第四話


志村との密会に近い話を終えて帰宅した恵はすぐに資料の状況整理をする。どこが関わったのか、どこで今回の事態が発生しているのか、関係者や内容すべてをわかる範囲で調べても自宅だけでは限界があると悟り、帰宅後すぐの確認はあまり進むことはなかったが、その代わりに恵は寝る間も惜しんでパソコンを睨みつける様に仕事をした。夜中に飲むような量じゃないコーヒーを何杯も飲んで、周囲には自分の仕事関係の資料や本が積まれており。恵は髪をひとまとめにして仕事用の眼鏡をかけて懸命に仕事をして、朝に近くなるとようやくひと段落させて眠りについて、昼頃に目覚めると出社した。

「部長こちら頼まれていた依頼のものです、しばらく別件で忙しくなりますが修正など必要な場合はメールでご連絡をいただけますでしょうか」

意匠デザイナー室の総まとめとなる戦略デザイン部の部長に恵は昨日一晩かけて作った、直近で頼まれていた仕事を手渡すと部長は驚きつつも頷いた。営業には自分から言うため問題はないという彼女になにかあったのかと問いかけると恵は「至急で入った件で忙しいだけです」というため、意匠デザイナー室のメンバーであるから仕方ないかと思いつつ部長は差し出された彼女からのデザイン案を受けては苦笑いをする。あんな態度を取られれば普通は文句の一つでもいいたくなるのだが、それを黙らせる腕があるのも事実で、それが個別でも戦えるデザイナーかと自分の部下でもあり、チームとして働くデザインチームとの違いを感じつつも、それとは別に恵がこの一年誠実な働きをする人だと理解していたため、どんな理由であれどもいいかと静かに言い聞かせるのだった。

仁が社内にいないことを知ったのは五階のフロアに赴き、一課のホワイトボードを見た時だった。別の部下と共にクライアントへ挨拶にいっているのだと説明された恵は当然仁からこのことを聞いても答えてもらえるはずもないかと思い考える。
先ほど自身の部長に提出したものについての説明をしなければと複数人の担当営業者に案内をして、修正や不明点、そのほか気になるものがある場合はメールをしてもらうこと、どうしてもデザイナー同伴が必要な場合は予定を調整するが今週来週は厳しい可能性があると親切丁寧に伝えると営業は全員恵と入念な打ち合わせをしていたため、問題はなさそうだが万が一があればと承知してくれた。
恵は誰か今回の件を知ってそうな一課のメンバーはいないだろうかと思う中、一人の青年をみた。視界に入ったのは二十八歳の人事部安達部長の息子、安達繁成だった。彼のことは恵も何度か仕事の兼ね合いで関わったことがあり。仁が目にかけている若者だった。仁とは少し異なるが誠実で真面目そうな青年で、名門大学出身の家柄も人柄もよくできた真っすぐな人であり。仁が飲みいった際によく褒めていた。
そして今回の件は一課として確か関わっていたことを思い出し、恵はどこかに行こうとする彼に慌てて声をかけると、彼は目を丸くするが、恵は周囲の目を気にして悩んだ後、デザインの話で相談事があって、というと繁成は自分が担当ではないはずだというが、境井さんという名前を出せば彼はすぐに二つ返事をくれる。周囲も現在仁が携わっていた案件を巻き取ることに時間を取られているがその量が多いため、完璧には把握しきれていない部分があるので恵が声をかけることに違和感を抱かなかった。人に聞かれるのはという彼女に繁成は昼下がりのため十一階の食堂で話そうといって、二人は人のいない場所に来ると窓際の四名掛けのソファ席に座った。

