「本当ですか!是非…えぇ、楽しみにしています」
妹の久美がえらく声高に話をしている、表情から見て予想するに相手は幕之内一歩だろうと察した
また懲りずにあの野郎はデートの誘いをしたのかと察し、念の為にデートの時間や場所を聞くも当然言いはしない、嬉しそうに明日へ向けてのデート服を考える妹に思わず舌打ちをする、あんな男の何がいいんだ
腕っ節は認めなくはねぇ、だが性格はおどおどしく、普段の姿なんて到底貧弱だ、何がそこまであいつを駆り立てるんだ…そう兄である了は思いながら目を閉じた
「え…えぇ、よかったら…はい!」
お兄ちゃんがえらく声高に話をしている、数分前に顔を真っ赤にして何度も深呼吸をして「デートに誘うぞ」と小声で言っていたお兄ちゃんをみて、お母さんと梅沢くんは「またあの子かしら?」なんてのほほんと言っている、え!?もしかして私だけお兄ちゃんの彼女を知らないの…なんてお兄ちゃんとは仲良しな筈なのに脅威の事実に少しだけ悲しくなる、電話を切り終えたお兄ちゃんは小さくガッツポーズをして部屋に上がっていった多分明日のデート服を考えるんだろうな
そうだ、明日私も見に行けばいいんだと思いついたら少し探偵気分になって浮かれるお母さんには休みを貰ったしバイト代(お小遣い)もあるし、よーし明日は探偵だ!
いつも通りのロードワークをこなして帰宅後シャワーを浴びて今にも鼻歌を歌い出しそうな一歩を横目にたづなは準備をした
キャスケットを深めに被って伊達メガネをかける、服装はシンプルにシャツとジーパン、これならバレないと先に家を出る兄をみたあとたづなはコソコソと家を出た
10:30、駅前でソワソワと落ち着きのない兄をみつめる、やはり彼女を待たせることは無いタイプだと小さくガッツポーズをして+10点なんて内心点数を付ける、15分ほど経てば突如とてつもないかわいい女性が近付いていた
「幕之内さん!」
「クミさん」
2人は軽く挨拶をして歩き出す、なんだかすごくお似合いだ
あんなに綺麗で可愛い人とお兄ちゃんが付き合うなんて知らなかった…というか内緒にされていたのは少し寂しい、いつ頃から付き合ってるのかな?ていうか手を繋がないんだ、大人っぽい
なんてふと思ってみていたら手が少し重なるだけで2人は少し恥ずかしそうな顔をしていた、なんだか凄く初心だが見守りたくなるな…と感じながら歩き出した時だ、ふと隣のお兄さんも歩き出す、怖いけど行く道が一緒なら仕方がないよね、にしてもこの人すごく2人を睨んでる、イチャついてないしいいじゃん。と思って見つめれば一瞬目があってしまい慌てて逸らした、怖かったぁ…
「これ見たいって言ってたのでチケット買って来てるんで、どうですか?」
「覚えててくれたんですね、嬉しいです」
「いやぁ僕映画なんて数年ぶりだからドキドキします」
「私も男性となんて初めてです」
駅前からすぐの映画館に着いた2人は雑談をしながらポップコーンやドリンクを買い始めていた、バレないように近付いて通り際にみた映画のタイトルと時間と座席をみて、真後ろの席を取る
どうやら先程の怖い顔の人も映画を見に来ただけのようだ、なんだー、よかった
よくないよ!え?これラブロマンスだよね?こんな怖い顔のお兄さんもみるの??え、いや見るのかな?
