「よぉ、少しは歩けるようになってたか?」
「まぁまぁかな、やっぱり肋が折れてるのもあってなかなか難しいかも、ボルトが入ってると足が固くなるし」
「ははっ機械人間だな、まぁもっと機械人間の奴らなんていくらでもいるさ」

二回目のリハビリを終えた彼女に車椅子を用意して待っていたホランギは彼女を乗せるなり慣れたように押してやった、電動車椅子が借りられるから平気だと言っていたもののホランギは彼女に「こっちの方が早いだろ」といって廊下を走れば看護師に二人は注意されてしまい中庭へ向かった。
重傷者の多い病院ではいつ退院できるかも分からない人間ばかりであり、チャイはコルタックから用意されたが故にアメリカでも特に医療が発達した病院での入院となっていた。

「ほら飲めよ」
「また牛乳?たまにはコーヒーとかがいい」
「カルシウムを摂れって先生もいってただろ」
「朝昼夜におやつまで牛乳だよ、そのうち私が牛になって絞られるかも」
「そりゃあ困る、お前の世話は大変そうだしな」

なにおう!という彼女にホランギは声を出して笑うものの、彼女は外に出ても深く被ったフード姿で暑い中でも長袖を脱がなかった、コーヒーを片手に車椅子を運転してやり適当な木陰に腰掛けて中庭で走り回る子供たちを見つめるチャイの眼は寂しそうだった。
日陰にいると少しだけ寒さを感じてホランギは缶コーヒーを飲み終えたことから部屋に戻るかと考える頃、彼女は小さく呟いた。

「ジモくんに話したの?」
「全部話しておいた、よかったんだろ」
「⋯うん、もう来ないでって言ってくれた?」
「あぁ」

ホランギは嘘をついた、それは彼女の本心ではないことを理解していたからであり、彼は車椅子から彼女を下ろしてベンチに横並びで座らせてやった。
震える彼女の頭を優しく抱きしめて撫でてやった、すすり泣く彼女の声を聞くのはそれが初めてであり、ホランギはジモが羨ましいと思えた、彼女は彼を深く愛しているからこそ拒絶し今を悟られないようにしていたのだ。
何処までも強く気高い彼女を慰めながら風を感じる頃ホランギは彼女にタバコを差し出せば病人だと笑われてしまう、しかし引っ込めようとすれば彼女の手が伸びて一本奪い取り口にした、ライターで火をつけてやればその傷のついた顔が良く見えて彼女の目元が少しだけ濡れていたことを知らないふりをした。
それを拭うのは自分ではないと彼は理解していたから。


◇◆◇


外は薄暗く雨が降りそうな日だった、雨の日は古傷が痛むとはよく言うがその通りで折れた足はギブスを巻いていても痛みが普段よりも増していて渡されていた鎮痛薬を出そうとするが力が上手く入らずに苛立ちを感じる。
腕は足ほど重症では無いものよヒビが入っており、特に手首を捻るのが痛くテーブルの上に置いていたミネラルウォーターの蓋さえ開けるのが難しかったもののその程度でナースコールをするのは申し訳なかった。

コルタックは普段から懸命に働いてくれているからと高いはずの病院のVIP並の個室を用意してくれていた為、風呂もトイレもわざわざ外に出ずに済んでおり、インターネットも繋がりテレビも見ることが出来るため快適ではあった。

スマホが震える度にその連絡先の相手が彼ではないかと少しだけ怯えてしまいつつも寝汗で気持ちが悪くなった為薬を飲むのも諦めて着替えようと思うもののボタンは外れなかった、全てが上手くいかず暗い部屋にいると気が滅入って泣き叫びたくなる、彼女は何故自分なのだという気持ちはなかった、それは戦地に赴く兵士全員に起こる可能性があることで弱き者が蹂躙されることに慣れていたからだ、それでも傷ついていたのは自分には知られたくない相手がいるからで後ろめたさのようなものがあったのだろう。

そう考える頃ドアが音を立てて開きいつも通りの笑顔で毎日出来うる限り見舞いに来てくれる友人の名前を呼ぼうと振り向けばそこには会いたくない人物がエコバッグを片手に立っていた。

