あれから地球はとても大きな被害に遭ったもののトランスフォーマー達の力も借りてはやい復興作業より随分と元の形に戻っていた
デストロン軍を抜け地球にて生活をする恐竜戦隊と彼女、とはいえ生活は少しだけ離れるようにはなってしまいカクリュウに至っては遊園地での勤務となり完全に抜けてしまい残された恐竜戦隊の面々はゴウリュウを親方に建設業を営んでいた、元より力仕事は得意な上にそれなりに器用な彼らの仕事は上場で世界各地から仕事を受けては仕事をこなす日々である
彼女はといえば元より持っていた医師として本業を再会したもののトランスフォーマーを相手したせいもあり人間よりも機械に詳しくなっていたようでその腕を買われサイバトロンの医師として雇われた
「って言っても平和になっちゃったから仕事がないのが困りもの」
深い為息を吐きながら医師としての仕事はなくとも健康診断やらカルテの確認やら様々な仕事が残された彼女は本来暇ではないはずだが何処と無くつまらないと手に持っていたボールペンをクルクルと回しつつ夕飯を考えた
ゴウリュウがしている建設会社の事務員として傍に居たかったが彼は人にはそれぞれの役割があるのだからダメだと拒絶されてしまった為彼女は少しばかり寂しく感じる、以前であればほとんど彼と過ごしていた時間も今では全く異なる地球を担当するサイバトロンの面々とばかり顔を合わせていた、おまけに会議やら他の地区への手伝いなどで宇宙への出張も多く案外人使いは荒いのだと感じる
だがしかしどれだけ忙しくとも地球にいる間だけは必ずお昼になれば彼女は小型船に乗り込み走り出す、忘れてはならないのはランチボックスだ
「おし、時間だから全員休憩するぞ」
ゴウリュウの呼び掛けにようやくだと彼らは荷物を置いて各自昼食を取ろうと腰かける、午後の仕事を考えつつもゴウリュウは時計を見ては落ち着きが無い様子で仲間達は毎度のことなのにと笑みが溢れそうになりながらも知らぬふりをして先に昼食用に持ってきていたエネルゴンを食べた
そうしている間に一つの小型船がやってきて少し離れた場所に止まったのをゴウリュウは大股で近付く
「ゴウリュウさんお待たせ」
「別に待ってねぇさ、それより道中何も無かったか?怪我は、変なやつは」
「もう毎日大丈夫ですよ、それより休憩が終わっちゃうからご飯食べなきゃ、今日も持ってきてないんでしょう?」
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべて自身のランチボックスと小型船に乗せてあるエネルゴンを手で叩いてゴウリュウを昼食に誘った、地球での生活を始め互いに異なる生活となった為に二人の時間は随分減ってしまい不満を感じるものの仕方が無い事だった、ゴウリュウたちの仕事には人間達もいる為一時間の休憩が義務付けられている、たかだか一時間では彼女に会いに行くこともままならなかったが先に耐えられなくなったのは彼女でジャンから小型船の操縦を教えてもらい今のように昼休憩でも同じ時間を過ごせるようになったのだ
この時間この空間だけでゴウリュウは今までに無いほどに幸福を感じていた、きっとこれ以上の幸せは訪れずあと数十年の付き合いだとしても機能停止するその日までこの思い出を忘れることは無いだろうと思いながら自分の向かいで座り食事する彼女に思った
「もうそろそろ休憩も終わりだな」
「残念、もう少しお話したかったのに」
「また仕事終わりに迎えに行ってやるから我慢しな」
「楽しみにしてます」
そういって彼女がまた去っていくのを眺めながらゴウリュウは自然とフェイスパーツが緩んでいく、バイザーを付けている為表情が分かりにくいとはトランスフォーマーの一部はよくいわれるものだがゴウリュウの表情のわかり易さといえばなんのことポーカーフェイスのひとつが出来るようにならねばならないのでは無いのかと反対に心配されるほどだろう
