南方がその日バレンタインだと気付いたのは職場に来て女性陣から渡されてからの事だった、朝一緒の家から出ていった恋人は普段通りで家の中にはカカオの匂いひとつもしなかったものでまぁあの女はいつもの事だと気にした様子もないが貰ったチョコレートはどうするか…と考えたものだった

「甘いの苦手やしなぁ」

ひとりごちりながら南方は明らかに安くはないチョコレートに蛇な感情が1mm程度ある人間もいるのだろうと察する、キャリアエリートの男の横を取りたがる人物は少なからずいるが自分の隣に立つ女はそんな女でもなかった
そうこう考えているうちにやってきた都内の人気だけなら1.2位を誇れるほどの店に来ては甘い匂いに胸焼けを起こす

「あーその限定のヤツとチョコレートのあぁそれです、1時間くらいで」

愛想のいい若い店員に伝えて箱の中に詰め込まれたケーキを片手に自宅に帰る、まだ暗い家の中で珍しく帰ってきてないのかと察して風呂の用意や夕飯の用意をしていき貰ったチョコレートは隠すように冷蔵庫の奥にしまい込む

「ただいま」

少し低い女の声が聞こえて帰ってきたなまえをみて「おかえり」と返事をしてやる、彼女の手にも会社で貰ってきたらしいチョコレートの袋が数個あり受け取って冷蔵庫に入れてやる

「風呂湧いとるから入っておいで、わし飯作っとくから」

「疲れてるのに有難う、お言葉に甘えて入ってくるね」

優しく微笑んだ彼女に何年付き合ったとしても見惚れつつ夕飯の準備を進める、ようやく完成という段階で上がってきた彼女が皿やお箸の用意をしていきお互いに少し遅い夕飯を取り合う、ふと互いに食事を食べていた際バレンタインを忘れていたという話をすればどうやらお互い様だったらしく苦笑した

「やからケーキ買うてきたわ」

「うそ…普通私が用意するものだと思って買ってきちゃった」

隠すように玄関に置いていた彼女が持ってきた箱は同じケーキ屋の全く同じケーキで思わずおかしくて笑ってしまう

「どうせ恭次こんなのしか食べないからって思って選んだのに」

「バレンタイン限定のや言うからなまえ好きそうやなおもたんじゃ」

「会社の子から貰ったチョコレートどうするの」

「あーあれはまたゆっくり食うていこか」

「取り敢えず今日は食後のケーキ楽しもうね」

お互いきっと若くないから明日胃もたれしてるよ、なんて彼女が言った言葉に少し想像して胃が痛くなる、だがしかしバレンタインはそういった甘さで出来たイベントだと理解している為これもまた2人の愛情だと言い訳をしつつ目の前の夕飯を胃の中に隠していくのだった。

南方


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