白無垢は思っているよりもずっと重たかった。
志村の甥御、境井仁との結婚は小指に絡まりついた赤い糸よりもずっと強く濃いものだった、それは互いに理解していた。
例え互いに竹馬の友であろうと、自分達の運命は決まっており、それを遮る事など誰も出来ない、それが武士の家柄であることを重々承知していた。
綿帽子の隙間から隣の夫となる、仁を見つめては彼女は不思議な感覚と胸が痛む感覚を患った、誓の盃を交わすとき互いの目を見つめた時、その純なる彼の眼が自分を刺し貫くのではないのかと感じるほどであり、だえきをのみこんだ。
式を終えて白無垢を脱ぎ寝所に向かう途中、木の影から微かに見えた陰に彼女は思わず声をかけた。
それは彼女の願いだったのかもしれない、陰はただの見違えのようであり、彼女は顔を伏せては寝所に辿り着き導かれるがまま仁との初夜を迎えようとした。
彼の手が触れる事は何時ぶりであるかと想った。
幼き童の頃は、よく手を取って青海を駆け回った事だ、それが次第に距離を開けてお互いに思春期の刻を流れて、互いに未来を見据えていた。
薄暗い部屋の中で蝋の火だけが部屋を照らした、布団の上で仰向けとなった彼女は仁と天井を見つめて瞼を閉じて覚悟を決めるとき、彼女は小さく呟いた。
「ごめんなさい」
その言葉に仁は「なんの事だ」とは聞かなかった。
知っていたからだ、それどころかそれを知ってもなお隣に置くことは決まっていた為どうすることも出来なかった。
彼はその節くれだった武士の指先で彼女の手の甲を撫でて指を絡めるて静かに見下ろした。
「分かってる」
こんな事を知られたら、普通ならばきっと打首か切腹であるだろう、彼女は自分の躰に触れる異性の指先を味わいながら違うと思った、互いに躰を貪るとき仁は何処までもとても優しいと思えた、彼のモノが彼女の亀裂に割って入ったとき、痛みなどひとつも無く、仁も初物を抱くよりもずっと円滑に進む行為に何も思わないようにした。
躰の中に別の躰が入る感覚を味わう彼女は仁のものはやはりとても優しく熱いと感じた、竜三とは違うともう一人の旧友を思い出す。
「お前が誰を想おうとも俺はお前が好い」
強く抱き締めた仁にそう告げられては最奥を掻き回される、互いの呼吸が荒れて口唇を求め合って、二つが一つになる頃、彼女は障子の奥に誰かを感じた。
自分を抱いた意気地ない男を思い出して。
◇◆◇
境井の息子、仁
ミョウジの娘、ナマエ
そして竜三
三人は竹馬の友であった、初めは仁と竜三が知り合い仲睦まじくなり、そしてそこから仁の友人であったナマエが紹介され竜三と知り合った。
仁にとってもナマエにとっても竜三とは摩訶不思議な少年であった、彼は孤児であり、ただの平凡な子であった、武士に憧れいつもやんちゃをする少年、それに釣られて二人もいつも着物を汚して悪戯をした。
武士の家である仁とナマエはいつも家の者に怒られた。
あんな子供と遊んではならない、お前たちは武士の家の子なのだ。
そう叱られる度に二人は生まれたところが同じなだけで志はみんな同じであると思った、実際竜三の想いはとても真っ直ぐとしており、自分たちよりもずっとまともにさえ感じた。
流れるだけの人生を受ける自分たちよりも、立派な考え方をして行動していると思っていても家柄や血脈はどうしようもない。
人は変わる、成長する。
仁が両親を亡くしたように、彼が武士に成長する度、竜三の心は苛まれていた、誇りや自尊心を高く持ちうる彼からしてみれば仁の甘言はさらに彼を苦しめていた。
それをナマエが知るのは二人が十四・十五の頃には互いに異性を見ていたからだ、手を取りたい、接吻をしたい、と願う度に二人は静かに人目を偲んで隠れごとを行った。