「おはよう、9時からリハビリだろ?一応水とか食料品とか」
「部屋間違えてますよ」
「間違えてない、チャイの見舞いに来たんだ」
「帰って、もう二度と来ないで」
「ホランギは暫く来れないらしい、彼からどうしたらいいかは聞いてるから」

付属の冷蔵庫の中に片付けるジモは何かの割れる音に視線を向ければ彼女はベッドサイドに飾られていた花瓶を地面に落としてはシーツを被ってジモに出ていくように言うが彼はその意見を聞き入れずに割れた花瓶を片していくが彼女は近付いたジモから逃れようとベッドから這い出て車椅子に乗ろうとするため、ジモは足の不自由な彼女に手を差し出して抱き上げた。

「離して!離してってば!放っておいてよ!」
「暴れるなよ、一人でリハビリテーションまでいけないんだろ?俺のことは看護師だとでも思ってくれ、出来るだけ関わらないようにはするけど、必要最低限は手伝わせてくれ」
「⋯」
「頼むよ」

あまりにも悲痛な声でそういったジモに彼女は顔を俯かせ何も言えずに抱き上げられ車椅子に乗せられリハビリテーションまで送り出された、部屋に入ってすぐに出入り口を見ればジモは小さく手を振って子供を見守るような表情をしてその場を離れた。

誰もいない病室は広いが殺風景であり、ベッド周りだけが少しだけ乱雑にものが置かれており、彼女が開けようとした薬や水の痕跡が見つかりジモは床に落ちている花を拾って割れた花瓶の片付けを再開した。

たかだか数歩しか歩いていないというのに酷く汗が滲み出るのはこの数ヶ月で筋力が酷く落ちてしまっているからで、それを痛感するだけ虚しさを感じつつも下半身不随でもない自分はこれを続ければ治ることを知っていると言い聞かせてリハビリに取り組んだ。
ふと視線の先で見えた幼いアジア人の少年も同じくリハビリをしていたようであり、チャイはそれをみては泣いてしまいたくなり顔を伏せた。

「まだ帰ってなかったの」

冷たい物言いをする彼女にジモは本を読んでいたが顔を上げてみつめれば看護師に車いすを押されて帰ってきた彼女の膝には病院内の売店で買ってきた物があり、ジモは看護師から車椅子を貰い受けてベッドに彼女を送り届けては膝の上の荷物を冷蔵庫に入れるかと思えばシーツを頭まで被った彼女は「お昼ご飯くらい食べたら?」と言い放ちそれ以上何も発しなかった。

泣き叫んでもジモが帰らないことを理解していた彼女は今日だけは諦めることを決めた、シーツの中でくるまっていれば聞こえてくるジモの食事を食べる音が無性に恋しかった。
何度も二人で食事をしてきた、彼との食事は心地よくて大好きだがもうできないような気がした。
悪いことばかり考えると痛みが増していき小さな呻き声が漏れるがふとベッドが軋んで彼女の傍に温もりと彼の香りを感じた。

「薬は全部開けやすい容器に入れといた、水もストローの開けやすいのにしてここに置いてるから、必要なら飲んで、俺はソファにいるから必要なことがあれば呼んでくれ」

その優しさが余計に苦しくなるチャイは離れていく彼の熱に腕を伸ばしたいと思いつつも出来ずに縮こまり、彼が去っていったのを感じてはシーツを頭に被ったまま薬と水を飲み込んだ、ふとシーツの隙間からみえたジモはメガネをかけて静かに本を読んでおり、チャイは自然と声を漏らす。

「メガネ、かけてたの?」
「え?あぁいや、本読む時だけ眉間に皺が寄るって母親によく怒られ⋯て」

ようやく彼女から話しかけて貰えたとジモは嬉しくなり返答したが彼女はまたシーツの中にヤドカリのように逃げ込んでしまい、その小さな背中に少しだけ頬が緩む。
彼女が今気が滅入ってしまうことや殺気立つことは仕方の無いことで、どんな理由であれ拒絶されることも仕方がないと思っていた、けれども少しでも以前の彼女が見られるのならジモはそれを嬉しいと思えるのだ。

