利害関係の一致やクライアントの契約からであるのかスペックグルーとコルタックのオペレーターがひとつのチームとなり行動をすることは多々あることだった。
基地の中を歩くジモはコルタックとの合同任務となれば自分が誰と組むことになるかを理解しており、隣を歩いていた同じスペックグルーの同チームとなるローニンは喫煙所に行ってくると告げて彼をひとり残して廊下の角を曲がり行ってしまう頃、入れ違いで彼女は現れた。

「ジモくん!」
「チャイ⋯今日の合同任務もよろしく頼む」
「うん、こっちこそ今到着したの?」
「あぁそうだ、任務内容やチームメンバーはいつも通りだと聞いてる、二人は?」
「ホランギは喫煙所、オニくんは武器庫に行ってる、コーヒー飲む?ここの基地ドリンクサーバーがついてるから飲み放題なんだって」

相変わらずの明るさに薄暗かった廊下に光が射したように感じられた、彼女が戦場でスコープを覗かない時はいつもこの調子であり彼女と話す全員が少しだけ呆気を取られてしまうほどであり、ジモはそんな彼女の雰囲気や明るさを好んでいた。

喫煙所の傍のドリンクサーバーで彼女はコーヒーを二つ入れてはジモにミルクだけを入れたコーヒーを差し出し、自分用には砂糖とミルクを多めにしたものを持った、曰く糖分を取るのが仕事への集中力を高めるものなのだという。

任務内容を軽く話しつつも先鋭ばかりを揃える合同任務においてはクライアントも早くに事を始末したいことが目に見えてわかることであり、ジモは今回のターゲットの話をしようとするも彼女はそれを流しては雑談に切りかえた、毎度の事ながら彼女が極力仕事の話をしたがらないことを理解していながらもジモは自分から話題を提供することに不慣れである為毎度の事ながら内心苦い思いをしてしまう、仕方がない女と話すのはもっと不慣れであるのだから。

「そういえばこの間任務でイスタンブールにいったの」
「いいな、コーヒーの本場だろ?」
「そうそう、私コーヒー苦手だっていったらホランギが子供舌だなんてからかって来てムカついて飲んでみたらすごく美味しくてね」
「それならあいつに感謝だな」
「だけど一緒のもの飲んでたのにホランギだけ次の日にお腹崩したらしくって」

フフフッと笑いを込み上げさせる彼女に相変わらずのチーム仲なのだと思いつつ彼女が腹を崩さなくてよかったとジモは告げれば、彼女は得意気に自分の胃袋は強い方でホランギはいつも繊細すぎるのだといった。
イスタンブールへは行ったことはまだなかったジモにとっては貴重な話だと相槌を打ちつつ楽しそうに話をする彼女の表情に視線を奪われていれば彼女の背後から伸びてきた手が彼女の頭の上に置かれては上から押しつぶすように男にのしかかられる。

「俺の話で笑ってただろ」
「重たい重たい、潰れちゃうってば」
「また悪口か?何言ってたんだよコノヤロウ」

きゃあきゃあと楽しそうに声を上げる彼女に迷彩装備に口元も隠したサングラスが特徴的な男、ホランギがじゃれつくように絡めばジモはいつもの光景だと微笑ましく感じる。
しかしながら次第に沈んでいく彼女にジモが助け舟を出せば彼女はホランギから逃げ出してジモの背中に隠れた、背中に感じる彼女の熱にジモはドギマギしつつも愛想笑いをして「ほら、もうそこまでにしとけよ」と二人に告げてやればホランギも仕方なしに勘弁してやることにした。

「それよりチャイ、そろそろミーティングだからオニを迎えに行くぞ」
「あっもうそんな時間?それじゃあジモくんまたあとで」
「え?あぁ⋯またあとでな」

もう少しばかり話したかった。と数ヶ月ぶりの彼女に残念がって離れていく姿を見つめた、廊下の曲がり角でみえなくなるまで大きく手を振ってくれていた彼女にまたすぐに会えるのだからと思いつつも話したいことは山のようにあるのに上手く言葉は出てこない。

そう思いつつ手元の空になったコーヒーを見つめるとき、ふと視線を感じ横を見ればローニンがタバコを吸い終えたのか立っておりジモを見ては「相変わらず初々しいな」というものだからジモはこの読めない男は密かに自分を面白がっているのだと感じつつ。

「なんの事だか」

と捨てセリフのように告げてはミーティングルームに向かった。
ローニンという男はPMC業界においては有名な兵士であり大抵大きな任務には彼がいた、初めこそその日系アメリカ人に慣れないことも多かったが救われることや学ぶことも多々あり、密かに彼を尊敬していた、きっと彼以外の者もこの伝説のソルジャーともいえる男を尊敬しているのだろうが口にはしない。

「今日の任務を終えたら食事くらい誘ったらどうだ」
「あんたの口からそんなことを言われるなんてな、別に彼女とはそういうのじゃない」
「傍から見ても分かりやすいぞ」

からかわれてるのかと察したジモは黙り込んで足を早めればローニンは面白かったのか小さく笑った、全く他人事と思うと人は高みの見物で他人を嘲笑うものだと彼はうんざりとしつつも彼女の予定を考えた。