時間になり暗くなったタイミングで席に着こうとすれば隣の席には件のお兄さんがいた、こんなに被ることがあるのかと思いつつ席に座り映画を真剣に見ていれば思っている以上に泣けてしまいグズグズと鼻を鳴らしていれば隣からティッシュが差し出される、あっこの人いい人だ
「あ"り"か"と"う"こ"さ"い"ま"す"」
幕之内とデートがあるってからにいつもよりロードワークを早めにやって、ついて行っていれば妙なガキと顔を合わせた
小学生か中学生くらいのガキはえらくあの二人を見ていた、時に嬉しそうに時にハラハラとなんだかまるで恋愛映画を見てるガキだ
気付けば映画を見るなんざ言い出した2人に仕方なくチケットを買ってま後ろの席につけばまたガキがいやがる、変なことをしねぇか前の二人を見ているつもりがガキはえらく映画に泣いてやがったから仕方なくティッシュを差し出せば嬉しそうに受けとった、全くよく分からねぇ
「すごく良かったですね」
「はい、私も最後の方泣いちゃいました」
「僕もです、あっ…よかったらお昼ご飯行きませんか」
「いいですね、この間美味しいカフェ見つけたんですでそちらでどうですか?」
2人が少しだけ目を赤くして歩いていくのをたづなと間柴は追いかける、2人とも同じ場所によく行くなとは思うものの気にしないように歩き出す
気付けば映画館のすぐ下のレストラン街の一角にあるカフェに入っていき、2人は奥の席に座ったのが見えた、後を追う2人は同時に入れば店員が声をかける
「いらっしゃいませおふたり様ですか?」
「違う」「違います」
「ただいま満席でしてご案内できるのが1席となります、相席でもよろしければ直ぐにおふたり様をご案内できますが」
「「…」」
どうしてこうなったのだろうか、目の前に座るすごく怖いお兄さんはコーヒーを頼んで少し離れたお兄ちゃんの座る席を見つめていた、もっもしかしてお兄ちゃんの彼女さんのストーカーとか?そうなれば私がどうにか止めなきゃ2人の幸せは私が守るんだ
そう思いつつもたづなはとうの兄とその彼女を見ておらずカフェのメニューを睨みつけていた、お昼ご飯をガッツリ食べようかな、でもデザート美味しそうだしと呟いて結局悩みの末、ハンバーグランチを頼んだ、そしてそれが待つまでの間目の前にいる男に恐る恐る声をかけた
「あ、あの…」
「…なんだよ」
「だ、誰か追いかけてるんですか?」
「テメェに関係ねぇだろ」
「関係あります、お兄ちゃんとその彼女さんに危害を加えるなら私許しません」
「兄貴?彼女?」
目の前のガキの言葉にどういうことだと思い珈琲を飲みながら見つめた、真っ黒な髪は少しくせっ毛でふわふわとしている、その反面大きくクリクリとした目は小動物のようだが何処と無く強気だ、小さな身体とは不釣り合いの女のモノがある、全てがどこか似ていると思ってガキの視線の先を見れば幕之内と久美がいる
「兄貴ってのは…あいつか」
「はっはい、そうです」
「オレは妹が変なことされないか見に来てんだよ」
妹?妹……え、あの彼女さんのお兄さん
思わず2人を何度も見比べる、失礼だけど似ていない、思わず間抜けに口を開けて見ていれば店員さんがハンバーグランチを持ってきた、ジュウジュウと音を立てるハンバーグは酷く美味しそうでそんな驚きよりも食欲に全てが移動してしまい食べ始める
「妹さん綺麗ですもんね」
「お前はなんで兄貴のこと付け回してるんだ」
口いっぱいに頬張る姿はまるでハムスターかなにかのようだ、彼女の食べ方は丁寧だが豪快でえらく食欲をそそられた、カトラリーケースにある箸を取り出して彼女のさらに盛られたエビフライをひとつ食べるが彼女は少し驚いた顔をしたあと特に文句も言わず飲み込んだ
「お兄ちゃんに彼女がいるって知らなくて、気になったんです」
「彼女じゃねぇよ」
「じゃあ女の子のお友達」
「そんなに気になるもんか?まぁアイツが女といるところなんざ想像つかねぇがな」
「でしょ?気の弱い人だからグイグイ来てくれる人じゃないと多分あんまりダメなんですよね、それもあの人のこと私だけ知らなかったみたいですし」
全て食べ終えたらしい少女はご馳走様でした、と告げるものの目線はメニュー表のデザートをみつめているがえらく頭を抱えていた
女子供の考えることは大抵一緒で太るだとかそういうことだろう、よく自分の妹もそんなくだらないことで悩んでいたと思い返し声をかける
「食いてぇもん食えばいいだろうが、悩むなら半分食ってやろうか」
「甘いもの食べれますか?」
「得意じゃねぇけどな」
「じゃあこのコーヒーパフェだったら食べれますかね」
「食いてぇのか?」
「ほ、本当はストロベリーガトーショコラパフェがいいんですけど」
「太る…か」
思わずそう呟けば彼女は酷く眉を下げた、失礼ながら体をじっくり見るが決して太っている訳では無いが出るとこが出ているために太って思えてしまうのだろう
「それもですけど…お、お小遣いそんな持ってきてなくて」