「本は読む?俺もあんまり読まないけど、ここに来る途中本屋に寄ってみたら面白そうだって思ったんだ」
「⋯なんの本?」
「健康と筋肉、最近筋肉の付き方が悪いかなって思って、こういう本はあまり読んでこなかったし医学書コーナーにあったからいいかと」

真面目にそういったジモの声にチャイは思わず笑いそうになった、そんな事をせずとも十分筋肉がある彼がそんな本を読んでいることも、久方振りに行った本屋で気になる本が普通の小説やコミックでもなくそうした健康志向の医学書の欄にいる本であることが自分にはない感覚で少しだけ面白く、まさに彼らしいと感じたからだ。

返答は帰ってこなかったもののジモは気にせずに本を読んだ、次第に彼女はジモに話しかけることは無いもののパーカーを深く被っては本を読んだりテレビを見たりと自分の時間を過ごしておりそれが少なからず信頼を得ているように感じているからで、今この空間に居させてもらえることだけでも幸福だからだ。

「そろそろシャワーに入りたい」

誰に言う訳でもないような言葉にジモが視線を向ければ彼女は顔を俯かせてベッドの縁に腰掛けており、ソファに座ったすぐ横にあるシャワールームに視線をやってはジモは二つ返事を返して彼女を抱えてやりシャワールームに案内し、服を脱がしてやるかと見下ろせば彼女が「さすがに出ていって欲しいかも」というためジモは「そ、そうだよな」と照れくさそうに返事をしてそそくさとその場を後にしてまたソファの上に腰掛けて出てくるのを待っていた。

パーカーのファスナーを下ろして現れた自分の皮膚に彼女は唇を噛んだ、小さな傷は今までもそれなりにあった、だが目の前の鏡に映された自分の左半身は殆どが火傷の跡を残しており、世間一般では醜いといい、商品価値がないものとして扱われることを彼女は知っていた。
幼少期、品物として売られる中で少しでも傷のある者は道具のように扱われた、反対に美しければ美しいほど丁寧に大切に扱われて大人達は陶器人形を扱うようにしていたことを思い出す。

何年経とうがそれは消えない記憶であり、彼女は自分の身体を見る時"商品"にしかならなかった、手や指先は引き金を引く商品に変わっただけでそれ以外は買われることしか分からないものだった。
ジモの触れ方はいつも優しく、自分を大切にしてくれる者の触れ方だと彼女は理解していた、病院着のボタンを拙い指先で外して下着だけの素肌になっては彼女はシャワーを付けた。
自分の身体に触れればケロイドの肌が指先を撫でた、あれだけの装備でも爆発の際にはこんなにも火傷を負うとは思いもよらなかったと思いつつ肩から鎖骨、そして腹部を撫でては彼女は唇を噛み締めて下着を下ろしたものの狭い濡れた場所で彼女は足を取られた。

大きな音を立てた事にジモは慌ててシャワールームにいけば彼女が転がっておりジモは慌てて彼女に手を伸ばすものの、ふと彼女の身体をみた、左半身を覆うようなその赤いケロイドの肌と白い素肌が混じり合う肉体に彼は思わずその傷の酷さに目を奪われる。

「見ないで!」
「転けたんだろ、危ないから一度座って」
「いいから気にしないで」
「気にするだろ、お前怪我人なんだぞ」
「別に少し転んだだけなんだから放っておいてよ」
「フーファイのことを俺が放置出来るわけないだろ!」

互いに声を張上げた、互いに戦場以外でそんなに声を張り上げることが出来たのかと感じるほどでジモは濡れることも気にせずに彼女に手を伸ばそうとするが抵抗した彼女がジモの頬を振った。
シャワーの中の彼女は泣いているようで、苦しそうな声で「やめて」「もうほっといてよ」「みないで」と何度も呟いた。
ジモは彼女があまりにも哀れで愛おしくて堪らなかった、ギブスや縫い跡や火傷の跡の彼女が自分を拒絶するのはそれだけ自分を想うからだと理解してしまうのだ、そうでなければ彼女は他人をここまで拒絶することが無いと知っていたから。