◇◆◇

「随分機嫌が良さそうだな」
「ダンナ様が来たんだよ」
「ダンナ様⋯あぁスペックグルーか」
「ダンナ様ってなに、ジモくんはジモくんだよ、二人して変なこと言わないの」

周りに聞かれて勘違いされたらどうするの。と声を荒らげる彼女の声の方が遥かに大きいが彼女は気付いていない為二人は気にせずにからないを続けてやった。
実力至上主義のコルタックにおいてこの三人はほとんど固定のチームメンバーであり、何度も任務をこなしていることも相まって連携はとてもいいものだった。
先陣を切るオニに中堅のホランギそして後方のサポーターのチャイという三人の連携は訓練時でも飛び抜けた技術を持ち合わせ言語や国は違えどもここまでの連携を見せられるのも、チャイのお陰でもあった。
本来の性格や気質でいえばホランギとオニは正反対であった、もちろん戦場においては慎重派であることには変わらないがその慎重さもまた異なるものではあった。

異なるものの殆ど同時期に入ってきた三人は同じ東アジア人であるからと一纏めにされてしまえば文句もいえず、比較的似たり寄ったりな国のメンツで良かった方だと言い聞かせたものの、その中でも彼女一人はまるで親に頼んでテーマパークに来た子供のように目を輝かせて、二人の東アジア人に出会えた事を心より喜んだのである。
それはつまり彼女が極度のホームシックであり、違う国だとしても同じ東アジア人に安心感を覚えたからであった、それまでチームの顔合わせのために呼ばれたものの無言だったホランギとオニは彼女に絆されチーム以上に友人としての付き合いとなったのである。

「チャイ、彼とチームだとしても気は抜かないようにするんだぞ」
「そうそう、見惚れちまって大事な時に狙撃してくれないってなるのはもう勘弁だからな」
「う"っ⋯あれはそういうのじゃなくて、たまたまジモくんが危険だったからそっちのサポートをしてただけで」
「聞いたかよ、俺よりあのスペックグルーが大事なんだってよ」
「安心しろ俺もお前のことは放置する」

なんだよお前たち!と声を荒らげたホランギに声を出して笑うものの実際ホランギとは長いチームであるため実力を熟知している、過度なピンチでない限りは手を出さなくても無問題であるのだと信頼をしており、ホランギ自身もそうした信頼からの行動だと理解していた為冗談で返してやるのだった。

「それにしても相変わらず彼が好きなんだな」
「なに、今日はオニくんがそういう話がしたいの?」

チャイがジモという青年に対して恋をしていることをコルタックのメンバーはほとんど知っていた、それは彼女は人への想いを隠す気などないからだ、実際の反応を見てもジモも彼女を悪いとは思ってはいないものの様々な障害から共になることは無いのだろうと察していた。
改めて仲間にそのことを指摘された彼女は胸の内で考え一度ゆっくりと瞼を閉じた、その裏には彼の姿がハッキリと映されており気恥しさを感じて思わず顔に熱が籠ってしまうものの、それを眺めるオニに彼女は照れくさく笑いつつも「うん、やっぱり好き」と呟けばオニは柔らかな眼差しを向けて彼女の頭を父や兄のように優しく撫でては三人は足速にミーティングルームに向かう。

口にして考える度にジモへの気持ちを改めて痛感する、気恥しさを感じつつもその気持ちを否定しないのは、今ある命があまりにも儚いものだと知っていたからだった。


◇◆◇

「(任務を終えたら飯に誘えって、どう誘うんだ)」

ようやく任務を終えた一同は狭いバンの中で揺らされていた、それぞれが任務のことを話をしている中いつも通り口数の少ないジモは顔を俯かせてはその事ばかりを考えていた。
とはいえ話をしているというのは主に彼女であり、それに相槌を打つホランギもローニンもひと任務を終えてはようやくの休息だと窓を開けてタバコを吸っている状態で、ジモは後部座席で報告書を書いているふりをし続けていた。
こうした隙間時間にデスクワークするのが一番の時間短縮であり、無駄な会話を省くことができるからでジモは口数が多いタイプでは無いが、かといって寡黙というほどでは無い、しかしながら軍において下世話な話を好む連中が多いのは現実であり、そうしたことを好まない彼は軍内では比較的物静かなタイプに受け取られがちだった、その癖がついていたこともあり彼は物静かに過ごすことが多く、誰もそうした彼のことを気にはしなかった。

しかしながらいま彼の頭の中は報告書は建前で、二つ前の席でオニと楽しそうに会話をする彼女のことでいっぱいになっていた、彼女と出逢えたのは三ヶ月ぶりであり他社PMCでありながらも頻繁に会えていたとしてもやはりどこかもの寂しいと感じるのだ。
だからこそローニンからの任務前のアドバイスが脳裏を過っては悩み続けていたジモは彼女をどう誘うべきかも悩んでいた、臨時基地となったその場所に泊まることは前提だが生憎とメキシコに詳しくないジモは夜遅い時間に空いている店も知らないのにどうしたらいいのかと考えて深いため息をついた。

