッ…あっ、ダメです中尉…こ、こんなこと」
「昨日はあんなにめちゃくちゃにしたのに朝が来たらダメなのか?」
「昨日は私もちょっと酔ってて」
「だからしゃぶらせたのか?」

ウソォ…と思わず彼の唇を見れば赤い舌がちろりと覗いた、本当に?本当にあのゴーストが私とセックスをしておしりを差し出した?信じられない、よく下品な会話を聞くけど彼は「抱かれたい男」によく出てくる名前だ
不気味な見た目だけど実力は本物だし、意外と熱いタイプだからそういう目で見る人も多い、そもそもゲイじゃなくても軍隊にいるとそういう感じになりやすい、そういう感じというのは男同士での性行為
だから私は「男だったら良かった」といわれることも流せたし、女として見られることも普通だった

『もう私二度とセックスができないのかも』

昨夜の私が酒を飲みながら言った言葉だ、次の日が休みだけど家に帰るには短すぎるから宿舎泊まりで過ごすから夜くらいは飲みに行こうと思っていたら丁度ゴーストに誘われた、そして酔った私は今の体のことを愚痴って泣いた
そうすると彼はカウンターに置いた私の手を取って目を見つめた

『安心しろ、俺は今のお前だっていいと思う』

そうしてロマンチックなベッド・インを果たしてしまった私の流されやすさは昔から注意すべきところだった
しかし酒の抜けた今は違うぞと自分の上に乗るゴーストを見つめれば彼は不敵に微笑んで私の鼻先にキスをした

「今までで最高のセックスだった」

何故だろうこれってもしかしてペニスのみの評価では?と思った、だってこの人は女の私にはこんなに積極的ではなかったし、さっきから撫でるのは太くなった腰とか割れた腹筋で胸とか…その女の子の体の方は全く触れないのだ
ペニスを撫でられるとゾクゾクする、不思議な感覚だがふと彼が脚を開いて跨った、そうするとペニスはなにかに触れる柔らかくて吸い付くようなあっこれ絶対気持ちいいやつですね。みたいな場所はもうひとつしかない

「休みだ、楽しむのも悪くないだろ」

ダーリン。と呼ばれては気持ちよさよりも身の危険を感じた、これは完全に肉食動物に食われる草食動物の本能だと彼をおもわず突き飛ばして適当に服を拾った

「ラッランニングの時間なのですみません!」

日課は忘れてはならないと言い訳をして逃げだした

「なんで全裸なんだ」

ドアを出たと同時にソープがいた、Oh.shit!!と声に出たが私はその場を後にしてシャワールームに駆け込みに行った、部屋には着いてるけどもう戻れないから、最悪の休みだった!!

「ん?ゴーストかおはよう」
「おはようジョニー」
「抱いたのか?」

彼女の部屋から出てきた髑髏のバラクラバをつけた男にソープが問いかければ彼はぐっと指を立てた、まぁそんな日もあるかとソープは何も気にせずにモーニングの誘いをするのだった。