「もう帰って」「嫌だ」
「離してよ」「無理だ」
「お願いだから」「聞けない」

お願いだから好きでいないで。
悲痛な彼女の声にジモは彼女の両肩を掴んで顔を見つめた、泣きじゃくった彼女の目は赤くなっており、ジモは彼女のシャワーの熱を帯びたその唇にキスをした。
筋肉が衰えてさらに柔らかな女性の肉体となった彼女に触れて、逃さぬように頬を両手で掴んで唇を重ねて何度も味わえば水と涙の味がした。
互いに呼吸が荒くなり、びしょ濡れのままみつめれば彼女の手が彼を押し返した。

「他の人を好きになって、私なんてもう想わないで、これじゃあもっと惨めになる」

ジモはゆらりと身体が揺れて後ろに下がってしまう、傷だらけの彼女は自分の身体を抱き締めてシャワールームの隅に移動した、完全なる拒絶を見せる姿にジモはそれ以上何も出来ず、ゆっくりと立ち上がりシャワールームから出て濡れたままの姿で病院を後にした、彼に出来ることなど何も無かったのだ。

「ごめんなさい」

チャイは泣いていた、ただ静かに時が過ぎて忘れてもらえることを祈りながら。


◇◆◇

あれから一ヶ月後、ジモは自身の携帯の着信音で起こされ寝ぼけ眼のまま相手を見ずに応答しては初めの声に相手はヒステリックに似た高い声でジモの耳を劈いた。
寝起きには頭を痛くする声だと彼は感じつつ半分寝ている頭のまま冷蔵庫に余っていたフルーツを適当にブレンダーの中に投げ入れてスイッチを入れると相手の声は多少にマシになった。

「わかってる、聞いてるって姉さんの出産祝いだろ、また送るよ」
『それはいいけど、あなたいい加減あのお嬢さんとはどうなったの?いい加減結婚も考えなきゃ』
「あの子って誰だよ」
『姉さんの結婚祝いくれた子よ、写真見せてくれた時に思ったけどかわいい子だし家庭的な感じだし同じ中国人なら大歓迎よ、いい加減あなたも結婚を視野に入れきゃ捨てられ⋯』

聞きたくない話題を今ここで出してくるのかとブレンダーの電源を切ってグラスに注いだジモは全く嫌になると感じた、今あなたの息子は彼女に拒絶されてしまったしそもそも付き合えてもなかったといえば母親は倒れるかもしれない。
昔から母親は定型的な母親で少し口煩く倹約家気味で医療事業者の娘と軍人の息子に鼻高々としていた、特段子供のパートナーについてのことは言わずとも三十路目前のジモに対して口うるさくなるのは仕方がない事だったのかもしれない。

丁度ジモの耳にタコができそうな頃合で彼の家のチャイムが鳴った、客人など珍しいと思いつつ言い訳にできるとジモは母親の電話を切って相手も確認せずにドアを開ければそこには見知った青年が立っていた。

「悪いなこんな部屋で」
「いえ、僕こそ突然出向いてしまい申し訳ないです」
「この家の事誰から?」
「姉さんの家で片付けをしてた時に」

青年はチャイの一番上の弟であるセイファイであった。
ジモは客人を上げるには随分と乱れた部屋であり慌てて片付けをするもののセイファイはジモに対してまずは顔を洗って着替えては?と告げるためジモは自分を見下ろしては下着姿な上に髭も剃っていない事に気付いては申し訳ないが言葉に甘えさせてもらうこととした。

チャイに拒絶された日からジモは暫く任務にも赴くことが出来ず、声がかかった任務も断って自宅で何も無い日々を送っていた、バスルームで髭を剃りつつ連日の酒のせいで顔が少し浮腫んでいると感じやってきた彼に何事なのかと考えねは服を着て部屋に戻れば青年は部屋を掃除してコンロに火をつけていた。

「なにしてるんだ」
「朝ごはんですよ、スムージーだけってダイエット中のOLじゃないんだから、飯くらいちゃんとしてください」
「いや⋯それに片付けも」
「酷い散らかりようだから机の上だけですよ、ほら窓開けて片付けててください」

俺の家なのにとジモは思いつつも世話焼きで少し強引な姿は彼の姉の姿にそっくりだと感じて言われるがままに部屋の片付けをして、出された朝食を食べきっては洗い物をして、お茶を飲む彼に結局なんの用事なのかと問いかけた。