「それで相談事って」
「安達さんですから単刀直入に言います、境井さんの件って何か知っていますか?」

繁成は恵から仁の話を直接聞かれるとは思っていなかったのか驚いた様子だった。
だがしかし、繁成は以前から二人が恋人関係であることを知っていたため、反対に恵はそれまでなにも知らないことにも驚いた。それと同時に仁だから言わなかったかもしれないと納得した。彼は二人の関係の現状を知らなかった。
しかし彼女はそんなことを気にせず、現状自分が聞いた話と仁のこれからの不安を話した。繁成自身も仁の身を案じていたが動けなかった。それは仁が止めたからだった。もし彼が動けば彼もまた巻き込まれてしまうことになり、仁はそんなことを望まない。

「初めに数字がおかしいことに気付いたのは僕でした...数字には強い方で、あきらかに合わないことが起きて、境井主任に確認していただいたんですが、主任は部長に話すといって、翌日に全権を主任に任せるといわれました」

正直なところ一課は困惑した。しかし課長も部長がいうのなら仕方ないといつものような態度で話を流し、そこから仁が主体になって書類手続きなどが進むことになるが、仁の指示とは全く違うことが起きはじめ、現場はどういうことかとなっていたが、次第に一課の内容を何故か他の課が担当するようになった。

「担当は四課と三課などでした、狭間さんはご存じないかもしれませんが、うちにも派閥というものがあります」

繁成は席に座る前に恵に差し出されたコーヒーを飲みながら会社の話をした。そもそも志村建設は対馬で大地主である志村家が身内経営で始めた建設会社が大きくなったものだという。現在はそれが大きくなり本土で...という形だが、役員や上層部は志村と長い付き合いの者ばかりであり、外から来た連中も増えたがいい顔をしていなかった。部長もその一人であり、特に仁のことをあまりよく思っていないように感じると繁成は個人的な感想だと付け加えつつ話した。

「それで気付けばわけのわからない請求書だとか、承認印の押されたものが出ていて、主任にお伝えしても自分がどうにかするの一点張りで」
「部長に直接抗議は」
「一応言いに行きました、ですがあの人は『境井君の判断だからな』という始末で、実際本件はそれで承認が下ろされている以上、どうしようもなかったんです」

それに自分も人事部に父を持っているのもあり、あの人に嫌われていると苦笑いをすることに恵はどうもいえない気持ちを抱いた。この会社に来ている人たちは確かに血縁が多いかもしれないがコネ入社はないことを知っていた。志村はそんなことを許さない。実際に安達にはもう一人息子がいるが、もう一人は別の会社に就職していたし、他の者たちもそうだった。偶然仁や繁成がいるだけのことだが、それが気に入らないのだろう。しかし優秀だと認められているからこそ営業一課という前線に立たせているはずで、それが気に入らないだなんてと恵は奥歯を噛む。

「営業部にも境井主任を嫌うメンバーはいます」
「さっき言ってた部長の息が掛かってる人たちですね」
「もちろんみんながそうじゃないです、ボーナス査定や昇進などはすべて部長次第なところもあります」

もちろんあからさまなことは出来ないが影響は大きく、それを気にする人たちは指示に従うしかなくなる。別に何課だからといって上下はないが、係長などによりけりであり、上司に逆らえない部下たちはその指示に従うほかない。

「主任のPCが操作されていたりっていうのも、多分その人たちかもですし」

営業部は残業も多いので仁より遅く残っていても違和感はない。パソコンの持ち出しは基本禁じられているうえ、IDやパスワードについては個別でも仁は忘れた時用などにデスクに置いていることを繁成も知っている。
プライベート用であればもっとセキュリティを気にしろともいえるが仕事だ、社内のみの使用かつ、必要であれば部下になにかしらを頼むこともあるだろう、メールアカウントについてはログアウトをすることなど滅多にないためPCさえ開いてしまえば何とでもなる。