騒がしいはずの竜三はその時だけ静かになる、互いに接吻をして直ぐに離れては伏せた瞼を開けて内緒だと云うように見つめた。
きっと彼女の身の回りの世話をする下女達や彼女の乳母がみたら失神してしまうだろうと二人は時折笑った。
「おおい、ナマエ!竜三!こっちに来い」
「はーい、すぐ行くよ」
「ちょっとくらい休ませろよ、全く」
仁の体力に追いつけないと笑う竜三はいつも優しく手を引いた、すすきの中を歩く時はぐれないようにと言うがその着物姿を見てはぐれる訳などないのにと彼女は思っていても言わなかった、心地よい彼の手の温もりが幼くも愛おしいと感じられたから。
けれど身分はそれを許さない。
武家の娘であるナマエも仁も竜三と仲睦まじくすること自体をよく思われず、特に女子である彼女と竜三の近い距離感というのは誰しもが許せぬものとして扱った。
けれど周りがそれを許さないとなれば益々燃え上がるのが童の心、仁にも隠れて二人は夜更けに顔合わせをすることも多々あった、屋敷から抜け出して彼女は竜三が生活をしてる小屋で過ごしては口唇を重ねた、何度も何度もそれが禁忌だと言われるとますます彼が欲しいと女の身体に仕上がる少女は感じた。
「ダメだナマエ」
「でも私竜三が好き」
「それでもお前は仁の許嫁だ、俺ぁどう足掻いても武士にはなれないガキだ」
「別に子作りしようってわけじゃない、少しだけ過ちがあったって」
或る夜、彼女は竜三のい草の上でそう告げた、互いにそれなりの歳を重ねた少年少女の躰は男と女になっていた。
竜三はチクチクと生えた髭を撫でられながらも彼女の肩を押してはっきりと拒絶した、この関係に本気になってはならない、遊びでなくてはならないのだと彼は誰よりも理解していた。
「その過ちが事実になる時もあるだろ」
万が一が起きた際、堕ろす以外の方法が無くなり、それは必ず彼女の両親や仁の伯父にも当然伝わることである。
そうなれば彼女の身は狭まるばかり、仁がどれだけ赦しても穢れた身を赦すなど武士の家系にはありえないだろう。
「俺たちはダチなんだ」
「酷い、そんなこと思ってない、仁との関係は友達でも私は竜三とは」
「帰れ、立場を理解しろよ、俺たちもうガキじゃない」
俺はもう一人前に一人で稼いで飯を食ってる。
そういわれてしまえば否定など出来ることか、ナマエは夜道を走った、誰もいない村の中を泣きながら走って帰った、彼女の世話人となる女中が気付きはしたが何も言わずに背中を摩り慰めてやった、獣のような香りを交わらせた彼女のことを、きっと女として理解していたからだろう。
あれから幾年が経過したのかと考えた、仁と彼女が二十歳になる前、婚礼の話は直ぐに持ち上がり確定された。
彼女が誕生日を迎えた三日後、夫婦になるのだと取り決められる頃、二人は静かに互いを想いあっていた、竹馬の友であることは気恥しいものだがそれが互いに隠し事なく生きられるものだったからこそ良いと思えた。
仁は優しい男であった、昔からお転婆な彼女を連れて馬に乗せてやったり花を見せに行ってやったりと二人は愛し合う者としての時間を過ごした。
それを周りが微笑ましく見つめては、まるでかつての境井正が妻にしていた時のように感じられてあまりにもいじらしいと思えるのだ。
「とても良い時間を頂戴いたしました」
「あぁ、俺もずっと過ごしていたいほどだ」
「明日は志村さまとお出になるのでしょう?」
「そうだ、婚礼の品を受け取りにな、一日は掛かるだろう、帰ってきたらまたお前に直ぐに逢いたい」
「私も毎日あなたに逢いたいと思います」
