照準はターゲットを補足していた、いつでも狙えると告げれば通信相手はまだ待機するようにという、引き金を引く指はいつでも用意ができており小さく零した息は白くなっていた。
高級ホテルの上層階で密談をしている姿に悪人というのはいつも高いところが好きだと感じる彼女はふと以前聞いた、バカと煙はなんとやら⋯といっていた仲間の言葉を思い出す、全く世界には色んな言葉があるのだなと感じる頃通信機の先の声が合図を出した為引き金が引かれると同時にターゲットの頭には綺麗な銃弾が打ち込まれ倒れ込む、騒ぎ立てる部屋の中に次々と突入されていき狭い室内が混沌とした会場に変わる。
自分の仕事は終えたと彼女が立ち上がろうとしたものの、ふと見えた光景にもう一度ライフルを構えて数百メートル先の相手を射抜けばふと窓を見た男は照準越しに親指を立てて微笑むものだから彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「流石だな」
「まぁ狙撃手ですから」
そういって笑った彼女は立ち上がり仲間たちと合流するかと隣に立っていたジモと共に部屋を後にしようとする頃、ドアが勢いよく開かれ男達が侵入した、凡そ今回のターゲットの手の者だと理解したチャイは腰のハンドガンを抜き相手の足を狙い撃つが開けた部屋である場所にどうするかと考える前にジモは先にスモークを投げつけ彼女の手を引きすぐ隣の部屋に入り込んだ。
「一人倒れて四人入ってきてた、全員サブマシンガンだったし護衛とは別で雇ってるギャングじゃないかな」
「了解、あと三人だ、窓から出るぞ」
「了解、ジモくんは窓に待機して」
「どうするつもりだ」
まぁその辺のギャング-不良-なら大丈夫だろうと彼女は笑うものだからジモは彼女を信頼し窓に手を掛ける頃、銃弾が部屋に撃ち込まれ壁に穴が開きジモは急いで窓を開き飛び出しては隣の部屋の窓に移ろうとする頃、銃声がさらに激しくなりパートナーの安否が不安となり、銃声が止まると同時に窓の縁に力を込めて覗き込めばドアの上部に待機していた彼女は入ってきた男の頭を撃ち抜き、その後入ろうとした男の上に飛び掛りもう一度頭を撃ち抜いては、背後にいた最後の男に馬のように足で鳩尾を蹴り上げるも男はそれを受け止めて彼女の顔に拳を打ち込んだ。
「女の顔はやめろっ!」
ジモは窓から飛び戻っては、彼女の胸ぐらを掴み拳を打ち込もうとする男に勢いよく飛び蹴りを食らわせては伏せた男の両足に銃弾を撃ち込み、手に持っていた銃を足で遠くにやり万が一にもと男の指を数本折っては慌てて床に倒れていた彼女に駆け寄った。
「チャイ平気か??」
「ごめん、ちょっと油断しちゃった近接戦って苦手で」
「鼻血が凄いな、上じゃなくて下向いて鼻の上を抑えてろよ」
ジモの手が鼻先に触れては折れていないことを確認し、彼はポシェットの中からタオルを出して抑えてやった、主に殴られたのが頬でもあった為か次第に血を止めたチャイは彼に大丈夫である旨を伝えるもののジモは不安げにみつめるものだから公私混同だと注意をしてしまいたくなるものの彼の思いやりが心地よくなってしまう。
汚れてしまったタオルはこちらで処分する旨を伝えて立ち上がろうとしたチャイだが足元が揺れたことに彼は慌てて肩を支えれば互いの距離は近く心臓が高鳴った、恋人という関係になってからも忙しない二人にとって合同任務で組むことは非常に有難いことで、特にマークマンと狙撃手という組み合わせで指示され二人組での行動である今回の任務には僅かにもチャイは浮かれていた。
静かに近くなる距離感に目を閉じるとジモも唾を飲み込み顔を寄せた、奥で敵が倒れていようが向かいの建物で誰かが命を奪い合ってようが二人には無関係だというように触れようとした時。
『目標完全鎮圧、キスしてんじゃねぇよ』
聞き覚えのある通信機越しの声に慌てて顔を上げれば窓の外の向かいの建物の目標から二階上の建物から見下ろしていたホランギとケーニヒとクラウスはそれはもうなんとも言い難い表情をしており、チャイは慌てて立ち上がり「別にしてないし!」と声を荒らげジモは気恥しさに顔を覆い隠しながら仲間たちと合流するのだった。
◇◆◇
「この間はごめんね、これお返しのやつ」
「別に構わなかったのに、ありがとう大事にプライベートで使わせてもらうよ」