「なんだ報告書に行き詰まりでも?」
「いや、まぁ⋯そんなところだ」
「チャイ、ジモが報告書今日は書けないってよ」
「そうじゃっ「そうなの?それなら私が代わりにしようか」

ため息を聞いたホランギはすぐさま声をかけたものの適当な言い訳をしたジモに彼はすぐさまチャイに助け舟を出すように依頼した、それはホランギが書く報告書であればきっと彼女は流しただろうがジモとなれば快く手を差し伸べてくれるのだ。
だが当然報告書で悩んでいないジモは彼女の言葉に平気だと慌てて告げれば彼女は笑顔で「困ったらいくらでも手伝うからね」といった為ほっと胸をなでおろした、その時前に座っていたホランギが振り向いて小さな声で「甘えたら良かったのに」というものだからジモはやはりコイツとは反りが合わないと感じては僅かながらの威嚇として座席を蹴ってしまえば彼の背中が大袈裟に跳ねたのだった。

「で⋯結局誘えなかった俺は本当に意気地無しだよな」

ジモが自分が恋愛に奥手である事はそれなりに理解していた、仕事や任務や友人関係などは円滑で積極的でもそれが異性で恋愛的にみてしまうとどうしようも無くなるのだ。
臨時基地の与えられた質素な部屋の中で一人、パソコンで報告書を完成させて本部に送信した彼はベッドの上で大きく仰向けになっては、夕食もそういえば簡素なプロテインバーだけで済ませてしまっていたと気付いて空腹感に腹を摩ってしまう、時刻は日付を跨いでいる頃で近くにコンビニもない基地ではどうしようもないとシャワーを済ませて寝入ろうとしたジモの部屋がノックされ、彼はこんな夜更けの任務終わりに誰なんだかと若干の常識の無さに見ていない相手への悪態を付きつつドアを開ければそこには見知った女性が立っていた。

「お疲れ様、こんな夜遅くにごめんね」
「チャイ?あぁいや良いけど、どうかしたのか」
「ご飯ってもう終えた?さっきローニンさんに買い出しに連れて行ってもらってよかったらジモくんのものも買っといたの」
「いや食べれてない、丁度腹が減ってたからすごく助かるよ」

彼女の顔を見てはジモの僅かな怒りはすぐ様消えてしまい喜びのグラフがあれば目に見えて上がったことだろう。
彼女が差し出したレジ袋の中にはいくつものパンやドリンクが入っており、一人では多いと思えば「私もご飯まだなの、よかったらどうかな?」というため彼はチャンスを逃すのはまずいと二つ返事の了承をした。

しかしながらジモはまさか自分の私室というわけではないにしても二人きりで狭い一室で過ごす事になるとは思わずベッドの上で隣で腰かけている彼女に心臓が戦場にいたときよりもずっと脈打つように感じられた。

食堂はあるものの夜も更けてしまい宿舎からも離れている為問題のない場所をといわれてしまえばジモは下心もなくその時は誘ってしまったものの、実際彼女が部屋の中に現れた硬いシングルベッドの上に二人で横並びに座ってしまえば自分の密かな下心に後悔してしまう、しかし彼女は袋の中を漁っては買ってきた飲み物や食料品を並べてはどれにするかと聞くためジモは遠慮する事も失礼であるためパンを二つとミネラルウォーターを受け取ったあとベッドの傍のカバンの中を漁り二つ折りの財布を取りだした。

「いくらだった5ドルとかで足りるか?釣りはいいから」
「いいよ別に、私が買ったのじゃなくてローニンさんが奢ってくれたの」
「ローニンが?」
「うん、ジモくんきっとお腹すいてるけどこの時間に出ていかないだろうし、ご飯誘ってやってっていわれて」

全くお節介を⋯と思いつつも、この辺りに店があるのかと問えばパブやバーなら何店舗かこの基地付近で傭兵相手にしている店があるのだといいホランギや他のメンバーはみんな打ち上げと称して行ってしまったという。

「いいのか?あっちに行かなくて」
「いいよ、みんなと飲むのはいつものことだし、ジモくんとは滅多に過ごせないでしょ?」
「俺がパブに行くって言ったら行ってたのか?」

純粋な疑問だったがそうして聞くのは期待でしかない、彼女が自分をすこしでもいいと思っているのかと感じたかったのだ、ジモとて不器用ではあるが鈍感ではない、彼女が滅多に会わない知人のような関係だとしても悪くは無いと思っていることを。
パンを手に取って早速口にした彼女はジモの問いに対して愚問だといわんばかりに眉を下げて笑うため、彼も袋を開封しては食べようとすると彼女はいう。

「いくよ、一緒に居たいから」

そうして真っ直ぐと告げる彼女にジモは胸の内を告げたくても出来なかった、それは彼女には捨てられないものがあることを知っているからであり、彼はその部分に強く惹かれていた、誰よりも家族を愛する彼女の心を。
深夜一時二人は静かに夜食を取っていた、それが例え少し硬くて質素な味のパンだとしても美味しいと感じるのはきっと一緒にいたいと思う相手がそばに居るからだった。

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