Memo
2018/02/03 01:53
弱いヘクトール
と強気(不安)な彼女
「どこまで馬鹿にしたら気が済むのよ」
大きな声を荒らげて乾いた肌の音がした、じわじわと痛む頬と目の前の女、あぁ怒らせたんだっけか、まるで他人事のような考えで見つめた
「…いったいなぁ」
イラついているところを更にえぐる、これが初めてではないのは彼女の言葉で良くわかることだ
理由は多数女遊びにギャンブルに待ち合わせの遅刻にデートの忘れ、数えてはキリがないそれでも七年も付き合うあたり恋人として我慢しているこの女だって性格を疑った
人通りの多い広場の真ん中で禁煙だと書かれた看板を無視してタバコを吸いながら彼女を見た
この日のために仕事を頑張っていつもと違うデートのための服装をして、メイクもして
そして4時間半この広場で待っていた、帰ればいのに。と言いたくもなる
「香水の匂いも、タバコの匂いも貴方のじゃないのくらいこの際どうだっていいわよ」
こりゃまたすごい、なんて内心煽って不真面目に話を聞いた
そもそも12個という一回りの年の差の男とよく付き合う気になったなと思えた、IT企業で仕事をする彼女と出会ったのは機械の配線修理の時だ、案内をしてお茶を出す彼女の印象は足の綺麗なエロい女、その程度
「じゃあ何がダメなわけ?」
「あなたの存在」
「うわ、おじさんナチュラルに傷ついちゃう」
「何殺されたい?」
足にまでイラつきが到達してるぞと言いたくもなるほど足を鳴らしていた、睨みつけてくるキツめの瞳も、怒っているとアピールする眉毛の形とへの字の口
「デートしないの?」
「する」
取り敢えずそう聞けば手を取られる、健気だなと思いつつもどうして未だにそばに居るのか理解ができない
キスをしても抱きしめあっても心を動かされるのは自分だけなのだと思えて怖かった
あいにく女は後を絶たないくらいには寄ってきた、それに甘えて彼女がいつ逃げるのか恐ろしい賭けをし続けている
その賭けに負けた時自分は男のプライドも投げ捨てて地面に頭を擦り付けて、彼女の腰に両腕を巻き付けて「いかないでくれ」だなんて言うのだろうと分かっていた
正直それくらい好きで、それと同じくらい不安だった
「ねぇヘクトール」
「ん?」
「別に私あなたが好きなんだから、不安にならなくてもいいでしょ」
わかっていた彼女はそう言った、帰り道の車の中で運転をする彼女は綺麗だ
どうしようもないのはわかっていながら直せない癖となった
「まぁでもいいわよ、しっかり帰ってくるなら…あんたの居場所は私の隣があるんだから」
赤信号で止めたと同時にそういうものだから目を丸くする、ここまで言うほどに執着してもらえてはいたのかと
「 」
ようやくこの日のデートで名前を呼んだ気がして、振り向いた彼女の唇を奪う
後ろの車のクラクションが鳴らされて急かされる、頭を軽く殴られようやく離れた唇が名残惜しく見つめれば、妖艶なその細められた瞳が横目に男を映す
「なにかしら?ヘクトール」
あぁ年甲斐もなくそんな女が好きなんだ、そうまた今日も思う。
prev / next