「姉さんが入院になったのは先日聞いたばかりなんです」
「知らされてなかったのか」

濡れた手を拭いたジモは彼の向かい側に腰掛けて一息ついてお茶を飲んだ、久方ぶりに片付いた部屋は心地よいもので暫く随分とよくない環境だったと改めて感じられ、彼自身がここまで気が滅入ったことは初めてでありどうしよう無いものだった。
セイファイが来た理由は姉に関することであるだろうがジモは彼女から面会謝絶を食らっておりもう二度と会えないだろうと考えていた為、彼が望む答えはここには無いと先に告げるものの彼はその事ではないとしていた。

「姉さんと電話で話しててジモさんにこれを渡せと」

そう言って彼は分厚い封筒を差し出し、ジモは中身を見たあと目の前の彼を見つめた、そこには大金とも言える金額のドル札が入っており、目を見開いた、それはまるだ手切れ金のようであるが目の前の青年もそう察しておりジモは顔を俯かせてそこまでして彼女は自分との関係を切りたいのかと思えては悲しみは胸を貫いた。

けれどジモはその金を彼の前に返しては受け取れないが彼女にはそんな物がなくてももう二度と顔を見せないと伝えて欲しいと彼に告げたがセイファイはジモの言葉も、ましてや姉の言葉も聞くつもりはなかった。

「これは姉曰く棚の代金だそうです、棚は返せないからせめてお金をと」
「別に望んでいない、この金は君たちのものだ、チャイにもそういってくれ」
「自分で言ってくださいよ、巻き込まないでください」

セイファイの冷たい言葉にジモは苛立ちを感じた、愛した女にこんな拒絶をされて尚もまだノコノコと顔を合わせろというのは酷であり、それで彼女の状況も知らない彼が勝手を言わないで欲しいと大人気なく思い封筒を押し付けるが彼はその封筒を払い除けた。

「貴方が姉さんを愛してないなら、そうしたらいいだろ!愛してるなら向き合えばいいだろ!」
「向き合った!向き合ったから拒絶されたんだよ、ガキのお前に何がわかるんだ」
「分からないですよ」

ジモは思わず彼の整ったシャツの襟首を掴んでは唾を飛ばしては怒鳴りつけた、しかしジモの態度に彼は決して怯まずに睨み返しては静かに分からないと告げた。
わかるわけがなかった、全ての罪と苦労と悲しみを背負い続け一度も家族に見てくれなかった彼女が何を考えているかなど、弟である彼には理解できるわけが無かったのだ。
子供だけでの生活もそれなりの苦労があっても彼女一人で背負わずともやって来れたはずだった、けれど彼女は弟達を置いて一人で突き進み続けた、連絡が来たのも数ヶ月目にしてようやくであり、ある日普段よりも数倍の金額が振り込まれ『暫く仕送りができない、ごめんなさい』というメールだけが届いたのである。

姉がどこで働いているのか何をしているのか詳細を教えられてこなかった彼は家まで来て漸くしっぽを掴み、そしてジモを尋ねてきた。
それはジモがチャイにとっての唯一の特別であるからで、彼女は守りたいものや大切な人ほど自分から離れようとしてしまう傾向があった、それは自分が傷つかないようにするからであり、いつもそれがずるいと思った、しかし守られている側である彼らは何も言えないがジモは彼女を守る術を知っていた、だからこそ違う道を進むようにいうのだ。

「姉さんは貴方が好きなんです」

そんなことは言われずともジモも理解していた、彼を見る彼女の眼は人を愛する人のモノであり、彼女は真っ直ぐとした瞳で包み隠さずに想いをさらけ出す、彼女がジモを拒絶するのは彼女は自分ではジモを幸せにできないからだと理解しており、少しでも幸せに生きて欲しいと願っていたからだ。

力なくカーペットを見つめるジモにセイファイは別の小さな封筒と連絡先を置いていった、退院の日に迎えに行けと告げて。

その強さが羨ましくてたまらず、彼はベッドの上で横になりスマホを開いた、ロック画面には彼女が撮ったいつかの景色の写真で、彼女がみた景色を見ることをジモは好きだ、世界が何処までも輝いて見えて、それはきっと彼女の目を通してみる世界だからだった。
瞼を閉じると彼女が笑っていた、変わらない姿で。

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