だがそんな今の現状に満足しているのはゴウリュウだけである、彼女は違っていたあの日あの時宇宙で互いの安否確認し安心しきったゆえに重ねた唇の感触を忘れられずもう一度と願っていた
それはひとえに彼と口付けを交わしたいなどという単純なものではなくゴウリュウともう一歩先の関係に進みたいと願っている、そう"恋人"としてだ、だが中々に彼は素直にならず上手く進まず結果としてもう地球に滞在してそれなりの月日が経過するというのに二人は未だ仲間のままだった
では彼女からゴウリュウに伝えればいいのでは? というと彼は大層難しい男であり、あの日以降もう一度二人が結ばれそうになった時ゴウリュウは彼女を物理的に離して「俺じゃダメだ」と告げた
彼が単純に彼女の幸せを願っていることは理解していたものの納得はできなかった、もっといい男がいる。そのうちいい出会いがある。お前はまだ若い。まるでいってることは中年親父が女子高生に迫られた時の断り文句のようでありそれでも迫ろうとすれば彼はその身体を縮めてしまい酷く苦しい声で「俺じゃ、ダメだ」といった
「本当にもう難しい人」
このままじゃ本当に誰かのところに行ってしまうよと仕事場に戻ってきては思わず呟いたがその言葉を拾う者は誰もいない、地球が平和になった上に何も縛るものは無いのだからいい加減…と考えつつコンピューターを睨みつけ仕事をしていれば通信が入りすぐさま応答する
「久しぶり調子はどうだ」
「お蔭さまでやっています、どうかなさいましたか?健康診断の結果が気になるとか?」
「良してくれ俺はまだ健康的だぜ」
スターセイバーが退任したいま現在銀河第一方面軍総司令官となったブラッカーからの通信であった、冗談を言いつつ笑い合うものの珍しく通信をしてくるのだから何かしらあったのだろうと問いかければ彼は少々難しい表情を浮かべた
「第二方面軍の方が近頃軍医が不足しているようでな」
「あそこはまた激化してきたと報告書にも上がっていますもんね」
「それで、君さえ問題なければ手を貸してやって欲しい」
もちろん無理にとは言わないというブラッカーに彼女は押黙る、異動となれば当然暫く地球に戻ってくることはなくゴウリュウとは自然と離れることになる
彼女がゴウリュウを想うことを知っているブラッカーはもう一度「無理にとは言わないが、そういう話もあると考えてくれ」と言い残し通信を切ってしまう、決して強制でないことを理解している彼女は今この平和な地球でトランスフォーマーの軍医としての自分は不要だということを知っていた、どうしたものかと悩みながら目の前の黒いモニターを睨むもそこに答えは書いていなかった
「腹でもいてぇのか?」
「え?あっそんな事ないですよ」
「難しい顔してしんどいなら今日は早く帰るか」
「うっううん、大丈夫」
ゴウリュウの言葉に思わず顔を上げた彼女は作り笑いをした、昼頃に伝えられた内容が頭から離れず毎日恒例となった夜の二人の時間に集中出来ずにいた
仕事を終えたゴウリュウは毎度彼女を迎えに来ては家まで送ってやる、その途中にある星の見える場所で二人はいつも話をして穏やかな時間を過ごしていたが彼の隣に座る彼女は手の届かないどこかの星に移動するのかと考えれば気が沈んでしまう、毎日この時間が何よりも好きだと思う彼女はこの日々もなくなるのかと思えた
「俺に言えねぇ悩み事か」
静かな声が降り注ぐ、ふと星を見る瞳を動かせば赤いバイザー越しのカメラアイは真剣に彼女を見つめていた、言えないという訳では無いが万が一を思い彼女は答えを出せなかった