そういってチャイから小さな小袋を渡された彼は中身を見ては嬉しそうに答えた、中身を出しても?という彼に勿論だと伝えてはラッピングされた箱の中に入ったハンカチを取り出せば、有名なブランドのハンカチであり彼は安物のハンカチのお返しには申し訳がないと照れくさそうにいいつつもシンプルな深い藍色のハンカチを広げては嬉しそうに何度も眺めた。
ジモはチャイから与えられる全てに素直に喜んでくれる、それがどんなに愛らしくて堪らないのかを彼は理解しておらずチャイは恋人という関係になって尚更彼への愛おしさを増していた。
それはもうコルタックの面々もウンザリする程で、あれほど二人の背を押していたホランギでさえ間違いだったかもしれないと感じるほどであるが、唯一良かったことは二人が大人であるため公私混同は控えてくれることだった、スペックグルーとの合同任務となれば真っ先に挙手する彼女にはコルタック側も有難いことこの上はないものであった。
嬉しそうにハンカチを手にする彼をぼうっと見つめるチャイにジモは小さく笑って彼女に手を伸ばしてはそのハンカチで口元を拭った、藍色は白い汚れを付けて直ぐに吸い込んで滲んだ色に変えた事に彼女は口元に汚れが着いていたことに今更気付き気恥しさと与えばかりのハンカチに申し訳なさを感じる。
「あげた側が汚させるだなんてごめんね」
「別にこのハンカチはチャイのために使うものだからいいさ」
「じ、自分のためにも使ってもらわなきゃ」
「でもチャイの為になるのなら本望だろ?」
チャイは困惑していた、ジモは恋人になってからそれはもう甘い男にさらに磨きがかかったからでチャイはその控えめな彼の笑みも下げられた目尻も全てが胸を溶かすもので互いに若い恋人とはいえないというのに浮き足立ってしまいそうな程で彼に夢中になっていればジモはサンデーが溶けるといって彼女のスプーンを奪って口元に差し出した。
「美味い?」
そりゃあもう格別に、とはいうのは気恥ずかしくて頷いたチャイに満足そうな顔をしたジモは水を取りに行くといって席を立った、セルフサービスのカフェで言ってしまう彼に胸ときめいていたチャイだがふと聞こえた黄色い声に思わず眉間に皺を寄せた。
それは通り過ぎたジモに対する女性の言葉であり、それは悪い言葉ではなく反対に彼を魅力的な人だというものだったがチャイは気にくわなくてたまらなかった。
確かにジモという男はこの世でも特別素敵な男性だ、定型的な中国人らしい顔立ちだがその塩っけのある薄い顔立ちに丸い鼻や男性らしい太い眉にどの服装からでも見てわかる鍛え上げられた肉体、控えめな性格などは正に女性の理想にも見える上に
「あの子妹さんかな?妹の面倒見ていいお兄さんよね」
「かわいい顔だけどあの身体、超セクシー」
ここ-アメリカ-は獣の巣窟か!と言いたいほどにチャイはジモへの女性の視線に叫びたかった、そもそもアジア人は大して人気じゃないのではないのかと思ったチャイはある日親友であるホランギにこの件の相談をした。
◇◆◇
「そんなの人によるだろ、まぁアメリカ人の女って如何にもなマッチョ系好きだもんな、あとアジア人の控えめな性格が好きって言う奴は男も女も多いし」
「それってつまりジモくんは女の子にモテるの?」
「俺ほどじゃないけどな⋯流すなよ」
「流すよ、ホランギがモテてるの見たことないし」
トランプを手にした向かいのホランギが物言いたげな表情をしてきたがチャイは手元のカードを投げ捨ててロイヤルストレートフラッシュだといえば彼はこんなのイカサマだと叫ぶもののテーブルの上に置かれた賭け金は彼女の手の中に行ってしまい、ホランギはサングラスの下の眼差しを鋭くさせてチャイをみた、何事かと冷や汗が僅かに背中に流れる頃、彼は指を一本立てた。
「もう一戦」
「はぁ⋯だからモテないんだよ」
「というか意外だよな」
話を聞いてくれることもあり彼女はトランプをホランギに手渡せば彼は手馴れたようにシャッフルしてカードを配って難しい顔をしつつも、あっけらかんと彼女に声をかけたが、彼女は意味がわからないと小首を傾げて彼を見ればチャイが"嫉妬"をすることについて意外であるのだといった。
しかし彼女はますます理解しきれずに嫉妬?と小首を傾げてはそんなことは無いだろうにというが、ホランギは彼女が恋愛初心者であることを考えて詳しく丁寧に話を聞いてやった。
チャイは素直にジモと出掛ける時、彼が時折女性から褒められることがあり初めはそれを誇らしく感じていたが近頃はどこか胸がモヤモヤしてしまうといった。