偽りではなかった、それが本心であった、幼少期の恋心は所詮過去のもの、仁との刀較べに破れた竜三はあの日を境に二人のもとから何も言わずに去った、それもまた彼の人生だと二人は言い聞かせ、きっと無事に過ごしているだろう彼を想い日々を過ごしていた。
雨の強い日であった。
仁が志村と共に青海から日吉へと経った、天候が悪く足場も悪い為、日を改める方が良いことを提案するも婚礼の儀に必要なものをだからと行ってしまった。
障子が震えていた、雨風は酷く蝋燭の灯りが物寂しく感じるほど、彼女は読物を止めて寝入ろうとしたとき、その影に気付いた、笠を被った男、野党の類かと彼女は思わず身を強ばらせたものだがどこか懐かしい香りに呟いた。
「竜・・・三・・・?」
雷が落ちた、近場であったのかその雷雨の音は激しく木にでも当たったのやもしれないと思う頃、戸が開き笠を被ったみすぼらしい格好の牢人がいた、ボロボロの笠から覗いた眼から照らされた顔立ちは確かに数年前にみた男である。
どこかで感じていた、仁との婚礼が決まれば彼が祝福しに来るかもしれないと。
彼女は起き上がり雨に濡れた竜三をみて慌てて箪笥の中にある布で拭ってやった、本来であれば来るべきではないと追い払うべきだが数年ぶりの旧友との再会を喜ばずにはいられないのだ。
布地越しに触れた竜三の躰は以前よりもずっと成長していると感じるやいなや、彼女はふと手首を捕まれ口唇に何かを感じた。
ヌルりと忍び込んだ感覚に掴まれた力強い手、それが何かを理解していた彼女は思わず忍び込んだ彼の舌を噛むと思わず彼は口元を抑えて怯みつつも彼女を見つめた。
無言が二人の間を駆け抜ける。
大きく一歩を踏み出して、逃げ出そうとした彼女を勢いよく畳の上に押し倒した、背中に感じる痛みに顔を顰めていれば竜三は何も言わずに見下ろした、濡れた髪も着物も全てが彼であると理解していながらどこか違うように感じられ彼女は静かに見つめ返した。
何度も求めた彼が今そこにいると思うと胸の奥が痛みとは別に何かを求めていたようだった。
「私はもう仁さまのものですよ」
「もう時期だ」
「ええ、ですがあの方のものです」
心も躰も全てあの方に捧げるためなのです。と彼女が告げれば竜三は彼女の顔の横に置いた手に拳を作って下唇を噛み締めた。
「あと三日、いや二日か?それまでお前は誰のものでもない」
その言葉に彼女の胸が熱く染る、それは竜三が静かに自身に情熱を向けているのだと理解していたからだった、二人は何も言わずに見つめ合うとき、二度目の大きな落雷と同時に蝋燭の火が消えて、互いに口唇を重ねた、竜三しかしらない彼女にとってその口唇は懐かしいものだった、厚っぽく思わず甘く噛んでしまいたくなる口唇、彼は嫌がってしまうが逃がしたくないと彼女は竜三に噛み付けば彼の手が寝間着の中に入り込む。
帯も解かれずに乱されて彼女は初めて乳房を異性に触れられた、荒だった土に触れたような泥塗れの手が撫で、口唇から乳房に舌を這わされると背中に雷を打たれたようであった。
「ッ・・・竜三」
名前を告げても彼は止まらなかった、甘く吸って噛んで揉みしだいて彼女が女であると感じて自身の指に唾液を纏わせては脚の間に滑り込まれようとすることに彼女は堪らずに脚を閉じて竜三を眺めた。
「竜三」
「ナマエ」
互いにわかっていた、これを行ってしまえば取り返しがつかなくなると、今一歩彼女の花園に踏み込み荒らしてしまえばその花を散らすまで、きっと竜三は止まれない、そしてそれを受け入れるかどうかの判断は彼女だけに託されている。