そんな彼女に何を思うのかゴウリュウは後ろに手をやり空を見上げた、宇宙にいる頃ただのゴミに見えたそれらもこの星に来ればこんなにも美しいものにみえる、そして隣にいる彼女はもっと美しいと感じられ地球という星は素晴らしいものだと彼は感じた
「言いたくねぇなら言わなくていい、けどお前さんが思う方向に足を進めろ、それは決して間違いじゃないはずだ」
仮に間違いだとしてもそれを正解にしてやるとゴウリュウは告げた、彼女の悩みは分からないがただ惚れた女の為ならば彼はなんだってしてやりたいと思うのだ、自分が幸せにできずとも支えてやりたいと
そんな彼の強い言葉に彼女は腹を括り震える声で今日ブラッカーから通信があったのだと告げる
「第二方面軍の方が軍医を求めてて、それで来ないかと」
「あっち方面はまだ続いてるのか、大変な事だな、それで行くのか?」
行くだろうとゴウリュウは思った、デストロンに似合わない正義感と優しさを持つ彼女ならば傷付く存在を捨て置けないと知っていたから
それでいい自分のそばよりももっと彼女が望む場所はあるはずだと、ゴウリュウはスパークが痛む感覚を味わいながら言い聞かせた、あぁそれでも離れるのは恋しいものだと丸く輝く月を見つめていれば隣から嫌な音が聞こえた、すすり泣く彼女の声だった
「なっなんで泣いてんだ、そんなに嬉しい事だったのか、よかったな」
「違う、違うの私…私、ゴウリュウさんと離れたくなくて」
でも貴方はそうじゃないから。といわれてはゴウリュウのありとあらゆる機内回路が嫌な音を立てて動き回る、そんな訳があるかと怒鳴りつけてやりたかった。出来ることなら行かないで欲しいずっとこの時間を過ごして欲しい出来ることならば自分の傍にいて欲しいと願っていたがそんな事を言える義理はない
「貴方が行くなって言うな私何処にも行きません、ずっと貴方の傍にいます、ずっと…ずっと、傍に居たい」
寝ても醒めても、月が沈んでも太陽が昇っても
ゴウリュウさん…とあまい優しい声が聞こえゴウリュウは堪らず彼女を抱き上げて胸に押し付けた、彼女の耳に聞こえるのは機械が激しく動き回る音であり表面温度は徐々に上がってきていることに気付く
「俺は何かを言えるような立派な奴じゃねぇ、だけど一つだけお前に頼めるのなら何処にも行かないでくれ、俺のそばに居てくれねぇか」
彼の声も彼女を抱く指先も震えていた、恋人でもないただの一人の男である自分が何を願っているのだと思いながらもそうしなければ彼女は行ってしまうと理解した
例え特別な関係になれずとも今のままでも構わないがただひとつ、離れずにいてほしいとだけ願う、俯くゴウリュウの頬にちいさな細い手が触れる、何度も彼を治してきたものだ、細くか弱くちょっと力を入れずとも簡単にその手を使えなくすることが出来るのにまるで太陽にように暖かく大きな手だった
「やっと言ってくれた」
手の中で立ち上がる彼女に危ないという前にゴウリュウの唇にやわらかい何かが触れる、カメラアイいっぱいに彼女が広がり離れていく
赤く腫れた瞳は月明かりに照らされて輝いて彼を捉えた
「私ゴウリュウさんの事が好きです、だからあなたの言葉を聞かせてください」
「待ってくれそれはまた話が違うというか」
「そうじゃなきゃ私行っちゃいますよ?次帰って来れるのいつかなぁ…もう無理かなぁ」
「それはズルいだろうよ」
手の中でうーんと顎に指をあて悩んだふりをする彼女は楽しそうな表情をしておりゴウリュウの言葉などなくても理解していたはずだった、けれど曖昧なままではきっと今のまま上手く進まずまた衝突すると分かっていた、だからこそ彼の言葉を欲するのだ
ねぇ、ゴウリュウさん。
あまい砂糖菓子のような声はむず痒いのか心地いいのかゴウリュウは唸り続けたあと観念したように彼女を見て短い三文字を絞り出した
好きだ