「自分がもっと力があれば、どうにかできたんですが」
「安達さんの責任ではありません、会社というものは難しいものです」

年功序列の縦社会、みんな生きていく中で迫られる選択肢などもある中で、それらを盾に取る相手が卑怯なのだと恵は常々感じる。立場があるから守られるのだとしたら、社長の甥だというのに守られない仁は...と恵は感じる。結局は他人が人を貶したい時の言い訳だろうと思いつつ、自身もコーヒーを飲み干して貴重な時間を取らせたといい解散しようとするが繁成は卑怯だとわかっているが部長も色々と噂が流れている...と告げた。
恵は繁成がそうした話をしたくないことを理解したが、それでも彼なりに何かの力になれるかもしれないと思ったようで伝えてくれたことに強く感謝してその場を後にした。

噂というのはよくある話だと思いつつも、恵は周囲に話を聞いていく中でどうやらそれが本物らしいことを確信し始めた。
それはよくあるゴシップ内容で、営業部長がクライアントの妻と不倫していることや、別の会社とも裏で闇取引をしているということ、さらにいくつか仁名義で同じように架空請求などをひそかにしているということだった。

「部長ですか?嫌いですよ、あの人べたべたしてくるし」
「確か去年それで新卒の子に訴えられてましたよ」
「狭間さんもされたんですか?」

恵は偶然を装って混雑する時間に社員食堂に行った際に、混雑しているところに申し訳ないがといって事務の女性たちの席にお邪魔させてもらった、彼女たちとは以前から話す機会もあり。恵も流行りのものやかわいいものが好きであるため、そうした話などを時々していたのだが、その中で「...営業部長さんなんですけど」と重たい表情でつぶやいた。それだけで何かを言うわけじゃないが雰囲気とは大事なものだ、怒られたときに反省した顔をするようなものだ。恵も純粋な人間ではない。社会人として十年近くは社会にいる以上は人間の醜さというのも多少理解している。
お話好きで噂好きの彼女たちは次々と部長の噂話や恵が知る前のことを教えてくれた。

「いえ...そういうわけじゃないんですけど」

心配してくれる彼女たちに恵は誤魔化しつつも、営業部長の悪口大会へと発展したため、恵はそれがすべて事実ではないとわかっていてもしっかりと聞いた。
そして夜二十二時頃、社内は恵と警備員以外いないといってもいいほどだった、恵は警備員に挨拶をして、仕事の納期が明日で営業部に資料を届けて帰るので、戸締りはこちらですると告げると警備員は彼女に任せてくれた、老齢の警備員だがよく遅くなる恵のことを知っていたため不信感を抱くことはなかった。
恵は人のいない都市開発営業部のフロアに足を踏み入れて仁のデスクに到着するとパソコンを起動した。他の人たち同様パスワードはモニターの下部に付箋で貼られており、入力すると簡単に開かれ、そこからメールサーバーを開く。今回の役員会議や聴取などの資料でいくつもみてきていた恵はスマホを開いてそこに書かれた通りに操作を進めていく。
いつ誰が何時にどのように仁のメールを触ったのかと確認していく、表面上だけの内容から徐々に紐解くように追っていくと、やはりその根本に隠れた犯人が見えていく。

「にしても、こんなことができるって、巴さんってどんなお友達がいるんだろ」

恵のスマホには巴から紹介された相手とのやり取りだった、仁名義でいじられたメールなどの詳細は役員たちはみていなかったため、そこの裏どりをしたかったのだが、専門知識のない彼女は巴に相談してみたところ、若い頃に仲良くしていた連中が詳しいといわれたのだが、本当に自分がこんな真似をできるとはと驚いた。
時刻は深夜を回っていたが、恵は完全に誰も会社にいないことを悟り、フロアの奥にある部長のデスクに近づいた。こんなことをするのは仁は望まないと理解している。もし知られれば彼は自分を軽蔑するかもしれない。彼だけではない。それでも恵はいいと思った。自分がどうなろうとも仁だけはと思う。
ただ好きだという思いだけで行動できてしまうのはなぜなのかと恵は考える。