薄く開いた彼女の脚に竜三は何も言わずに指を花園に沈めた、蜜も出てない花壁が彼の指を受け入れられないと言いたげに拒絶すれ
「ひとり遊びをしてなかったのか」
からかうような彼の言葉に気恥しさを感じれば彼の指が入口から出てきては彼女の下生えを撫でる、クポクポと彼が人差し指の第一関節を抜いたり差したりと繰り返せば自然と蜜が滲みはじめ彼は気分良さそうにこの蜜を拭う様に指先に纏わせる、入っては出ていくその感覚を感じる彼女は次第にどこかもどかしさを感じて腰が揺れる。
竜三は女を知っていた、それゆえに彼女が何を望むのかも知っており寝間着を乱して脚をまた開かせて指をさらに奥に沈める。
「う"ッ・・・ん」
異物が入り込むような感覚だがどこか心地よい、竜三の指が花園の中で花を探るように指先でかき分けてやれば彼女は内蔵を触れられるような感覚から微かな快楽を感じて布団の敷布団を掴む。
ある一点を掠めた時、彼女は甲高く鳴いた、竜三は口元を緩めて「ここか?」と呟いては意地悪に花を弄ぶため彼女はどうしようもなく情けない声をあげる。
「竜三っ、竜三、やめて、そこっ」
それまでなんとも思わない違和感が途端に全身をおかしくさせた、身を震わせる彼女に竜三は笑って責め立てると蜜は奥から次第に溢れ出す、それが本能的なものだとしても行為が円滑に進むのならばどうでも良い。
竜三は彼女の花の芽を親指で押し潰しては中指と薬指で花園の中を支配していく、彼女は次第に漏れ出す声に下唇を噛み締めると竜三は優しく接吻をしてはそれを止めさせる、いつもこの男はガサツだと思いつつも優しく気遣いのできる人だったと彼女がおもうと切なさすら感じる。
程よく解れたそこから指を抜いた竜三は彼女の寝間着の着物も自分の着物も脱ぎ去って、いきり立つ茎を彼女の足の間に向けた、彼は何も言わずに見下ろす姿がずるいと感じた。
自分から賊な行為を行っておきながら、それでもまだ彼女の情に訴えかけて静かに望むのだ。
数年間顔も合わせなかった彼が何を今更と云ってやりたかった。いっその事二人で駆け落ちでもすれば本当は幸せだったのかと無駄なことを考える、しかしそんなことは許されない、そして二人は仁への裏切りと判りながらも繋がりあった、ナマエは竜三に口吸いをして、竜三は彼女の花園に自分の茎を沈めた、
「う"う"ッッ」
「ぐ・・・ぅ・・・」
ブチブチとまるで花を手折るような音が聞こえた気がした、まるで火に焼かれたような痛みが彼女の躰に駆け巡る、苦痛に顔を歪める彼女に竜三は苦しながらも自分を教えるように無理やり奥に熱を押しやる、裂けたのかと感じるほどの痛みに彼女はポロリと涙を流した、目尻から流れた涙が枕に落ちて最奥まで捩じ込まれれば竜三は彼女を静かに見下ろした。
「俺を怨んでいい」
その言葉に彼女は理解していた、竜三は消えない感情が欲しいのだと、それが愛でも憎しみでも構わないのだと、初めてのあの心を忘れないでいて欲しいと願った彼に対して彼女は痛みを感じつつも布団ではなく竜三の背中に腕を回して、その長い爪を立てた。
ギリギリと音を立てて彼の皮膚に食い込む、皮膚が薄く破れて程よくついた肉に爪が刺さると彼は小さな声で呻き声を漏らした。
「怨むものですか」
あの時の三人の記憶も、二人での秘め事も、全てが例え過去の走馬灯だとしても、そこには確かに存在した思い出であった、ナマエは何度も夢遊した、自分が百姓の娘であれば、ただの民であれば竜三と二人過ごせていたのか、または竜三が武士の子であれば。
「私の想い出なんですから」