家の手伝いをしているからそれなりにはバイト代として貰ってはいるものの今日はそこまで持ってきていない、映画を見てお昼を食べれば少し財布も細くなっているほどだ、恥ずかしそうな彼女に小さく溜息をこぼし呼び鈴を押して注文をする
ふと奥の2人もデザートを頼んでいるのが見えたからコーヒーだけじゃ時間が足りないと思っただけだ
「奢ってやる」
「えぇっでも申し訳ないです」
「ガキは大人に従ってろ」
「高校生だから子供じゃないです」
「…だとしてもガキだ」
高校生にはどう足掻いても見えないと思ったがそこじゃないかと思い直して伝票を自分のそばに置いた間柴はやってきたパフェをたづなの手元に置いてやる
嬉しそうに輝く瞳は小さな頃の妹を彷彿とさせた、気分は悪くない
「お兄さん良かったら食べてください」
「お前の兄貴じゃねぇよ」
「名前知らないから…あっ、私は幕之内たづなです」
「間柴了だ」
いちごの刺さったフォークが間柴に向けられ断ることも出来ずに黙って口に含んだ時だった、2人の席の横に男女が足を止めて見下ろしていた、恐る恐る見上げればそこにはあまりにも例え難い顔をした一歩と久美が居り小さな騒動となったのだった
あれから半年
たづなと間柴は時折会う仲になった、主な内容はいつも通り兄妹の尾行なのだが意外と普通のデートができるためかたづなは楽しんだ
あの日は結局食事代を全て間柴が出してしまい、その後は兄妹同士の会議が始まった間柴家はいつものことではあるが幕之内家は初のことでありそれはもう大騒動になった
「間柴さんこんにちは、お待たせしました」
「待ってねぇよ、いくぞ」
「はいっ」
その日は2人だけで出掛けることになっていた、間柴は意外と洋服が好きらしく様々なブランドを見に行くことがありたづなもそれに付き添った、服の趣味は違えど服本来が好きな彼女にとってはメンズ服は新鮮で特に間柴のような服を着ているタイプが周りにいないためか楽しかった
そしてなにより、2人で出かけること即ちデートというのが嬉しかったのだ、買い物をして食事をしてといういつも通りの変わらないものだがそれが何より良かった、あれ以降兄の恋人(ではない)の久美とは親しくなり「義姉さんって呼んでもらってもいいの」と強く言われるほどになりたづなは嬉しくなった
間柴は思っているよりもずっと優しかった
「濡れるからもう少しこっちに寄れ」
「あっ、はい」
生憎の雨だと思ったが2人で傘を開いて歩くのは邪魔だといい、間柴の大きな傘の中に2人で入り歩き出す、濡れないようにしっかりと肩を抱かれることさえ胸が高鳴る
自然と車道側を歩くところも、少し香るメンズ香水の匂いも、全てがたづなにとってはただの兄の恋人の兄とは思えずにいてしまった
「そういえば髪の毛いつもよりうねってますね」
「あぁ雨だからな」
「私も雨の日は湿気で膨らんじゃうんですよね」
「…確かにな」
カフェにお茶をしている際にたづながそういえば間柴は彼女と自分の髪を触れて確かめた、彼は気だるい雰囲気を出しているがいつだってたづなの話をしっかり聞いてくれる
女性に優しいのか年下の優しいのか分かりはしないが嬉しかった、そしてこれが恋心だとたづなは知っていた
「送っていく」
短い言葉に頷いて止んでしまった雨が恋しくなるほど距離は離れてしまう、長い足は小さなたづなに歩幅を合わせる、手を繋ぐことはなく寂しいと思わずたづなはみつめていればふと手を取られる
「そんなに熱っぽい目でみてんじゃねぇよ」
「み、みてませんよ」
「ならやめるか?」
「このままが、いいです」
彼の骨ばった大きな手に包まれてたづなは左手に持ったカバンに力を入れる、少しだけ前を行く彼の背中を見て小さく呟いた
「好きだなぁ」
ハッとして思わず顔を見上げても彼は何も言わずにいた、聞こえていなかったのだろうと安心をしてゆっくりと聞こえる波の音と近付く家、離れたくないとは言えずに手が離されてしまいいつも通り感謝を伝えようとした時だった
「オレも同じ気持ちだ、じゃあな」
それだけ言い残して行ってしまう彼にたづなは間を置いてからその背中に飛びついた
「そ、それってそのさっきの私の言葉に対してですか?」
「…どれだ?」
「それはその」
「教えろよ、オレは分からねぇぞ」
知っているはずなのに彼は意地悪な顔をして覗き込んでみていた、いつものお兄さんらしい年上の顔では無い、少し意地悪なような顔をしていて胸がときめく
「す、好きって」
そう呟けば彼の腰が曲がって顔が近付き唇に柔らかい感触と温もりが残される、思わず見上げれば彼はいつも通りの顔で頭を優しく撫でる
「オレもだ」
お兄ちゃんと久美さんへ
私たちはあなたたちより先に進んでしまうようです、と心の中で呟いて了さんの首元を掴んで背伸びをしてキスをする
だからどうか2人もそろそろ恋人になってください、じゃなきゃデートの9割は2人の尾行になっちゃうから。
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