その言葉に彼女は嬉しそうに微笑み「私も」と答えまた硬い唇にやわらかい唇を押し付けた
「ですので申し訳ございません」
「いや何だろうと思って他に頼んでいるから気にしないでくれ」
「分かっていたのにあんな悩ましい事を言ってきたんですか?」
「まぁ許してくれ、ジャンの奴が困ったように連絡してきてたから手助けをしたまでさ」
ジャンといわれて少年の顔を思い出す、確かに彼が年下であるにもかかわらず随分と愚痴を聞いてもらっていたと思い出して苦い顔をすればブラッカーは「どうぞ末永くお幸せにな」と告げて通信を切ってしまう
ふぅ…と一息ついた彼女は時計を見てジャケットを羽織り入口に向かえばちょうどやってきたゴウリュウはひと仕事終えた姿で立っていた
「お待たせしました」
「おう、今日は見せたいものがあるからいくぞ」
なんだろうと思っていれば一つの大きな建物の前で彼は足を止める、彼女はゴウリュウの手の中で何度か彼とその建物をみては下ろしてもらい玄関ポストをみつめた、表札には二人の名前が彫られており驚くもののまだそんなもんじゃないとゴウリュウは彼女の手を引いてその建物内に足を踏み込む
「ねぇこれどうしたんです」
「作ったんだよ」
「どうして」
「そりゃあお前と俺で住むためだ、今のお前の家じゃ住めねぇだろう」
そういわれて確かに普通の人間のアパートに住まう彼女はそれはそうだがらまさかこんなものを用意されているかと思わず驚くもののゴウリュウは気にした様子はなく家の説明をした、耐震に耐水耐火地下シェルターに食料庫にという彼に仕事がある中でこんなに立派なものをと驚くものの彼は気恥しそうに「アイツらも手伝ってくれてな」といった
アイツら、といった存在が何者であるか言わずとわかる彼ら恐竜戦隊の面々であった、建築になれた彼らは家の間取りやら水周りやら配線などよく考えて作られており部屋の中にはもう一式人間とトランスフォーマーサイズの家具が揃っていたためどこで入手したのかと問えばカクリュウが働いている遊園地の社長の知り合いの家具屋から譲ってもらったという
「こんなしてもらっちゃって私何も返せませんよ」
「馬鹿いえ、見返りが欲しくてするやつがあるか」
「でもこんな」
「そばに居てくれたらそれだけでいい、人間の寿命は短いんだろ?終わるその時までただ隣に居させてくれ」
ゴウリュウさん…と呟く彼女を抱き上げて彼はそっとその顔を寄せた時何度が触れてきたはずの感触とは異なるものが押し付けられ思わず見つめればゴウリュウの唇には彼女の手が押し付けられていた、何事だと思うものの彼女はいたって普通の表情をした
「あの…私もう人間じゃないんです」
「は?」
そういえばデスザラス様以外には伝えていなかったのかと思い出したようで彼女は自身がもう人間ではなくサイボーグであることを告げた、そのため歳を取らないしトランスフォーマーのように寿命がないのだという
何故そんなふうにと思うも彼女は悪びれもなく皆とずっと居たくて。と告げるもので彼女のその行動力の強さには驚きを隠せずにいる
「人間でない私は嫌ですか?」
不安げな彼女にゴウリュウはそんなわけが無いとその手を退かせて口付けるも体格差故に唇ではなく顔全体に唇を押し付けるような形になってしまい不器用な自身を恥ずかしく感じれば嬉しそうに彼女は微笑んだ
「ずっと一緒に居られるなんて思っちゃいなかったからな、嬉しすぎてどうしようも無くなっちまいそうだ」
照れくさそうにそういったゴウリュウに堪らず飛び付いて今度こそやわらかい唇を押し付けた、そして彼を見つめた彼女は心底愛おしそうにいう
「大好きだよ、ゴウリュウさん」
END
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