竜三はただ何も言わずに彼女を貪った、甘い声も出ずに生娘の苦しそうな声を耳にしつつも彼は瞼の裏でずっと彼女の夢を見た、夫婦となり二人生きていく夢を、自分が武士になれたとしてもその家柄からきっと赦されはしなくても、それでもきっと今よりも隣にいれたと思った。
雨か涙か汗か分からない、二人の熱い吐息は部屋の中に溶け込んで消えた、竜三は彼女の涙が溢れた眼を親指で拭っては顔を寄せると自然と接吻した。
「俺のガキを孕めばいい」
彼の言葉は最後だと云わんばかりの落雷の音に飲み込まれ、それと同時に竜三は種を彼女の最奥に注いだ、彼の頬から彼女の額に汗が一滴落ちればそれは竜三の涙のようであり、思わず彼の頬に手を伸ばして優しく触れては胸に彼を招いた、薄く見えた彼の顔には背中に爪を立てた時の血が僅かに付着しており、二人は静かに抱き締め合う。
「仁のことをどう思ってるんだ」
身を正した竜三は彼女にとって問いかければ彼女は身嗜みを整えては竜三をみつめて微笑む。
「当然、貴方の時のように深く愛してる」
本当は知っていたはずだ、彼女が初め仁に惚れていたことを、けれど竜三はその花が欲しくてたまらなくなった、決して自分のものに出来ない百合のように気高い花。
幼い恋心に流されて自分のものにしようとしては結局赦されぬ壁に苛まれ彼は諦める他なかったからこそ、今彼女の答えが違ったのならきっと手を引いて連れ出したのかもしれない。
しかしながら弱い女に惚れた訳では無い彼はカラカラと負けたように笑った、だからこそ彼女に想いを馳せたのだと感じつつ笠を被り直した。
「そりゃあよかった」
そう告げた彼は雨の止んだ夜更けに出ていってしまう、まるでそれは泡沫の夢のようであり、彼女は静かに閉まった障子を見つめては口唇を噛み締めた、最後くらい接吻をしてくれればよかったのにと想いながら自分の中に残された熱を優しく抱き締めて。
翌朝、彼女は誰にも竜三との営みがバレることは無かった。
敷布団の血痕は隠すかのように不定期にやってきた月経によりかき消された、白の上に舞い散る赤黒い血痕に厠にいけば剥がれ落ちたような赤黒い塊の血痕が落ちたことにまるで彼女は堕胎のようだと感じてはクスクスと笑った。
どう足掻いてもあの男は自分と交わる事など無いのだと感じては笑みと同時に眼から泪が落ちた、これは神の思し召しなのだと感じながら。
◇◆◇
「先日の帰り、竜三を見掛けてな」
狭い布団の中で仁の腕に抱かれた彼女は彼の口から出た相手の名前に顔を上げる、それはあの夜の帰り道では無かったのかと彼女は考えつ「左様でございますか」と呟いた。
「珍しく向こうから来て、ナマエが俺を心から慕っているのだから大切にしろ。と云ったのだ」
「あの方がそのようなことを言うだなんて、意外でございますね」
「彼奴はお前を大切にしていただろう、だから俺の頬を殴らんとばかりだった」
竜三の指とは違う節くれだつ指先で髪を撫でられる、その撫で方はとても優しいものだと感じつつ目を細め彼女は仁の胸元に顔を寄せる。
「二人とも私を大切にして下さりましたから、それでも私のこれからは貴方様に全てを捧げますよ」
そう告げて背中に腕を回して爪を立てた、竜三とは違い柔らかい肉のついた仁の皮膚を感じ肉に爪が刺さるとぶつりと破けるように感じた、じわりと滲んだ血が指に付着する時、通っている血の色も熱も同じなのに何故一人しか選べぬのか、何故一人しか愛してはならぬのかと彼女は眼を閉じて考えた。
その瞼の裏にはかつて三人で手を取って野山を駆け回った姿を思い浮かべながら、仁の香りを強く感じた、自分の男はこの一人だけだと言い聞かせて。
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