さらには彼を性的に感じる言葉、例えばセクシーだとか、例えば抱かれてもいい、だなんて声を聞いてしまえばむかっ腹さえ立つほどで、魅力を感じることはわかるが失礼であると憤怒する彼女にホランギはカードを捲って彼女を見つめては納得したようであった。
「それが嫉妬だ、愛ゆえの独占欲、案外かわいいとこがあるんだな」
そういってからかったホランギは手札を得意げに投げればそこにはフルハウスが並んでおり、彼女は目を丸くするため彼は掛け金を取り戻そうとするが彼女はホランギの手を止めて首を横に振った。
「別に自分だけのものだなんて思ってないし、変な勘ぐりしないでよね」
「なっっ!」
「そんなのだから負けるの」
そういったチャイの手札はフォーカードでホランギは有り得ないと叫ぶものの何年も仲間として過ごしてゲームをする中で運に左右されるものはいつも適わないことをいい加減理解すればいいのにと思いつつ、彼女はホランギの掛け金を返してやるのだった、これが本当のギャンブルなら彼は一ヶ月分の給料をもう無くしていたからだった。
◇◆◇
「(嫉妬なんかじゃない、ただなんかモヤモヤするだけだし、独占欲だなんてそんなの)」
もっと有り得ないというチャイが自分の気持ちに素直になれないのはその感情が良くないものであると思っていたからだ、幼い頃からなにかに執着をして相手に求めることが報われることなどない、反対に嫌悪され邪険にされるものであることを知る彼女にとって抑えるべきものであると感じるものであったが、それでも尚目の前の光景に思わず口に含んだスプーンに歯を立ててしまう程だった。
丁度水を片手に戻ろうとしたジモに声をかけたのは数席先の女性であり挑発的な格好をした女性たちは彼に甘い言葉で囁くのをチャイは思わず目を見開いて見つめた、一人?妹さん?優しいのね、良かったら一緒にコーヒーでも⋯と定型的なナンパをする女たちにチャイは連れがいる相手を誘うなと怒鳴りつけてやりたいと思ったがジモはその二人組みの女性に軽く断りを入れようとするも腕が伸びてジモを席に座らせては気軽に腕を組んだ。
「なっっ!!」
それは流石においたが過ぎるだろうと彼女がテーブルを叩く前にジモは乱暴に腕を振り払ってなにも言わずにチャイの傍に戻ってきては彼女が食べ終えたのを見てたった一言店を出る胸を告げた。
チャイは彼に何も言えずに頷けば手を取られ歩き出されるがジモにちょっかいを掛けようとした女性たちのテーブルを通る間近にて彼は足を止めてチャイの肩を抱いて二人の女性を見下ろした。
「彼女は俺の恋人だし、そういう言い方で嬉しい奴いないんじゃないのか」
その言葉に苛立った女たちは去り際のジモに文句を吐くが彼は気にしせずに歩き続け店を出る前に振り返ったチャイは女性に指を立てて舌を出してジモに連れられるがまま外に出て彼の車に乗り込んだ。
しかしながら一向に発進しない彼にチャイは何事かと運転席の彼を見れば、ジモはハンドルに顔を伏せており慌てて先程の女性たちにやはり嫌な思いをしたのかと思いそれなら今すぐにもう少し言ってこようと彼女が思う頃ジモの謝罪の言葉が聞こえるもなぜ謝るのか彼女には何一つ分からなかった。
「女性相手にあんなムキになるなんてダサすぎるだろ」
「嫌な事言われたんだったらいいんじゃない?」
「嫌な事⋯」
まぁ⋯そう⋯と口篭る彼の様子に一体どうしたんだかとチャイは心配そうに眺めていれば彼は隣に座る彼女の手を取って指を絡めた、彼の太い指先が彼女の左手の薬指を撫でた、それは交際を始めてすぐに彼と選んだ約束という名の婚約指輪であった、いつか二人が互いに決心がつけばそれを右手に着けるようにしようと決めたものでジモはその指を眺めては片手で顔を覆いつつ告白するように告げる。
「兄妹だと思われたのが少しムカついたんだ、こんなにも恋人だって見せつけてるのに」
「見せつけてたの?」
「いや言いすぎた、見せつけてはないけど恋人らしくって思って行動してるつもりなんだ」
何せそういうのが分からないから。というジモにとって今までいた恋人達とは手を繋ぐことや触れられることさえあまり得意ではなかった、それが人前とくれば尚のことであるがチャイとは出来うる限り手を繋ぎ彼女の支えとなり触れていたいと願っていた。