近頃夢をみることがある。
それは一人の男が寂しそうに人々のために対馬で奮闘する姿だった、武士であったであろう男は武士でもなく、次第に“冥人”と呼ばれ、人に恐れられる冥府の遣いだとされた。人々の怨念を抱きし存在だと。
なのにその背中はあまりにも悲しく、その背中を見るたびに恵は抱きしめたいと思った、あなたは一人ではないと伝えたかった。
冥人と呼ばれた黒い面をつけた男は夢の中で恵の一歩先をいつも歩いたり、馬に乗せてくれて、それを優しく引いてくれること、戦火も自然もどんな姿も見ていた気がしたのに、男はやはり一人で消えてしまいそうな危うさを持っており、恵は目を覚ますと泣きたい気持ちになってしまう。

部長のパソコンを起動して、恵は一本のUSBを差し込んだ、それは件の巴の友人からもらったもので、スマホの指示通りにコピーを始めた。これがどうなるのかはわからない、実際見られる中身はメールなどのありきたりなものだったため、コピーが完了すると同時に恵は誰もいないことにほっと胸を撫で下ろした。
時計をみれば時刻はもう深夜二時頃で、随分と時間がかかったと思いつつ、自宅に帰るにも電車は終電を過ぎており、タクシーも呼べないかと思い、仕方なく五階のフロアをちゃんと確認して締めて、九階まで階段であがり、自分のテリトリーとなるオフィスに戻った。あれだけ残っていた段ボールは片付いて、しっかりと恵の場所だというようになっていた。

深夜で悪いと思いつつ、巴の友人に部長のパソコンのコピーもすべて取れたことを報告すると、先方から恵さえ問題なければ次の段階に進められるといわれ、彼女はくたびれていたが、すぐにアドレナリンが出たような顔をして、通話を繋いでは指示されるがまま自分の個人パソコンを取り出して、通話を繋ぎ操作を始める。巴の友人はどうやら男性の上に日本人ではなかったようで、驚くが学生時代にモンゴルから来た留学生だったらしく、機械関係に強いのだというが巴とどこで知り合ったのだと聞くと濁されたため、あまり聞くのはやめておこうと恵はやめた。

「はぁ...噂も馬鹿にならないなぁ」

一時間ほどですべてのデータを閲覧可能にしてもらった恵はそこに秘められていた写真ファイルを閉じた。相手もビデオ通話などで教えてくれていたため、その内容に失笑した。部長のデータに関しては別の営業から秘密の写真をパソコンに入れているという話を聞いていたが大当たりで、その他の会社以外のアドレスなども会社PCに入れていたようで、プライベートは筒抜けで、さらにそこから電話番号など個人情報をもとに知っていく部長の顔に流石に申し訳なさを感じつつも、仁が受けていることはこれ以上だと思いつつ、通話を終えて、すべてしっかりと証拠を押さえるころには朝になっていた。

長い朝だと思うがまだまだやらなければならないことがあると思い、恵は瞼を閉じてデスクで眠りについた。
起きると既に出社している人たちが見受けられ、泊まり込みだったのかと恵に笑ったため、彼女は苦笑いをする頃、一通のメールが来ていた。それは営業一課の安達繁成からで、彼女は顔色を変えるなり、一旦帰りますと告げて慌てて自宅に帰った。

電車に乗るとき、会社と違う方向を進む電車は、反対に会社に向かう方面の電車とすれ違った。恵は寝ないように立っていたが、通り過ぎる向かいの電車に仁が見えた、気のせいかもしれないがいつもと変わらないようだが、その一瞬で彼がかつての疲れ切った自分だとわかった。全てを諦めつつある意味覚悟を決めた顔、早くしようと決めて、自宅に戻りシャワーを浴びて身だしなみを整える。
近頃はめっきり私服だったが、久しぶりにスーツをしっかりと着て、メイクをして髪を整えて、身だしなみを整えなおすと帰ってきたとき同様にカバンを手にして、タクシーに乗り込んで行く先を伝える。

「鑓川技建ビルへ」

家からタクシーで一時間弱ほど、恵は辿り着いた鑓川技建の事務所となるビルに辿り着いて志村建設の名を告げるとすぐに応接室に通された
ビルは築年数が長そうだが、しっかりとしており、恵はひそかに外装も内装もこだわりぬかれたところや、細かな技術面に流石鑓川技建だと感じた。志村建設や他社の下請けがメインの鑓川技建と恵は直接会ったことや話したことはなかった。
そのため緊張感があったが、すぐにやってきたのは一人の男性、鑓川技建の社長である鑓川氏政だった。鑓川は志村建設というだけで今回の件だと理解しており、その担当者が誰であり直接話すのは自分だと対応していた。

「鑓川社長、本日はお時間をいただきありがとうございます」
「営業の安達さんからだと聞いてる、それで今日はなにを聞きに来たんでしょうか」

恵は頭を下げて名刺は出さなかった、もう彼もうんざりしているのは目に見えてわかる。連日の仁のことについて、証言もさせられた彼は心身共に疲れ切っていた。どちらかといえば、心が特に疲れているように見えて、恵は座るように告げられて腰を下ろすと、秘書がお茶を置いてすぐにその場を後にするのを見届けた恵は、まず営業の安達からのメールに一部嘘をついたことを謝罪した。鑓川と話したかったが意匠デザイナーの彼女が突然声をかけても受けてもらえないことをわかっていたため、境井の件で志村建設の狭間が伺います。という連絡をいれたのだが、嘘はないものの彼女は今回の件では正確には完全な部外者でもあるといった。

「じゃあなんですか、あなたはなぜここへ来たんですか」
「境井さんのためです、あの人はこの会社や部下たちのために全責任を負うと役員会議で告げました、解雇になるのも免れないかと」
「そうですか、ですが私たちにはできることはありません」
「あります、証言してくれれば、証言ではなくていいんです、なにか認めたり、境井さんがしていないという証拠をくれれば」
「そういう単純な話ではないんですよ」

デザイナーごときじゃわからないでしょう、と鑓川は話を切った。彼らも仁のことで苦しんでいるのは恵もわかっている。彼らの苦しみはわかっているが恵は彼らが少しでも声を出してくれれば状況は大きく変わると信じていた。だからこそ、カバンの中をひっくり返すように彼女は資料をいくつも出して鑓川にみせた。
そして立ち上がり、頭を深く下げた、まるで土下座でもするのではないかと思うほどの勢いだった。

「お願いします!証拠は揃っています。鑓川さんが悪くなるようには絶対にしません、今回の件に関しても営業部長からの指示だと知っています、だけど」
「ちょっと待ってくれ、そんなの言われても...」

押し付けられるように渡された証拠の数々は部長がおおもとのクライアントの一人と手を組んでおり、そこに計画的に鑓川技建と仁を巻き込んでいるということだった。それでも今ここで自分がしてしまえば会社がどうなるのかと考えるが、目の前の名前は昔の仁のように深々と頭を下げていた。

「境井さんを...助けてください...」

切実な声にここまですることは単純な会社の関係でもなければ、恋人という関係だけにしてはあまりにも深いと思った。鑓川とて妻がいる。妻もまた恵のように自分と共にどこまでも進んでくれるような女であり。彼はもう一度しっかりと恵の提示した書類をみた。

「本当にこれで境井主任を助けられるのか?」
「はい、必ず助けます」

いくつもの証拠となる資料をすべてみせる恵の真剣な表情に鑓川は彼女に託そうと決めた。仮に会社が傾いても仁を裏切る方が今はもうつらいと感じられたから。
そして希望を小さく得た彼女の横顔をみた鑓川は問いかける。

「どうしてここまでするんですか」

それに対して恵は当たり前のように答える。

「わかりません、ですが、彼のためなら、私はどんなことでもしたいと思います」

例え彼が自分を見る先に別の誰かを映していても、それだけは間違いない思いだからと恵はいった。鑓川は何も言わずにこれからどうするのかと話をしていき、二人は仁を守るために話を進めるのだった。