傍から見てそれがいい歳した恋人でありながらと冷笑されても良いと思えて、それは相手が彼女であるからで、ジモは声を掛けてきた女性達がチャイに対していった言葉などにむかっ腹が立って仕方がなかったがそれは子供じみているようで気恥ずかしくてならなかった。
その言葉を聞いたチャイは顔に熱がこもるのを感じた、ジモのそうした素直さは付き合う前からかわいらしくて堪らなかったが、交際を始めてから彼は自分の気持ちにさらに素直になってくれる度にチャイは自分の心臓が持たないのではないのかと思う程であり、それならば自分の胸の内も告げるべきだと思え口にした。
「私も本当はジモくんが他の人に声掛けられたりとか噂されたりとか触られるのが、なんだかすごく嫌なの」
「別に俺はそういうのはないだろ」
「あるよ!さっきもそうだし、街歩いてたらそういう目で見てくる人ばっかり!女って怖いんだよ?ここはサファリパークかってくらいギラギラした目でみてる」
だから私はいつも取られないように威嚇して歩いているのにジモくんは全く気付いていないし、時には困ってる人を助けてあげるけどそれが更に相手の人には魅力的に感じられ、時には歩いてる男性でさえセクシーな眼差しでジモくんをみている、この世の中は有り得ないくらい人を食おうとするライオンばかりなのだ。
そう語るチャイは身振り手振りで必死にジモに訴えかけた、会社も違えば会う機会も少なく世界各国を飛び回る彼がいつか素敵な人を見つけるのではないのかと不安で堪らず、それを"嫉妬"だと言われてしまった時、どうしようもなく自分の心が狭く情けなく恥ずかしくてたまらないと感じていた。と素直に呟いたチャイは次第に俯いて顔を上げられずにいた。
しかしながらジモはそれを聞いても何も返事をせぬままでやはり彼女は自分が面倒な女であると実感して悲しみを感じつつ、恐る恐る顔を上げたジモは慌てて顔を背けるものだからなぜ隠すのかと助手席から身を乗り上げてみるがジモは手で顔を覆い隠した。
しかし彼の肌は赤く色付いており、手で覆った隙間から見えた口元は酷く緩みきっており、彼女は思わず口先を尖らせては「バカにしてるでしょ」と子供が拗ねるように呟いた。
「バカにしてない」
「嘘だね、その反応はしてるよ」
「違うんだってば」
「じゃあなぁに」
素直にいいなさい。と追い詰めるような彼女の言葉にジモは観念したように蚊の鳴くような声で「嬉しくて」と呟いたもので車内にいた二人の時が止まった。
その表情の喜びは確かなもので聞いた本人こそ余計に気恥しくなりチャイは思わず席に戻って「そ、そっかぁ」と呟かざるを得ず、二人は互いに車の中に座ったまま時間が経過したものの、ジモは真っ赤な顔で助手席に座る彼女を見て頬を緩めて左手に手を重ねてゆっくりと指を絡めあった。
「凄く嬉しい、チャイはそういうのはないと思ってた」
「私だってこういうの分からなかったからホランギに相談したの、そしたら"嫉妬"だっていわれた」
「相談するくらいに悩んでたんだな」
「そりゃあするよ、面倒臭いし別にジモくんは私の所有物じゃないのに」
「所有物でいいさ」
チャイの所有物なら喜んでなる。といったジモに勘弁してくれと羞恥で消えてしまいそうになるチャイにジモは笑って身を寄せた、俯く彼女の髪や頬を撫でてはそれまでずっと自分が同じ気持ちをしていたことを教えてやりたかった。
同じ気持ち以上で彼女の周りは必然的に異性が多くなること、本人の意識のなさから近い距離感、あからさまに彼女に好意があるであろう者など付き合う以前から不安は尽きることはなかった、そんな彼女から与えられる感情を独占しているジモが喜ばない訳がなく、小さな声で彼女を呼んでキスをしたいと強請れば観念したように顔があげられる。
まるでキスさえ初めてかのように目を強く瞑った彼女に笑ってしまいたくなるが雰囲気は大切だとジモは優しく唇を重ねれば次第に力の抜けた彼女の手がジモの手を握り返す。
「チャイからの感情ならどんなものでも嬉しいよ」
「私もジモくんなら嬉しい」
例えそれが悲しいことでも嫌なことでもそれを含めての恋愛なのだとチャイは初めての関係や感情に戸惑いつつも理解していた。
そしてもう一度彼に深いキスをされる頃、先程の店から出てくるジモをナンパした女性を見つけては互いに目が合うとチャイは思わず右手の中指を上げて笑った、誰にもこの人をやるものかと言いたげに。
恋愛とは全くもって度し難い。
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